1.「偶然の再会」

俺が体育館で暴力事件を起こしてから数週間が過ぎた。
事件を起こした数日後に部活へと戻ったが俺は正直戸惑いがあった。
あんなことをした俺を赤木達は本当に受け入れてくれるのだろうか?
そんな不安を抱えて体育館へと足を踏み入れた事を、俺は今でもよく覚えている。
けれど、そんな心配は不要だったかのようにバスケ部の皆は俺の事を受け入れてくれた。
その時、俺は誓ったんだ。コイツらや先生のためにも全国大会に連れていくと。
俺はその思いを胸に練習の日々を過ごしていた。

IH予選を2日後に控えた俺は練習を終えると一人自宅へと続く道を歩く。
夏はもう目の前まで来ているが、いつもなら少し肌寒いくらいなのに今日は日中暑かったせいか夜なのに熱気が残っていて蒸し暑かった。
早く帰って冷たい麦茶でも飲みてぇな。なんて考えながら歩いていると

「・・・三井君?」

先程すれ違った人だろうか、俺は名前を呼ばれて立ち止まる。
相手の顔を見ようと目を凝らすが、夜9時も回っていて空はすっかり暗く相手の顔が良く見えない。
誰だ?と怪訝そうな顔をすると相手はそれに気づいたのか俺が立っている傍までやって来る。
丁度街灯の下に来た相手の顔をマジマジと見るとそこには見知った顔があった。

「・・・名字か?」
そこにいたのは中学時代の同級生の名字。
中学で陸上をやっていた彼女は全国大会に出るくらいの選手で、俺と同じくちょっとした有名人だった。
当時は短かった髪も今はロングにしていて見て直ぐには誰だかわからなかった。

「うん、そう。やっぱり三井君だったんだ!」
「あぁ久しぶりだな。元気だったか?」
「うん。私は元気だったよ?三井君も元気そうだね。」
彼女は俺が今までどうだったか知らないのだろう。笑顔で話をしてくれた。

「こんな時間に一人でうろついてどうしたんだよ。」
「あ、うん。ちょっとそこのコンビニに行こうと思って」
「コンビニ?それならもっと明るい時間に行けよな?」
そうケラケラ笑いながら俺が言うと、
「確かにそうだね。けどさ、急にない?”あーアイス食べたいな!”って時!」
「まぁ、あるっちゃあるけど・・・」
「それが今だったってわけ!」
あははと笑って言う彼女に俺は少し飽きれた顔をした。
本当に相変わらずな奴だ。
有名人のくせにそれを全く鼻にかけることもなく、クラス全員と仲がいいんじゃねぇか?ってくらい、明るい彼女の周りにはいつも沢山の人がいた。見る限りそれは今も変わらないようだ。

「じゃぁ、私行くね?」そう言うと歩き出そうとする名字に、「俺も行く」と言うと並んでコンビニへと歩いていく。
まぁ純粋にあぶねぇからってのと、アイスって聞いたら俺も食べたくなったからなんだけどな。

コンビニに入るとエアコンの涼しい風が体に当たって汗ばんだ体が冷えるのを感じる。
名字と並んでアイスを見ていると俺たちの近くを通った人から汗臭い臭いがしてきた。
てか俺もしかして汗臭かったんじゃ・・・と今さらなことを思ってクンクンと自分の匂いを嗅いでみたりしていると

「三井君は何買うの?」とアイスを見つめていた名字は、急に俺の方を見て言ってきた。
急に声を掛けられて驚いた俺は心臓がバクバクいっている。
もし、万が一あんな姿見られたらと思ったら急に恥ずかしくなって俺は少し顔を赤くすると言葉を発せないでいた。
そんな様子を見て「どうしたの?」とキョトンとした顔で聞いてくる。
「あ、いや・・・」と答えると、名字は、「変なの。」といって笑うと再びアイスを見始めた。
どうやら先ほどの俺の行動は見られていないようでホッとする。

なんとか気分を落ち着かせ俺も再びアイスを見る。
今日の気分はガリガリ君だな。と手を伸ばすと
「あー三井君もそれ?私もなんだ!」といい俺と同じアイスを名字は手に取った。
「おいしいよね。これ。」
「おお、やっぱ夏と言えばこれだよな!もちろん味はソーダ味!!」
「そうそう!やっぱガリガリ君はソーダに限るよね!」
俺は笑顔でそういう彼女を見るとふと違和感を覚えた。
何かが違う。なんだ髪が長くなったせいか?いや、大人っぽくなったってことだよな・・・。
なんせ会うのは3年振りなわけだし。と、一瞬疑問に思いつつもそんな思いを直ぐに吹き飛ばした。

