「あー疲れたー!」
「うるさ」


5時間目の授業が終わった。担任の退屈な(大半寝ていた気がする)授業が終わり、今日の授業はあと1時間。そう考えたらもう少し頑張れる気もするが、まだあと1時間もある、という思いが湧いてくる。うああ、長い。
げんなりとしつつ、凝り固まった背筋を伸ばすために、両腕を上げて背中を反らす。
口の隙間から、出すつもりのないだらしの無い声が漏れでる。後ろから聞こえる、ばばくさ、なんて小さく呟くリョーマの声を無視しつつ、更に伸びる。もうこれ以上伸びないよ、なんて体が訴えかけてくるところまで伸ばすのが、痛気持ちいい。


「あ。」
「ん?」
「今日って、確かテニス部休みだよねー?」
「そうだけど。なんで知ってんの」
「ふふー。」
「にやけて気持ち悪い。」
「ひどー。とある情報筋からねー、」
「ふーん」
「聞いてる?」
「興味ない」
「えー」


ふと、この前桃ちゃん先輩から今日が休みだって聞いたのを思い出した。確か、テニスコートの整備だっけ?土曜も日曜も、引いては長期休暇や祝日だって基本的に部活のあるテニス部にしては珍しいこともあるもんだ、なんて思いながら聞いていたから私にしては珍しく覚えていたのだ。(日曜の部活は隔週だけど)

そっか、リョーマ今日お休みか。

にんまりと自らの口が弧を描くのを自覚しつつ、やめることはしない。


「じゃ、今日一緒に帰ろ」
「...なんで」
「たまにはいーじゃん!」
「ふーん」
「だめ?」
「まあいいけd「おーい苗字」」


リョーマとのラブラブ通学路を楽しもうとお誘いしていた最中、誰かに呼ばれた。
振り返る。


「ん?..........気のせいか。で、今日なんだけど」
「こら、聞かなかったふりすんな」
「げー。なにー?」
「担任に向かってげ、とはなんだ。お前俺の授業居眠りしてたろー。」
「う...き、気のせいだよー」
「罰として、今日の放課後俺の手伝いな。年度末だから忙しいんだ」
「えー!?」
「じゃ、頼んだぞ!」


私を呼んだのは担任のようだ。嫌な予感しかしない為、気のせいということにさせてもらいたかったのだが、そうは問屋が卸さないようだ。授業の居眠り、なんて言われたら振り返っても寝た記憶しかない。なんで今日なのー?嫌だと言っても聞いてくれない担任は、問答無用!とばかりに言い捨てると、すたすたと教室から去っていった。

しばらく恨めしそうに担任の出ていったドアを睨みつけていた名前だったが、我に返ると急いでリョーマを振り返る。


「リョーm「やだ」まだ何も言ってない!」
「嫌だからね」
「なんでー!待っててよー」
「なんで待たなきゃなんないわけ」
「滅多にない一緒に帰れる日なんだしさー」
「たまの休みぐらい早く帰りたいんだけど」
「そう言わずに..!」
「絶対いや」


ぷい、とそっぽを向いてしまったリョーマに更にお願いをしようとするが、タイミング悪く6時間目始業のチャイムが鳴り、大きな音を立てて、6時間目担当の先生が入ってくる。ちくしょう、この先生じゃなければあともう少し猶予あったのに..なんでチャイムと共に入ってくる先生の授業なのー!



***


時間は無情にも流れ、説得できないままリョーマは帰ってしまった。



「悲しい...」
「何がだ?」
「なんで放課後に先生と2人で作業しなきゃなんないのー!」
「お前が居眠りしてたのが悪い」
「あああタイミングが悪すぎる」
「なんだよ悩み事かー?相談聞いてやるぞ?」
「この時間が伸びるのが悩み事だよ!」
「はっはっは、手を素早く動かせば解決だな!」
「それは知ってた!」



ていうか、彼女置いて帰るとか酷くない?
今日のやり取りだけ見て、私たちが付き合ってると思ってない人多いんじゃない?
これでも!付き合って!おります!
あー、声を大にして言いたい。
もっとカップルぽいことしたいよー!



時間の経過は早く、作業が終わった頃には日もとっぷり暮れていた。


「げー。もう18時半じゃん..」
「助かった!暗くなってるから気をつけて帰れよ!」
「もー!」
「ほらこれやるから」
「ファンタじゃん!安い!」
「そういうなよ」


じゃあな!と笑顔をキラキラと輝かせながら去っていく担任を見送り、早々に帰ることにした。部活をしている人しか残っていない校舎内。人の気配もとても少ない。



リョーマ、昇降口で待っててくれたりとか...しないか。リョーマだもんなー。
とは思いつつも、少しの期待を膨らませ、昇降口へ向かう速度を早くする。


昇降口はしん、と静まり返っていた。人の気配もなく、音もない。


「やっぱりなぁ」


それがリョーマだもんな、なんて。ちょっと寂しいけれど、リョーマだしと思うと諦めも納得もいくもんだ。
自分の下駄箱へ向かい、のんびりと靴を履き替える。そのまま、少し落ち込んだ面持ちのまま、帰ることにした。



「あれ、名前ちゃん?」


昇降口から入ってきた人物に声をかけられ、俯いていた顔をあげる。


「え!不二先輩!!?」
「こんな時間に、珍しいね。居残り?」
「居眠りしちゃいまして」
「はは。それはしょうがないね。もう暗いけど大丈夫?一緒に帰ろうか」


柔和な笑顔に紳士的な態度。あまり話をしたことのない後輩にこの心遣い。なんて素敵な人なんだろう。



「ありがとうございます、でも大丈夫ですよー」
「そう?じゃあ気をつけて帰りなよ。」
「はーい!ありがとうございます!」


そう言うと、笑顔で手を振る。

数歩歩いてこちらを振り返った不二先輩の笑顔はいつもより少し、意地悪だった。




「そういえば、越前が校門の外にいたけど、待ち合わせ?」


「え!?」


驚きのあまり、さようならもまた明日も、教えてくれたことへの感謝すら忘れて駆け出す。どういうこと?リョーマが?校門に?



「リョーマ!」


校門。なんだか見覚えのあるシルエット。
いてもたってもいられず、遠くから叫ぶ。
ゆっくりと振り返った彼は、越前リョーマその人だった。


「名前遅い」
「リョーマ!」
「なに」
「リョーマ、リョーマぁ..」
「遅いんだけど」
「待っててくれたの?」
「別に、ちょっと用事あっただけ」
「ありがとー!」
「うわ、」


少し不機嫌そうな彼に飛びつく。
鼻が真っ赤になっているのも、抱きついた体がとても冷たいのも、愛おしくて仕方ない。


「ありがと」
「たまの一緒の日だったし」
「ありがとう」
「暇だっただけだし」
「うん、ありがとう」
「....暗いの、危ないじゃん、」
「うん」
「何かあったら心配するでしょ」


手を繋ぎながらゆっくり歩く。ぽろぽろと彼の口から出てくる言葉に、ありがとう、と答える。本当にこの人は。
繋いだ手を強く握った。



(送ってくれてありがと!)(ん。...これ)(なにこれ!可愛い!くれるの!?)(今日何の日か忘れたの)(!!!!家宝にするー!大好き!!)
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