まるで私を見ているようで辛かった。

8.Love Candle

走っていくと、始まるギリギリ時間に映画館についた。
あまりに早かったのか、彼女の息は上がっていた。

「名前ちゃん、大丈夫?」
「・・・あ、・・・うん。・・・平気」
「俺、飲み物買ってくるからそこで待っててね」

俺が飲み物を買って戻ると、すっかり呼吸を整えた名前ちゃんがそこにはいた。

「名前ちゃん。ウーロン茶でよかった?」
「あ、うん。ごめんね?一人で買いに行かせちゃって」
「いいんだよ。それじゃ、行こうか」
私たちはスクリーンへと向かう。
仙道君が取ってくれていたチケットだからどんな映画か分からなかったけど、
そこそこ人もいて私たちは、一番上の端っこの席に座った。

「やっぱり端にいっちゃうよね」
「こういう所が日本人っていわれるのかな」
そういって2人で笑った。

予告がちょうど終わって本編が始まった。
どうやら恋愛映画のようだった。
ダブル主演のもののようで、まずは女性主人公のシーンから始まった。

主人公が留学するところから始まっている。
空港で道に迷った彼女は、同じ国籍の男性に助けられる。
それから偶然その男性と再会し主人公は男性に惹かれていく。
だが、その男性が急に帰国して会えなくなってしまい、後日主人公は男性が結婚したことを知る。

そのあと男性主人公の場面に移った。
主人公の兄が結婚するところから始まっている。その兄は女性主人公の好きなあの男性だった。
主人公は、兄の結婚相手が好きだったが思いを伝えられず、兄と好きだった女性が結婚した様子を見ているのが辛くなった主人公は兄の結婚式を終えた後、留学をする。

その後、女性主人公と男性主人公は恋に落ちていく。
そんな話であった。

男性主人公の話は、まるで私のことを知っている人が書いてるのか?というような内容だった。
映画を見ていて私は涙を堪えることが出来なかった。

「名前ちゃん、大丈夫?」
「え?」
「ずっと、泣いてるよ。」
「へ、平気だよ・・・」
仙道君は私を心配して声をかけてきたけど、
それでも涙を止めることができず映画が終わるまで泣きっぱなしだった。

***

映画が終わると仙道君は、ハンカチを私に渡してきた。

「これ、使って」
「ありがとう」
仙道君は、私が泣き止むまで隣に黙って座っていてくれた。

しばらくして落ち着いた私は
「仙道君、もう大丈夫だから行こうか」
そう声をかけ、映画館を後にした。

映画館から私たちは当てもなくそこら辺を歩いていた。
その間私も、仙道君もなにも話さなかった。

歩いていると公園が見えてきた。
「名前ちゃん、少し座ろうか」
そう仙道君に促されて私たちは公園へと立ち寄った。

仙道君がベンチに腰掛けると、私もその隣にそっと腰かけた。

「名前ちゃん。何かあったの?」
「え?」
「男性主人公の話になってからずっと泣いてたからさ。確かに感動する話だったけど、なんか気になってね」
「・・・」
私はなにも言葉に出せなかった。
心臓がバクバクいって仕方がない。

「名前ちゃんが話せないなら無理には聞かないよ。」
「・・・。」

それから仙道君は何も話さなかった。
私が何か言うのを待っているようだった。
少し落ち着いた私はようやく口を開いた。

「あの映画の主人公ね?私みたいだなって思って」
「名前ちゃんみたい?」
「うん。まるで私みたいだったの。
私ね、あの主人公と同じで失恋を機に留学したの。内容もほとんど似てて、私にはアメリカに留学していた姉がいたの。その姉が大学卒業を機に日本に帰国して、私が好きだった幼馴染の男の人と結婚した。ずっと前から姉とその人は付き合ってて私には入る隙間がないことは分かってたの。
言っても惨めになるだけだから、姉にもその人にも私の気持ちは伝えてない。だから姉もその人も私の気持ちは知らないの。今まで好きだったその人が自分の義理の兄になって、姉と幸せそうにいるのを見てるのが辛くて、その人への気持ちを忘れたくて、私はここに来たの。逃げてきたのよ、私は。日本からも、姉からも、その人からも」

「そっか。それであんなに泣いていたんだね。」

そういうと仙道君は、私の頭を撫でて

「辛かったね。」

仙道君の優しい声を聞いて涙が溢れだした。
暫く仙道君は私の頭を撫で続けてくれた。
子供をあやすように優しく。ただ、優しく。

少し落ち着いてきたころ、仙道君が口を開いた

「名前ちゃん、俺の話を聞いてくれない?」
私はコクリと頷いた。
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