天才なんて言葉は俺には必要ない。
ただ、目の前の敵を倒すだけだ。

2.Love Candle

あれからジョージとみちるさんは、一緒に寮の案内をしてくれた。

「じゃあ一通り案内も終わったし、俺は帰るよ」
「ジョージさん、ありがとうございました」
「いや、いいんだ。これが俺の仕事だしな。彰!これから頑張れよ!みちる、彰をよろしくな!!」
ジョージは帰っていった。

「ジョージ、いい人でしょ?」
「そうですね。少しドジだけど」
「そうね。私もここに来たとき、ジョージがコーディネータだったの。ずいぶんお世話になったわ」
彼女はクスリと笑うと俺もつられて笑う。

「あ、もうこんな時間。それじゃ、私もそろそろ部屋に戻るわね。
明日、バスケ部に連れてってあげるから朝の9時に玄関で待ち合わせしましょ?」
彼女は時計をみながらそういうと帰っていった。


俺は彼女を見送ると自分の部屋を目指した。
さっき行ったときは会えなかったけど、同室はアメリカ人っていってたな。
どんな奴だろう。

ガチャ

ドアを開けると、女といちゃついている姿が見えた。
俺はマズイと思って思わずドアを閉めようとすると
「まて!そうだったな、今日からルームメイトが来るの忘れてたよ」
ジェニー悪いけど、今日は帰って。そういうと女は俺の横をすり抜けて出て行った。
「ほら、入った入った。」
俺は促されて部屋へと入る。

「俺は、ケビンだ。お前は?」
「俺は、仙道彰。」
自己紹介をすると、よろしくな!と手を出されて俺もそれに答えた。

「俺のベットと机はこっち。彰のはこっちだ。」
「ありがとう。」
俺は、早速部屋の片づけを始めた。
ケビンは雑誌を読みながらベットに腰掛けていたと思ったら、俺の机の方に向かって来ておもむろに写真立てを手に取る。
それは、IHで4位になった時に撮った記念の写真だった。

「おい、彰。」
「なんだ?」
「お前、日本人か?」
「ああ、そうだよ。」
「そうか!お前か!みちるが言ってたのは。」
「みちるって、日本人のみちるさん?」

「そうだ。みちるは新しく日本から来た留学生の世話をしてるんだ。その時、お前の話をしてた。バスケをしている日本人が来るってな。ここは、本人が来るまで誰がルームメイトになるかわからないようになってるんだ。俺は日本に興味があるし、彰がルームメイトでよかったぜ!!」」

「へーおもしろいね。俺もケビンがルームメイトでよかったよ」
正直あんな姿をみせられたもんだから、最初は大丈夫か?と思ったけど、なんとかやっていけそうで安心した。

「そうだ彰。さっき見たことは内緒な?」
「え?」
「あれ、彼女じゃないんだ。とても仲がいいガールフレンドって奴さ」
なんだコイツ、タラしか・・・。
前言撤回。凄く不安だ。


翌日、みちるさんと待ち合わせしている俺は、玄関へと向かった。
玄関のドアを開くとすでにみちるさんはそこにいた。

「おはよう彰君」
「おはようございます、みちるさん。すみません、お待たせして」
「いいのよ。私も来たばかりだから。それじゃ、行きましょ?」
みちるさんはとにかくスタイルがいい。白いシャツに黒の細身のパンツが良く似合う。
すれ違う人が、何度も振り返ってみちるさんをみてた。

「彰君ってモテるのね。」
「え?」
急に何を言い出すんだこの人は?

「だってさっきからみんな振り返ってあなたを見てるじゃない」
そういってクスリと笑う。
いや、俺じゃなくてみんなみちるさんを見てるんだよ。

「日本にいるときもモテたんじゃない?」
「いや、そんなこと・・・」
「またまたー」
みちるさんに、叩かれた肩が熱くなった。


俺がボーっとしてると、後ろからみちるさんを呼ぶ声が聞こえた。

「みちる!」
「あら、マイケル!ちょうどよかったわ!!」
マイケルは、隣に並ぶと俺の顔をジッとみて、みちるさんの腰に手を回した。
「なに?みちるのお願いならなんでも聞くよ?」
うわ。なんだよキザなセリフだな。普通そんなこというかよ。
「じゃぁまず、その腰に回した手を外してくれる?」

みちるさんは、そういうとマイケルの手から逃れた。
マイケルは残念そうにチェっといった。
「まったく。いつもみちるはつれないよな・・・」
「何言ってるの?アイリスはどうしたのよ。」
「彼女とは別れたさ。君の方がいいからね!」
「はぁ。冗談はいいから。それより、彼よ!バスケで留学してきた子は・・・」
そうみちるさんが言うと、マイケルは再び俺の方をみた。

「ああ、君か!全国大会で優勝できなかったっていう日本の天才は」
「ちょっと!!マイケル失礼でしょ?」
「ホントのことじゃないか。どうせ天才ってもてはやされてここに来たんだろ?」

俺は、マイケルの言葉を聞いてイライラしたが、言葉でいってもなんの意味がない。
「じゃぁ、勝負しよう」
「え?ちょっ・・・彰君?」
「そんなに言うなら、俺と勝負しても負けるわけないよね。だから俺と勝負しよう」
「駄目よ!マイケルはNBA行きが決まってる選手なのよ?」
「みちるさん。俺、負けませんよ。例えどんだけ凄い人でも」

俺はみちるさんを見た後、マイケルをジッとみた。
「いいぜ、俺がお前に負けるわけない。」
そうして俺は、マイケルと勝負することになった。


いつの間にかギャラリーが来てたけど、そんなの俺には気にならなった。
みちるさんがみてれば他の人なんて関係ないんだ。

「じゃぁ、1on1な。先に5本入れた方が勝ちだ」
「わかった」
「ハンデやってもいいぜ?」
「そんなのいらないさ」

俺は、マイケルを挑発した。するとマイケルの目は鋭くなった。
「手加減しないからな」
「臨むところだ」


「はぁはぁ・・・嘘だろ?」
結果は、5−3で俺が勝った。

「俺の勝ち、だな。」
「チクショー!!!」
マイケルは持っていたボールを強く叩きつけた。

「これで、認めてもらえますか?」
「・・・わかったよ。」
俺がマイケルに手を出すと、固く握手をした。
これが俺の、ここでのバスケ人生の始まりだった。
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