7日の彼女;stage of the choice 俺たちは再会してからマメに連絡を取るようになっていた。 そんなある日。 俺は、急に休講になり午後から時間が出来た。 最初は家に帰るかなんて考えながら駅へと向かっていたが、そうだ!折角だしあの店行ってみるか! と以前より気になっていた店に行こうと思い立った俺はいつもとは反対方向の電車に乗った。 電車の吊革につかまりながらボーっと景色を眺めていると あ、そういえばあの駅は名字さんの大学の近くだったよな・・・。とふと思い出した俺は、 カバンの中から携帯を取り出すと発信ボタンを押そうとしたが思い手を止めた。 「今は授業中だよな・・・まぁ返事は夕方までに貰えばいいか。」 と思い直しメールを打った。 ブーブー そのころ、大学の講義中メール受信を知らせる音が鳴ったのを聞いて私はカバンから携帯を取り出した。 受信メール:藤真健司 授業中に悪い。 今日名字さんの大学の近くに行くんだけど時間があったら夜にご飯でもどう? 藤真君から食事の誘いのメールだった。 私は夜は何もなかったし・・・そう思い食事の誘いを受けることにした。 *** 俺は用事を済ませ彼女との待ち合わせ場所である駅へと向かう。 到着すると既に彼女は俺を待っていた。 「お待たせ。待たせて悪いな」 「ううん、大丈夫。今、ついた所だから」 「それじゃ行こうか」 そういうと彼女は俺の隣に並んで歩き始めた。 彼女は、白いカッターシャツに大きめな花柄のタイトスカートにヒールを履いていた。 比較的背の高い彼女と俺が並ぶと丁度10センチ位身長差があるが今日は高めのヒールのせいか 俺との距離が近く感じる。 そんなことを考え彼女を見ていると 「ん?どうかした?藤真君。」 「え?いや、なんでも」 「そう?」 「ああ。あ!ほら!あそこに見える店、連れてきたかったとこ!」 やば。気づかれてたか・・・。 俺は内心ヒヤッとしたが平常心に戻し、丁度よくついた店の方を指さしてごまかした。 「へーこんなところにお店があったんだね」 「だろ?俺もさ、実は今日歩いてて見つけたんだよ」 そこは、隠れ家的な存在のバーでお酒の種類も豊富だし、ネットで見る限り評判も上々だようだ。 店は地下にあり、階段を下りていく。 木で出来た少し古ぼけたドアを開けると感じのいいマスターが出迎えてくれた。 カウンターに案内された席に座ると、俺はジン・トニックを、彼女はコアントロー・トニックを注文する。 注文したカクテルがそれぞれ置かれると俺たちは乾杯して一口くちを付けた。 「わぁ、おいしい」 「そうだな。うまい!」 彼女が笑顔で言うと俺もつられて笑顔になる。 マスターは俺たちの言葉を聞くとありがとうございますといい会釈をした。 それから俺たちは、軽く軽食を取りながらたわいもない話をする。 なんだか普段連絡は取り合ってるけど、こうして会うのもあの日以来で彼女の魅力の虜になりそうだった。 時々組み替える足、グラスをもつ細い指、そしてグラスの淵につける唇。 全てが俺の心を鷲掴みにした。 1時間以上が経った頃、彼女の”なんか甘いものが食べたいな”その一言によって、 すっかり仲良くなったマスターに勧められた喫茶店へと向かうことにした。 *** 「ここだね!」 勧められた店に入ると、こじゃれたインテリアに囲まれてなかなかリラックスできそうな処だった。 「藤真君は甘いものは好き?」 「あーそんなに。けど、甘すぎないのならいけるぜ?」 「なら、ちょうどいいかも!マスターが言ってたけど甘くないパンケーキがあるんだって。」 どうやら俺が席をはずしている間に、バーのマスターに色々聞いていたことを話してくれた。 店員が注文を取りに来た時に俺たちはマスターお勧めの種類が異なるパンケーキをそれぞれ注文した。 「そういえば花形君って幼馴染の子だっけ?まだ付き合ってるの?」 「ああ、浅海だろ?」 「そうそう。」 「付き合ってるよ。この前俺たちと会った時も電話かかってくんだぜ?束縛強いからな。浅海は」 「へぇ。そうなんだ。けどすごいね、そんなに長く付き合ってるなんて。」 「だよな。俺なんかとは大違い!ほんと器用だよ花形は。」 「そうなの?藤真君には藤真君の良さがあるじゃない。」 彼女は俺に笑顔を向けてそういった。 話をしていると注文したパンケーキが運ばれてくる。 俺には甘くないプレーンなパンケーキを、彼女はイチゴやクリームが乗ったパンケーキを頼んでいた。 「じゃあ、いただきます」 「いただきます」 丁寧にナイフとフォークでパンケーキを切ると1欠片を口に入れる。 「わぁおいしい!!」 幸せそうな彼女の姿をみて来てよかったなと俺は思った。 「名字さん、こっちも食べてみる?」 「え?いいの?じゃあ、私のも!」 俺の注文したパンケーキの皿を彼女の前に差し出すと、代わりに彼女も俺の前に自分の皿を差し出す。 交換した皿を眺めると嬉しそうに1欠片をフォークで刺して口へと運ぶ。 「こっちもおいしい。マスターいいとこ知ってるね!」 満遍なく笑顔をこぼして彼女は言った。 *** 帰り道。 俺たちは家の最寄りの駅で降りると2人並んで歩き出した。 「おいしかったね!バーもすごくよかったけど喫茶店もよかったな。」 「そうだな。どっちもいい感じだよな!」 「まさか、うちの大学の近くにあんないい店あったとは・・・」 「なんだよ。散策とかしねーの?」 「するよ?けどさ、知らないところより知ってるところに通っちゃってなかなかね」 「まぁな、気持ちはわかるよ」 そういって2人して笑いあっていると 「あ、そういえば藤真君、今日はどうしてこっちへ?」 彼女の大学の最寄り駅はほとんど地元の人が彼女の大学の生徒くらいしか降りない場所で、俺がここに来たことを疑問に思ったらしい。 「ああ、実はこの近くにセレクトショップがあるんだ。ビンテージものを取り扱った店。」 「・・・あ!もしかしてあそこ?駅の反対側の小道の先にある青い看板のところ。」 「そうそう、そこ!」 「そうなんだ。実は前から気になってたんだけど入ったことはなくて・・・」 「そっか。・・・じゃあさ、今度は一緒にどう?」 なんとなくまた会いたい。そう思って次に会う約束を取り付けるべく俺は彼女を誘ってた。 「うん、ぜひ。」 彼女はクスリと笑うと誘いにのってくれたのだった。 |