act.31




保健室にやってきて、椅子に座る。歩いてみてわかったけど、結構捻っているようだ。おおう、なんてこったい。

どこから見つけたのか、手頃な段ボール箱の中に、タオルを敷き詰めて子猫をそっと置く星月先生。優しいなあ。

先生は少しの間子猫を見つめてから、くるりとこちらに向き直った。ニーハイを脱いだため、さらけ出された素足の踝あたりには、赤黒い痣が微妙に広がっている。星月先生はそれを見て顔をしかめた。

「だいぶ酷いな」

「そうみたいですね」

色合い的にはあまり好ましく思えない色だと思う。

「……よくここまで歩いてこれたな…」

すまない、気付かなくて…と申し訳なさそうに顔を歪める星月先生。いや先生のせいじゃないし!私が勝手に木に登って捻っただけだし!

星月先生は私の足首に湿布を貼ると、包帯を巻いてくれた。包帯なんて久しぶりだなあなんてぼんやり思った。

「ほら、終わったぞ」

「はーい、ありがとうございます」

立ち上がって、保健室を出ようとしたとき、不意に手首を掴まれた。

「なんですか?」

「………お、まえは、女子なんだから、無理はするなよ…」

「え、あ、はい」

「………それだけだ、すまない」

星月先生はぱっと手を離すと、ふらふらとベッドに近付いてぼすんと寝た。なんだ、眠かったのか。

「失礼しまーす」

じゃあ、なんであんな泣きそうな顔、してたんだろう。






















「咲月ちゃん」

「よ、」

「あ、誉先輩と不知火先輩」

足痛いし今日はもう帰ろうかな、と廊下をウロウロしていたら、先輩方に鉢合わせしました。

「こんにちは、誉先輩…また生徒会手伝ってるんですか…」

「うん、まあね」

相変わらず優しい人だ。ふと、不知火先輩が私をじっと見つめているのに気付いた。いつもならウザいくらい絡んでくるのに。

「不知火先輩?どうしたんですか?」

「咲月、脱げ」

「………………………は?」

「一樹?」

「いいから脱げ」

え、ちょっと、なにいってんのこの人…。

「なにを…?」

「ニーハイを、だ。お前、足捻ってるだろう。見せてみろ」

「………あ、ああ、大丈夫ですよ、さっき保健室行ってきましたから」

ああびっくりした。遂に公共の場で脱げ発言とか…どう対処すればいいのかと思った。いざとなったらぶん殴ろうと思って握っていた拳を解いて、大丈夫だと告げる。誉先輩も、不知火先輩の発言に若干引いていたが、私が怪我していると知って眉根を寄せた。

「本当に、大丈夫?咲月ちゃん」

「ええ。星月先生に湿布と包帯してもらいました!」

包帯なんて久しぶりですよ、と笑うと、誉先輩は困ったようにそっか、とつられて笑った。不知火先輩は何故か顔を歪ませて、力強く拳を握り締めていた。爪が食い込んでいるのか、血が滴っている。どんだけ力強く握ってんだ。

「不知火先輩」

「………咲月」

不知火先輩の手をとって、広げる。やはり爪が食い込んでいて、手のひらは血だらけだった。ポケットからハンカチを取り出して、ぬぐう。

「私の怪我は、先輩のせいじゃありません。私の不注意です。なのに何故、先輩が悔しそうな顔をしているんですか」

「………………それ、は、」

「俺には、―――のに、」先輩は呟いたが、何を言っているかよく聞き取れなかった。

「先輩?」

「ごめん、ごめんな」

先輩はそう言うと、跪いて私の足を撫でた。痛かったよな、と。
そして立ち上がると、

「誉、悪いがこいつを送ってやってくれ。残りの仕事は俺がやる」

「……うん、わかった」

「じゃあな、咲月」

「行こうか、咲月ちゃん」

誉先輩に促されて、生徒会室とは反対の方向に歩く。廊下の角を曲がるときに、一度生徒会室を振り返ったが、不知火先輩の姿はなかった。











「………ちくしょうッ…!!」

ダンッと生徒会室の壁を叩く。守る、と決めたのに。守れなかった。
そのまま壁にもたれかかり、目を閉じる。

「次は、もう―――、」

閉じた目を開く。不知火一樹の瞳には、決意の炎が、揺らめいていた。







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