今日はドキドキなバレンタインデー。とりあえずチョコレート作ってきたけど、私の好きな人――越前リョーマ――は、甘いモノ苦手、だよね。受け取ってもらえるかな。大体、彼はチョコだっていっぱいもらうだろうし、そこに私のまで、いらないよね。はぁ。


「名前、今日越前くんにあげるんでしょ?いつあげるの?もうあげた?あげてないんだったら、手伝うよ!」
『久美、ありがと。でも自分でやらなきゃね』
「そっか、そうだよねー。ま、アンタはマネージャーだし?大丈夫でしょ!」
『かなあ、ほんとにありがと!』
「気にするな、元気だせっ!じゃ、私いくねー」

元気に現れた親友の久美の言葉に元気づけられたが、どうしても自信を持つことができない。去っていった久美の後ろ姿に小さく『ごめん、もしかしたら私無理、かも』と、呟いた。



休み時間。ふう、と授業が終わった開放感からため息をつきながら、窓の外に目をやる。視線の先には壱組の男女が見えた。男の方は…リョーマ?どうやら彼は女の子にチョコレートを渡されているようだ。断る、よね?祈るような気持ちで見る。――――受け取っている……。

『え…そっかあ。リョーマ好きなひとがいるんだ。じゃあ、私のこのチョコ、もういらない、よね?』

悲しそうに用意したチョコを見る。先輩たちに配るか迷いながら持ってきたチョコの中にひとつ、明らかにラッピングの違うチョコが混じっている。本命に渡す以上、義理チョコを配るのもどうかと思っていたが。ふと、胸の奥がむかむかとしてきた。



『別にいいよね!彼氏とかじゃないし!好きな子にもらえてどうせ喜んでんでしょ!私だって、義理チョコ配りまくって、ホワイトデーにうはうはしてやるんだから!もう知らない!』



付き合っているわけでもないのに、八つ当たりのようである。実際、自分の発言が八つ当たりのようである自覚はあるが、止めることができない。いらいらしながらその後の授業を受けた。放課後を迎えたが、一向にその理不尽な怒りは収まらない。



放課後、授業が終わり足早に部室へ向かう。部室に教室が近い2、3年の先輩方はもう部室に集まっていた。

『先輩っ!ハッピーバレンタイン!!』
「お、ありがとにゃー!」

「おまえからももらえるなんて嬉しいなあ、嬉しいぜ。」

「やあ、ありがとう。ありがたくいただくよ」

「もらっちゃっていいのかな。越前はいいのかい?」

次々に先輩からかけられる声。越前のことに触れられた瞬間、顔が引き吊るのが分かった。できればそこには触れてほしくなかった。先輩に聞かれているので不機嫌に答えるわけにもいかないと思い、にこやかな表情を作る。

『知りませんよ。』

そのまま、部室内にいた先輩に配り終え、みんながその場で食べてくれた。


「名前ちゃん、コレ美味いにゃー」
『英二先輩、ほめても何も出ないですよ。』
「名前ちゃん、これ、難しくなかったかい?凄いね。」
『不二先輩ありがとうございます。お菓子つくるの好きなんですよ』
「なら、また作ってほしいな。」
『喜んで!』

感想を言い合って、楽しく会話をしていると、不意に部室の戸が開いた。越前だ。思わず顔無意識に顔をしかめてしまう。



「ちわーっス。あれ、先輩たち何食べてんすか」

「名前ちゃんにもらったバレンタインチョコだよ」

「へー。名前、俺には?」
『リョーマのなんか知んないっ』

普段なら、越前から何かを欲しいなんて言われることは、非常に嬉しいことなのだが。今日は別だ。ふん、と顔を背けてしまう。

「何で不機嫌なわけ?あ、先輩たち、チョコを渡してくれって頼まれたっスよ。一つ引き受けたら凄いことになったんですけど」


そう言って、先輩に綺麗にラッピングされたチョコレートの山を差し出す越前は、疲れたようにうなだれた。この量を一体どこに持っていたのだろうか。

『え……先輩たちの分…?じゃぁ、リョーマの分は……?』
「俺?俺は…欲しい人の以外もらいたくなかったから」

『え。それって、』

「だから言ってるじゃん。名前、俺の分は?」
『!!!』

越前の言葉に顔を真っ赤に染め上げる。あまりの恥ずかしさに顔を手で覆った。どんな顔して言ってるんだと表情が気になったが、顔が見れない。険悪な雰囲気の2人をはらはらと見守っていたが、なにやら良いムードを醸し出すのを見て、、部室の皆は先に練習を始めることにしたのか静かに部室を出て行き、部室には2人だけが残った。

「で?俺の分は?」

顔を覗き込まれる様にして見られ、さらに顔が赤くなる。恥ずかしさで無意識に1歩下がる。それにより空いた距離を越前が詰める。また1歩下がる、詰めるを繰り返した結果、気づけば壁際に追いやられていた。こんな真っ赤な顔見られたくないのに、逃げ場がない。手で覆いながら、顔を背ける。ふ、と越前が笑うのが空気で感じられた。ふいに耳をそ、と触れられる。



「はは、耳真っ赤」

『な!』

「あ、やっとこっち見た。」



反射的に顔を戻すと、微笑む越前が目にはいる。その普段は見せない優しい表情に、鼓動が高鳴る。

「ね、俺の分、ないの?」
『〜〜〜、あ、あるよ!コレ!!!!』

ねだるように見てくる越前に耐え切れず、かわいくラッピングされた箱を差し出す。勢いよくだされたそれにきょとんとした越前であったが、嬉しそうに顔を緩めた。

「ありがと」

『べ、別にっ』

「これ、俺の為の分でしょ?先輩たちのとは違うもんね」



あんな短時間でそんなところまでしっかり見ていた越前の追撃に、恥ずかしさの余り涙目になる名前。その様子を見て焦ったのか、越前が頭にぽんと手を置いた。



「ちょ、なに泣いてんの。俺、笑った顔のが好きなんだけど」

『っ!もう!さっきからなんなの!』

「だから、笑えって言ってんの。ほら、笑って。…好きだよ」



へらり、と不器用に笑みを見せると、こつん、とおでこをくっつける。その衝撃に驚いて目を見開くと、上から降ってきた言葉に息を飲んだ。理解に時間を要したが、徐々に理解すると、先ほどから赤かった顔がさらに赤くなった。



「あっつ。そんな顔赤くして大丈夫なの」

『え、え、え、』

「なに」

『う、うそ』

「うそなんてつかないし」

『それこそ嘘だ!』



少し軽くなる空気。先ほどから調子が出ない名前も徐々に調子が出てくる。



「で?」

『え?』

「返事は?」

『あ…』



恥ずかしかった。自分の気持ちを伝える勇気なんて全然なかった。それでも、そんなに思いをしてでも気持ちを伝えてくれた彼の言葉が嬉しくて。

『すっ』
「……す?」
『好きだよっっばか!!』
「ばかじゃないし」

『ばかだもん!』

「そんなこという奴がばかって知ってる?」

『なにをー!』

いつまでも、いつまでも
軽口を言いながら、一緒にいたい。この気持ちを大切に2人で一緒に、
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