こんな気持ちになったのは初めてだ
正直どうしたらいいか俺は分からなかった

16.『あの日シャッターを切ったのは』

部活終了後、いつもの如く自主練を行っていた流川は、途中喉が渇いたと、いったんシュート練習をやめ体育館の端に座りスポーツドリンク飲みながら『今日も来なかったな。』と考えていた。

先週の金曜日。
流川は清田の話を聞いた後、名前の家へと足を向けていた。
前回会ったあの土曜日の時に、課題の締め切りが近くて暫く行けないという話は聞いていた為、おそらく今日も家に帰るのは遅いだろうと思いアパートの前で待つことにした。
それから暫く待ってみたものの、さすがにおせぇとおもった流川はは電話をかけてみたが、呼び出し音のままで名前に繋がることはなかった。

それからまた少し経ち、さすがにもう帰ろうかと思い動き出そうとすると、遠くから足音が聞こえてきた。
帰ってきたか?と思い覗いてみると、名前抱きしめる神の姿があった。

その姿を見たとたん、居た堪れない気持ちになり流川は足早にその場を離れる。
なんだ、付き合ってたのかあの二人。
そう考えると流川は嫉妬をした。


彼女の家に行った時、今までその話をするのも辛かったであろう話を、俺に言ってくれてすごく嬉しかった。
俺の事、信用してくれてるような感じがして。今まであった距離も少し縮んだ気がして。
初めて公園で、会った時のことは忘れてしまったけれど、2回目会ったあの時、真っすぐで真剣な目をした彼女に惹きつけられた。
そのとき、今まで俺にはなかった感情が沸いた。確かに俺はそう感じたんだ。

それから部活を見に来て俺のことを撮る姿とか、色々な面を見ていくうちにどんどん惹かれていった。
俺のことは色々聞くけれど、あまり自分のことを話さない彼女のことを、もっと知りたいと思って部活帰りにバッシュ見に行きたいなんて理由をつけてデートに誘った。
するとまた違う一面を見つけてさらに俺を惹きつけた。
だからもっと彼女に近づきたい、そばに居たい、そう俺は思うようになった。


俺だけだったのか?こんな気持ちになったのは。
そう考えると悔しくて、情けなくて仕方なかった。けれど俺にはどうしたらいいのか分からなかった。
だからその後、名前さんからかかってきた電話やメールを無視した。

だけどさすがに課題とやらも落ち着いただろう彼女が部活を見にこないことを気にかかって仕方がない。

「はぁ・・・」
流川はため息をつき、今日は調子も上がらねぇし帰って寝るかと自主練を切り上げ帰ることにした。

体育館から校門へと向かうと、桜木が立っていた。
桜木は足音に気づいたのか、音のする方をを見ると獲物を見つけたかの如く流川をを睨みつけ、流川が自分の所に来るのを待っている。
そんな桜木のことなど気にせず流川は通り過ぎようとすると

「おい、ルカワ。ちょっとこい!」
「はぁ?なんで俺が。しらねーよ」

なんで桜木に待ち伏せされているのか分からない流川は、イラついた顔をした。
すると流川の胸倉をつかみながら桜木は

「名前さんが、ルカワと連絡が取れないことを気にして落ち込んでたぞ!」
「おめーにはかんけーねぇ。首突っ込んでくんな」
「はぁ?かんけーねぇだと?!名前さんは辛そうな顔しておめぇに何かあったんじゃないかって言ってたんだぞ!そんな姿をみて放っておけっていうのか!?」

辛そうな顔をしてその発言をした。そう聞いて流川はハッとした。
いくらだいぶ立ち直ったといっても流川がした行動はあの思いを呼び起こす可能性だってある。
例え流川の存在が名前にとってどんなものであろうとしてもだ。
けれど今の流川には、桜木になにも答えることが出来なかった。


するとその様子にしびれを切らした桜木は、流川をつかんでいる手にさらに力をこめ
「なんだ!だんまりか?!怖気ついてなにも言えねーってか!このキツネ男め!!」
そういうと流川を殴った。
流川は口端を切ったのか血が出ている。
やり返そうと流川が立ち上がり

「・・・いってーな。なにすんだよ」
「おめぇがそうしてる間に名前さんは泣いているかもしれないんだぞ!それでも平気なの・・・」

突然、話を遮るように後ろから声がした。

「流川、桜木。もうやめるんだ!」

2人が振り向くと、そこにいたのは自主練を終えた神だった。


「桜木。名前さんになにかあったのか?」
「ぬ、名前さんのこと知ってるのか?」
「名前さんは、・・・俺の中学時代の先輩なんだ」

するとそれを聞いた流川は神に
「付き合ってるんじゃないんすか?名前さんと」

流川の発言に桜木は不思議そうな、神は驚いた顔をしたがそのまま話を続けた。

「この前、家の前で抱きしめてたじゃねーっすか。」
「・・・流川、やっぱりあの場にいたのか。」

流川がコクリと頷いたのをみると神は話を始めた。

「あの日、俺は名前さんを食事に誘ったんだ。
その帰り道で告白した。ずっと好きだったんだ、名前さんのこと。中学の頃からずっと。けど、俺はその日返事をもらわず帰った。そして今もまだ返事はもらっていない。
だから俺たち付き合ってないよ。」
 

話を聞いていた桜木は名前の事情があって行きにくいと話していたその理由を悟った。
そしてこの場に静寂が流れる。
その後静寂を破るように言葉を発したのは神だった。

「流川は名前さんのことどう思ってるの?」

問われたが流川は、俺は・・・といい口ごもってしまう。

「好きなんでしょ?名前さんのこと。」

流川は目を見開いて驚いており、神はやっぱりという顔をして話を続ける。

「そうだとおもってたよ。俺が名前さんと会った日、普段なら気にしないだろう流川が、俺と信長の話を気にしてたんだから。」

流川はだまってその話を聞いている。
桜木も驚いた顔をしていたが何も言わなかった。

「流川、・・・ほんとはこんなこと言いたくないけど、俺、写真のモデルは俺じゃダメなのか?って名前さんに聞いたんだ。そしたら絶対に流川じゃないとダメだって。
ああ、これじゃ俺に勝ち目はないなと思ったよ。
俺の知ってる中学の時から名前さんは、決めたらそれに向かっていく人だったから。
けれど、自分の気持ち伝えないときっと後悔する。
そう思って俺はダメ元で告白したんだ。
まだ返事はもらえてないけれど、結果はもうみえている。」

神は、話が終わると流川の顔をみた。
けれど何もしようとしない流川に神は
「流川、名前さんのところに行け。名前さん、きっと流川のこと待ってるから」

神に言われたものの流川はその場にいて動かなかった。
仕方ない。そう思い神は桜木に
「桜木。どうして桜木は今日ここに来たの?その理由を教えてくれない?」

神に言われ桜木は戸惑いつつも
「・・・昨日名前さんと偶然街で会って。
けどなんか様子変だったから、その理由を聞いたらルカワと連絡がつかなくて心配してるんだ、って。それなら大学へ行ってみては?と提案したが、事情があって今はいけないと。だから俺が代わりにルカワに会いに来た。」

やっぱりと、悟ったように神は
「その事情っていうのはたぶん、俺の告白への返事だと思う。俺に会ったら返事をしなくちゃいけない。そう思ってるだろうからね。」

するとその話をきいて流川は走り出した。
まったく世話の焼けるやつ。と、神は呟き流川の背中を見送っていた。

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