7日の彼女;Stage of the evaluation

あれは確か俺が就職の内定の連絡を受けた日だったろうか。
”バスケは大学まで”そう決めていた俺は、3年の終わりから就職活動を開始した。
それから大学4年になって数か月後、ようやく希望していたスポーツ関連会社の内定を取ることが出来た。
内定が出るまで軽く20から30を受けただろう、その日浮かれていた俺は気のいい仲間たちと飲みに行ったんだ。

「ようやくだぜ。花形ぁ〜」
「ああ、よかったな藤真。」

飲み過ぎたのか千鳥足になって同じことを何度も言いながらふらふらと歩く俺を、少し飽きれた目をしながらも介抱してくれる花形。

ブーブー
俺を支えていた花形のポケットに入っていた携帯電話は激しく震えた。

「藤真。ちょっと悪いな」

花形は、携帯の着信相手を見ると直ぐ俺に声を掛け、支えてくれていた腕を離した。

「おお〜なんだ、花形。女か?いいよなーおまえはよぉ」

俺はたっぷりの皮肉を言うと立ち止まって話している花形をよそに相変わらずフラフラしながら歩いていた。
高校も、大学もバスケに夢中で彼女が出来ても数カ月で付き合っては別れるの繰り返しだった俺に対し、
花形は、幼馴染と高校から付き合っていて今も継続中。
まったく何でも起用にこなすよな花形は。そんな悪態をつく俺は酔っていたこともあり前など見ていなかった。

ドン

どうやら誰かにぶつかったらしい。
相手は、衝撃でその場にしりもちをついた。

「あ、すみません」
相手に謝罪の言葉を掛け手を差し出すと顔を上げた相手と目があった。
ロングヘアーの切れ長の目をしたキレイな女性だった。

「もしかして藤真君?」
彼女は驚いた顔をして俺に向かって訪ねてくる。
けれど俺は、ん?俺の名前知ってるのか?けど、こんな知り合い居たっけ?
酔った頭をフル回転してもすぐにはピンとこなかった。

「そうだよね。私たちあまり話したことなかったしね。」
立ち上がらせて手を離すと、クスリと笑いながら言った彼女の顔をマジマジと良く見る。
あれ?どこかでみたな・・・確か・・・

「あ!もしかして名字さん?」
「うん、そう。久しぶりだね。」

ようやく絞り出した彼女の名字。
彼女は高校の時3年間同じクラスだった子だ。
物静かな子で、あまり話したことはなかったけど大人っぽい横顔がとても印象的だった。
実は少し彼女の気になっていた時期もあったりした。
本当に変わったな・・・すごくキレイになった。
高校の時も既にキレイだったけど、今は子供っぽさも抜け、
歩いていれば大抵の男は振り返るんじゃないか?って感じの美人だった。

***

「まさかあの名字さんとはなー」
「ほんとだな、印象変わるな。大人っぽくなったっていうか・・・」
「あはは。2人も前以上にかっこよくなってるね」

電話を終えた花形が俺たちを見つけて合流すると、せっかくだしどこかで話そうという話になって近く店を探す。
時刻は既に0時近くになっていて開いてる店も少ない。飲み屋に入るのもなんだか気が引けてファミレスへとなった。

「それで、2人は今どうしてるの?」
「ああ、俺は大学で宇宙工学を専攻してて、とりあえず就職せずにそのまま大学院で研究を続けるつもりだよ。」
「藤真君は?」
「俺?俺は大学でも相変わらずバスケをしてたんだけど、今は就活してる」
「へぇーそうなんだ。どう?内定とかもらえた?」
「実はな・・・今日内定が貰えたんだ。」
「ホントに!!おめでとう!!!」
「ありがとう。それで今日は花形達と浮かれて飲んでこのザマ」
「ホントだよ。藤真、飲み過ぎてフラフラ歩くわ同じこと何度もいうわで大変だったぞ」

俺が、なにを!!!と花形に食って掛かるとその様子を彼女はみて楽しそうに微笑んでた。

「それで、名字さんは今何をしてるの?」
今まで俺たちのことばかり話していたので、今度は彼女に問いかけた。

「え?私?私はね、教員を目指してるの。今は教員試験の結果待ち」
「へー教師か。凄いな」
「ホントだな」
「私ね、子供たちにこの先生でよかったって思われるような先生になるのが夢なの」

夢を語る彼女の顔はとてもキレイだった。

それから俺たちは昔の話をしたりしてあっという間に時間は過ぎた。

***

「じゃあ私、こっちだから」
店を出て3人並んで歩いていると彼女は曲がり角で止まり、行く方向に指を指して言った。

「送っていくよ」
「え?大丈夫だよ?ほんのあと5分くらいだし」
俺は送っていくと申し出るが彼女は悪いと思ったのか頑なに断る。
本当は2人で少し話したい。そう思っての申し出だった。

「名字さん、送ってもらったら?」
花形は俺の気持ちを察知したのか、助け船を出す。

「じゃあ、お言葉に甘えて」
漸く彼女は首を縦に振ってくれた。

俺たちは花形と別れると彼女の家の方へと歩き出した。

「ほんと驚いたよな」
「うん。まさかあんなところで藤真君と会ってこんな風に帰ることになるなんて思ってもみなかった」
クスリと笑いながら彼女は言うと

「でも、大丈夫なの?」
「え?何が?」
「・・・その、付き合ってる人とかが怒らない?」
「え?ああ、大丈夫だよ。俺、今彼女いないから」
「へぇー藤真君モテるのにもったいない」

俺がそんなことない。そう答えようと思って話そうとすると
私の家ココだからと言い彼女は立ち止まった。

「今日は楽しかった!送ってくれてありがとね。」
そういうと彼女はマンションの中に入ろうとする

「あ、ちょっと待って!」
俺が呼び止めると彼女はその場で立ち止まり振り返った。

「なに?どうかした?」
「あ、いや。・・・あのさ、連絡先交換しない?たまにはメシでも食べにとかさ。」
俺が連絡先を聞こうとすると、彼女は笑顔で頷き携帯を出した。

「じゃあ、連絡するから。」
「うん。いつでも誘ってね!」
「それじゃあ。また」
「気を付けてね。」

彼女はその場で手を振って俺が見えなくなるまで見送ってくれた。

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