学級会
02
氷帝学園には、“氷帝カーニバル”というお祭りが存在する。
「はーい、注目!今年の氷帝カーニバル、わが3年A組の出し物は何にしますか?」
「はい!」
「はい、富永くん」
「副委員長の書記が初っ端から当てにならないんだけど!氷カールって何!?」
「略してみた!」
「伝わんねーよ!」
黒板には、“今日の議題:氷カールの出し物について”と書かれている。氷カールというのは、氷帝カーニバルの略称のようだ。クラスのツッコミ役、富永のツッコミは今日も冴え渡っている。
「委員長からもなにか言ってやってよ!」
「え?・・・さーてみなさん、何か意見はありませんかー?」
「え、俺無視!?」
「はーい」
「はい、近衛さん」
「普通に喫茶店はどうですかー?」
「あ、縁日とかも良くない?」
「あ、それいいかもー!」
ここで、氷帝カーニバル(※)について説明しよう。氷帝学園には、年にいくつかのお祭りやパーティが存在する。その中でも、文化祭のような類に分類されるものが3.4つあり、そのうちの一つが氷帝カーニバルである。氷帝学園のお祭り・パーティの類には、部活を中心に出し物をするもの、またそのほかにも委員会が中心となるイベントや、金持ち学校特有のダンスパーティ、財政会を交えた発表会等がある。そんな中で、この氷帝カーニバルは、クラスが一丸となって出し物をする、クラスにとってとても貴重なお祭りである。−−−ちなみに、部活動での出し物や、委員会での出し物が可能なのは、氷帝学園では部活も委員会も、どちらの所属も強制だからである。−−−氷帝カーニバルは上記でも述べたように、クラスを一つの単位とし、その団体で一丸となって出し物を行う。ステージ部門と室内部門、そして屋台部門の3構成でできており、カーニバル自体の運営は先生が行っている。たまには生徒会長を楽にしてやろうという先生方の粋な計らいだ。
さて、氷帝カーニバルは3つの構成でできているのだが、その構成ごとに一人一票、自分のクラス以外に投票することができ、部門内で競い合う形のお祭りである。
そして、それぞれの部門で優勝したクラスが、後夜祭であるカーニバルに出演できるという決まりだ。金持ち学校である氷帝は、景品等に飛びつくことは少ない。しかし、見栄張りが多く、3Aのようにノリの良い生徒が多いクラスにとって、カーニバルに参加できる、という権利はそんな生徒たちにとってのどから手が出るほどほしい特典なのである。
「やっぱりクレープとかいいんじゃない?」
「あー、おいしそう!」
「いやいや、メイド喫茶とか」
「ちょっと八坂ー、自分の欲望出してんじゃないわよー」
「そうそう、だいたいメイド喫茶やったとして、その間男子はなにやってんの?」
「え、観察」
「「却下!」」
「なんでだよー、猫耳とかかなり萌えr」
「「最低!」」
相変わらず、うちのクラスは仲が良い。出し物は何にするのか、という話から、メイド服だとか、絶対領域だとかそういった類の言い合いになっている。ギャーギャーとうるさい言い合いをBGMに、私は後ろの席の忍足に話しかけた。
『ねー、忍足は何がいい?』
「せやなあ、俺は絶対領域も好きやけど、素足とかもええと思うで。白のハイソックスとかもマニア受けやんなぁ、萌えるわぁ」
想像しているのか、にやにやとしている忍足に、ドン引きである。
『・・・きっも。』
「ちょ!そんなまじでひかんといてぇや!真顔でされたら地味に傷つくんやけど!」
『いやだってまじでひいたもん・・・。って、そうじゃなくて!出し物何やりたいか聞いたの!』
「ぐす、せやなあ、俺はたこやきやりたいわー」
『あ、忍足たこやきうまそう!』
「たこやきやったら任せてや!それにしても跡部が黙ってるなんて珍しいな。てっきり先陣切って仕切りだすんかとおもっとったわ。」
素直に告げる苗字に悲しむ忍足だったが、綺麗にスルーされた為、そのまま文化祭の話題を進める。それにしても。跡部が静かなことに、非常に違和感を覚え、ちらりと跡部を見る。うつむいて、なにやら肩を震わせている。
『え、跡部、どうしたの・・・?』
「なんや、おなかでも痛いんかー?」
ふるふる、とさらに震えだす跡部。こちらの声など聞こえていないようだ。
『え、ちょ、まじで大丈夫!?』
がたっと大きな音を立てて立ち上がる跡部。
「跡部っ!?」
「・・・はあーっはっはっはっはっ!ここからは、俺様の時間だぜ!」
おおおー、あ・と・べ!あ・と・べ!あ・と・べ!あ・と・べ!
