異国の地で俺が初めて話したのは
髪が長くて颯爽と歩くあなたでした

1.Love Candle

「仙道!向こうに行っても元気にやれよ!」
「仙道さん、ホンマにいかれてしまわれるんですか?わい、もっと近くで仙道さんのプレーを見たかったのに」

俺は今日渡米する。
高2で果たせなかったIH出場を機に、俺は本気でバスケに打ち込もうと決めた。
それから毎日毎日苦しい練習に耐え、高3でようやくIHへの切符を勝ち取った。
結果はベスト4。本当はIHに行けたらバスケを辞めようと思ってた。
けれど掴めなかった優勝。勝てなかった海南への思い。
俺はまだまだだ。ここで満足していいのか?
そんな思いを捨てきれず、俺は渡米することを決めたのだ。

『13:05発 ロサンゼルス行きの搭乗手続きがまだのお客様は・・・』

「それじゃ、みんなも頑張れよ」
アナウンスを聞き、見送りに来ていた仲間たちに手を振ると俺は歩き出した。
これで暫く日本ともお別れだ。
少し寂しい気もしたが、新たな一歩を俺は踏み出したんだ。


約10時間の旅が終わり、空港へと降り立った。
日本とは違うアメリカ。どこもかしこも見渡せば英語ばかりだし、規模も大きい。
俺は、コーディネーターと合流するためタクシー乗り場へと向かっていた。

それにしても広い。送って貰った地図通り歩いてみたもののタクシー乗り場らしきものは見つからなかった。
参ったな・・・。と、貰った地図を眺めていると

「どうかされました?」
背の高い、サングラスをかけた女性に声を掛けられた。

「なんで、日本語・・・」
「あなた日本人でしょ?私も日本人だから。」
「それで・・・」
「なに?道に迷ってるの?どこに行きたいの?」
彼女に問われて俺は、もらった地図を見せた。

「ここなんだけど・・・」
「ああ、このタクシー乗り場ね。ここね、一昨日から工事してるのよ。今はこっち。案内するから着いてきて」
そう言い颯爽と歩き始めた彼女の隣に俺は走ってならんだ。

「あなた背が高いのね。スポーツでもやってるの?」
「ああ、バスケですよ。」
「そうなんだ。バスケってことは留学でこっちに来たの?」
「はい。今着いたばかりなんです。」
「こっちは日本よりも広いし、分かりずらいから困るわよね」
クスリと笑う彼女の横顔がとても輝いて見えた。

「あ、ここよ。」
俺が彼女の横顔に見とれているといつの間にかタクシー乗り場についていた。

「すみません。助かりました、ありがとうございます」
それじゃあね。と俺に言うと、彼女はまた元来た道を歩き出した。
俺は、彼女の後ろ姿を見えなくなるまで、眺めていた。


名前でも聞いとけばよかったな・・・後から思ってみても彼女の姿はもうない。
少し落胆しながらも、コーディネータを探すためキョロキョロすると
目があった恰幅のいいオジサンが俺の方に向かって来た。

「you and Akira?(お前、彰か?)」
「Yes.it's I.(はい。俺です。)」
「I'm George.the coordinator.」(俺は、コーディネーターのジョージだ)」
「Then do you go?(それじゃ行こうか)」
握手をした後、ジョージに促されタクシーに乗り込んだ。


「すまんね。まさか場所が変わってるとは思わなくて。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「これからのことだが、学校に行ってから寮に案内するから。」
それから色々車内で説明を受けながら、俺は外の景色を見ていた。
日本とは違う道、違う景色。
なにもかも違うんだな。


学校につくと担当の先生の所に連れていかれ、挨拶を済ますと寮へと向かった。
「彰、ここが寮だ。ルームメイトはアメリカ人だが、この寮には日本人もいる。」

寮の玄関の前で、話していると俺らの隣を一人の女性が通り過ぎた
「おお!みちる!ちょうどよかった!」

ジョージがその女性に声を掛けた。
すると、その女性は振り返る。
あ!空港で会った・・・。

「あら、ジョージ久しぶりね!!」
彼女はジョージとハグをする。
「みちる。だいぶ活躍してるよな!書店でよく見かけるよ!!」
「ありがと!」
「おっと、みちる。彼も日本人なんだ。いろいろ教えてあげてくれ」
そういい、ジョージが俺を紹介すると。
「あら、あなた空港で・・・」
彼女は驚いた顔をしながらそう言った。


「まさか、みちると知り合いだとは驚いたよ」
「たまたまよ?彼が、道に迷ってたから声を掛けたの。」
「はは。それじゃ、俺のお陰かな?」
「ジョージは少し抜けてるのが玉に瑕よね。」
そういい彼女がクスリと笑うと俺の方を向いて

「私、名字みちるといいます。あなたは?」
「俺は、仙道彰です。」
これが、俺と彼女の出会いだった。
まさか、こんなにすぐにまた会えるとは俺は思ってもいなかった。
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