気を取り直して俺は名字が持っていたアイスをヒョイっと取るとレジへと並ぶ。

「え?ちょっ・・・」
「今日は久々に会ったし奢ってやるよ!」
「でも悪いよ。コンビニまで付き合って貰っちゃったのに・・・むしろ払わないといけないのは私の方だよ」と遠慮してそう言う名字に
俺は、「いーからいーから。黙って奢られろ!俺もアイス食いたかったしちょうど良かったしよ」と二カッと笑い言うと名字に笑顔を向けた。

***

コンビニから出ると先程買ったガリガリ君を食べながら俺たちは並んで歩く。

「三井君はバスケ続けてるの?」
「おう。もうすぐIH予選なんだ。」
「そっか。じゃあ今は追い込みってとこ?」
「まぁそうだな。チームとして出来上がったのも最近だし、今は調整してるって感じだな」
「へぇー上手くいくといいね!試合頑張ってね!!」
「おう。」
アイスを持っていない方の手で名字がガッツポーズをすると、俺も返事をしながら同じくガッツポーズをした。

話しているとお互いアイスを食べ終える。
棒を袋の中に入れようとすると、俺の棒に”あたり”と書かれてるのが見えた。
俺は”いい事思いついたと!”とひらめいて、さっと棒を袋の中にしまうと何食わぬ顔で彼女の隣を歩く。

暫く行くと彼女の家が見えてくる。

「三井君ここで大丈夫だから。今日は久々に会えて楽しかった!じゃあ、またね!」そういい笑顔で家の方に向かおうとする名字を俺は呼び止めた。
「ん?何?」と振り返ってこっちをみる名字に近づくと、彼女の持っていたアイスの袋と俺も持っていた袋を交換する。
「え?どうしたの三井君。」と、名字は訳が分からないとという顔をしてたから俺はニヤッと笑うと「その袋にはすげーもんが入ってる」と告げると、ますます訳がわからないと言いたげな顔をして名字は袋から棒を出すと「うそ!あたり?!初めて見た!!!」と興奮したように言ってきた。

「それ、やるよ」
「え?これ、三井君の・・・」
「いいからいいから。名字と会わなかったら食ってなかったんだし、お前のもんのみたいなもんだ。黙って受け取れ」
そういうと、申し訳なさそうな顔をしながら「ありがとう」といって彼女は受け取ってくれた。

「じゃあな名字会えて楽しかったぜ」そういい自分の家に向かおうとすると、
「三井君!」と今度は俺が呼び止められ振り返る。
「なんだ?」
「あのさ、アイスのお礼っていたら変だけどバスケの応援に行くよ!1回戦はいつ?」
「あー、1回戦は平日なんだよな。」
そう1回戦は平日に行われる。バスケ部の俺たちはいわゆる公休となる。
彼女はバスケ部でもない上、同じ学校でもない。
見に来てくれるのは嬉しいけど仕方ねぇよなと心の中でため息をつくとそう答えた。

するとそんな俺の心の内を読んだように名字は、「そっか。じゃあさ土曜に試合はないの?」と再度俺に聞いてきた。
土曜か・・・と俺は言われてどの試合だったかなと考えてみた。それは4回戦。決勝リーグに行くための大事な試合だった。
けれどそこに行くまでには勝ち上がらなくてはならない。勿論、俺は勝つつもりだが万が一ということもある。
何て答えようかと迷っていると

「私、三井君なら勝つって信じてるから。ね?そうでしょ?」彼女は俺が勝つのが当然という態度でそう言った。
そんな彼女の姿に俺は嬉しさを感じる。だから俺は余計な考えを止め、彼女の質問に答えた。

「おお。来週の土曜が4回戦だ。」
「わかった。じゃあその日に見に行くね!約束だからね!」
そう言って彼女は「またね!バイバイ」といい家の中へと向かっていった。

彼女が家に入るのを見送ると今度こそと自分の家へに向かって歩き出す。
名字がくるんじゃますますなんとしてでも勝たねーとな。と俺は意気込むのであった。



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