唐突に始まる跡部コール。ノリが良すぎるクラスの悪い点である。ぱちーんと良い音で指を鳴らした跡部がドヤ顔になり、決め台詞を吐く。
「俺に任せn」
「そろそろ黙ってくださいね。」
「・・・・・・・・。」
「委員長ナイス!」
「跡部!?落ち込みなや、な?」
『跡部落ち込みすぎ、だっさ、ぷぷーっ!』
「ちょお、苗字さん!アカンて!ああっ、跡部ー!」
「いいんだ・・・どうせ俺なんて・・・」
自分の席で、ひざを抱える跡部。笑いものにする苗字に、励ます忍足。3人のヒエラルキーが見えた気がする。クラスメート達はそんな3人を放置し、また話を進める。
「で、出し物どうするー?」
「やっぱりメイド喫茶しかないだろ!」
「だったらさー、執事もありだよね!?」
「執事いい!」
「執事推しきたー!」
「スーツ姿のホストとかもありだよね!」
「じゃあ、ドレスも良いのか!?キャバとか!」
執事案が出た途端、騒がしくなる女子(と八坂)。案も大量に出てくる。きゃいきゃいと盛り上がりを見せる。
「副委員長、今の流れ書けた!?」
「うう、なんとか・・・」
副委員長が、自信なさげにそういったとき、ガラガラ・・と音をたてて教室のドアが開いた。
「おーいお前ら、出し物は決まったかー?」
ひょこと現れたのは担任だった。
「まだですけど、案としてはこんな感じで・・・ってちょっとみんな!メイドが良いか執事が良いか論争はもういいですから!」
委員長は、現状を把握してもらうために担任に黒板を見るように言うと、盛り上がっているクラスメートを静めにかかる。担任は、詳細を説明してもらうのを諦めて、黒板に目をやった。
「・・・お前ら、これはまじ、か・・・?」
青ざめた顔の担任の一言に論争やざわめきがおさまり、みなが黒板に目をやる。
“今日の議題:氷カールの出し物について
案:
・屋台→クレープ・たこやき・やきそば...etc
・喫茶→猫耳メイドの執事
スーツキャバ、ドレスホスト”
「「「「・・・。」」」」
その瞬間、間違いなくクラスの心が一つになった。
「なんだよこれええええ!」
「ちょっと副委員長ー!?」
「ありえないんですけどー!」
「そんなの着たくねえよ!」
「せやなあ、俺も女子が着るんは見たいけど、男がメイド服なん着てても萌えんわあ」
『あー・・・。でも私、跡部が着てるのは見てみたいかも!』
「「・・・・。」」
そしてまた、心が一つになった。
そ れ は 見 た い!!
3Aの生徒たちはお互いに目で会話すると、心を決めたように息を吸う。今度は先ほど止めにかかっていた委員長も一緒だ。
あ・と・べ!あ・と・べ!あ・と・べ!あ・と・べ!
巻き起こる跡部コール。そのコールに気づいた跡部が、顔をあげ、ふっと鼻で笑った。パチーンッと先ほどよりも大きな音が鳴る。
「フッ。俺様にしかできねぇとは、てめえらもわかってんじゃねえか、あーん?仕方ねえ、そこまで言うならやってやろうじゃねえの!」
おおーーーーー!跡部さまーーーーー!さすがー!!!
跡部の言葉に巻き起こる声援。これをやってくれるとはさすが跡部である。クラスが盛り上がる。
『さっすが跡部!』
「ふん、俺様にできねえことはねえ」
苗字も関心したように声をかける。どや顔の跡部に対し、忍足は冷や汗を垂らしながら声をかける。
「景ちゃん、それはさすがやけど・・・これ、できるん・・・?」
「あーん?」
忍足の言葉に、跡部は黒板を見、固まった。
「景ちゃん?景ちゃん!?ちょ、あ、跡部ー!?あっかーん!跡部が固まったー!」
『跡部!?跡部ーーーーー!?』
2人が跡部をゆすりながら声をかける。
周りのクラスメートはそんなことに気づきもせず、跡部にどんなドレスを着せるか、いや猫耳メイドを着せようなどと盛り上がっていた。
「跡部・・・気絶して尚君臨するんか・・・」
『そんなこと言ってる場合じゃないでしょー!?』
※氷帝カーニバル...原作(オーディオコメンタリーだったと思います)に出てくる氷帝の行事。内容については調べてみましたが、私が知る限りでは書かれていなかったので、捏造しました。氷帝の行事設定自体からの捏造。
原作ではグラウンドがどうとか言っているので、少しでも近づけるためにカーニバルも行う設定に。ここまでは決めてますが、氷帝カーニバル自体のお話を書くかは未定。多分書きません。
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