止まない雨はないけれど
この雨が少し私たちの距離を近くした。

11.『あの日シャッターを切ったのは』

流川君に風呂に入れと言われ私は冷えた体を温めるべくお風呂に入ることにした。
その間流川は、ソファーに座りテレビを見ていた。

「・・・」

暇だ。と流川は心の中で呟く。
人の家だから寝るわけにはいかなし、ついているテレビも特に面白くもない。
そう思いグルリと周りを見回してみる。
やっぱり女の部屋にしては殺風景だなと感じた。
部屋は基本モノトーンで纏められていているが所々にある水色のものが爽やかさを演出していた。
これまでの名前みて、彼女らしい部屋だとそう思った。
そんなことを考えているとカメラの並んだチェストが目に入る。

「・・・こんなにあるのか」

立ち上がりチェストのそばに行くと
そこには10台くらいはあるだろうカメラが並んでいた。
小さい物から明らかに年季の入った物まで。
そのなかで一つ小さめのカメラを手に取る。

「・・・ちいせえ。こんなんで撮れるのか?」

それからカメラのレンズをのぞいてみたりしたものの、1回ジッと見てそれを元の場所に戻す。
そして何気なく上を見ると、額にはいった写真が数枚飾られていた。食べ物やら建物やら写真はモノクロのものばかり。

だが一つだけ他とは違う写真があった。
そこに写っていたのはモノクロだけど手をつないでいる写真だった。
顔は写っていないから誰だかはわからないが、おそらく男と女であるだろうことは予測できた。
彼氏か?と呟き考えていると名前がこちらに戻ってきた。


「流川君。お待たせ!今、シチュー温めるからそこの椅子に座ってまってて」

そういいながら名前は、すぐさま夕食の準備を始めた。
流川はコクっと頷き指定された椅子に座る。


暫くすると準備が整い名前も椅子に腰を掛ける。

「それじゃ、いただきます。」
「・・・いただきます」

食事中2人は他愛もない話をしていた。
今日のことや、流川の高校時代のことについて聞いてみたり。。
すると今まで質問に答える側だった流川は、

「・・・あの写真」
「ん?写真?」
「飾ってある写真。手ぇつないでるやつ」
「・・・」

流川が聞いてきたことに名前は、黙ってしまう。

「いいたくないなら別にこたえなくていー」

暫くうつむき何も答えない名前の姿をみて
どうやら聞かれたくなかったことを流川は聞いてしまったと思い言葉を発すると

「・・・違うの。」

今にも泣き出しそうな顔をしながら名前は言った。
すると流川は、

「・・・言って楽になるなら言え」

そう一言言うと、話をはじめるのを待った。
すると少したってからぼそぼそと名前は話を始めた。

「・・・あの写真・・・。
あの写真はね?大切な人との写真なの。
昔から写真家になるのが私の夢でね?大学に入ったら写真の勉強をしたいってずっと思ってて、高3の時に初めて大学の展示会を見に行ったの。そこで見た彼の写真に惹かれて、私もこんな写真を撮れるようになりたいと思ってその大学に入学した。
しばらくして、その写真を撮った彼と出会って、話すようになって付き合うようになった。その時彼は3年で、私は1年だった。

それから付き合い始めて1年が過ぎたある夏の日に、彼の海外企業への就職が決まったの。その知らせを聞かされた時に彼からプロポーズされた。
私が大学を卒業する2年待ってるから結婚しようって。
プロポーズされた日、彼は写真を撮るのは好きなのに撮られるのが嫌いで、いままで2人で撮った写真がなかったから撮りたいって言ったの。
そしたら手ならって撮ってもいいよって。
その時とった写真がこの写真。」

「・・・そうか。別にいーじゃねーか飾ってたっ・・・」

話を聞いてて流川はどうして泣きそうな顔をしているのか疑問に思った。
大事な彼氏の写真をを飾っているだけなんだから別に不思議なことじゃない。
だから飾ることに何も問題ないだろうと思い、言葉を言いかけたその時、名前は涙を堪えながら

「・・・彼ね?亡くなったの。2年前に。」

といった。

それを聞いて流川は絶句した。
流川は、俺が口下手じゃなかったら名前に気の利いた言葉をかけてあげられたかもしれない。
けど、俺には今、彼女にいってあげられる言葉はない。そう思っていた。
そんな表情をしていた流川を見ると名前は話を続ける。

「あれは大学の卒業式前日だった。その日は私と会う約束をしてて・・・。
けどいくら待ってみても彼は来なかった。
待ち合わせ場所に向かっている途中、トラックに轢かれそうな小さな男の子を助けて事故にあったの。
知らせを聞いた時には既に危ない状態だった。急いで病院に向かったけど、着いた時にはもう・・・顔も声も見ることも聞くことも出来なくて。それまで一緒にいた人、大事な人が急に目の前から消えてしまった。それがこんなに早く自分の目の前にやってくるなんて思ってもいなかった。
 
・・・それからの私は見てられない位に窶れちゃって、友人名前にはすごく心配かけた。 
暫くして彼のお母さんから私宛だっていって彼からの手紙をもって家に来てくれたの。彼、口下手でね?なかなか素直に気持ち伝えられなかったから書いたんだろうって。
その時に彼のお母さんに言われたの。
『あなたは生きているのだから前に進まなくちゃいけない』って。
そして彼のお母さんが帰った後、彼からの手紙を読んだの。
その中の一文がね俺は名前の撮る人の写真が一番好きなんだ”そうかいてあった。」
 
と言うと写真を一度眺め話を続ける。
 
「私ね。彼が亡くなる前までは人物を良く撮ってた。だけど、彼が亡くなってから撮れなくなっちゃって。シャッターを押そうとしても駄目だった。
でも課題でどうしても撮らなきゃいけない時は友達とか知り合いの人にモデルを頼んで撮ったりしてた。
人物写真を撮るのが辛くて辛くて仕方がなかった。
けどね、彼からの手紙を読んでいつか、自分がどうしても撮りたいと思える人に出会えたらまた人物を撮ろうと・・・」

すると今まで黙って聞いていた流川は、話の途中にもかかわらず立ち上がり、名前をぎゅっと抱きしめた。

「る、流川くん?!」 
「もういい。泣くの我慢するな」
「・・・えっ・・?」
「泣きたいんだろ?泣けばいーじゃねーか」

言われた瞬間名前は、今まで我慢していた涙が零れ落ちた。

「・・・ふっ・・・うっ・・・・」
「辛い時や泣きたい時は俺に言え。聞いてやるから・・・」

そういい、流川は抱きしめる腕に力を込めた。

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