子猫がさ、居たんだよ。
木の上に。だから助けてあげようと木のうろに足をかけて登っていって、猫のところまで到達したところまではよかったんだけど、さ。
まさか降りられなくなるとはな…。
予想外の展開に咲月さんびっくりですよ…。でも案外木の上って心地いい。おまえさんが登る気持ちもわかるよ、と腕の中の子猫を撫でた。
「さーて、どうしようかなー…」
口調こそ軽くしているものの、内心すごく焦ってますよ、ええ!!
今日は短パンのジャージはいててよかったなあと思いながら、太い枝に腰掛けて幹に手を付いて誰か通らないかなと下を眺めた。誰か助けてくれ。
「………何してるの、咲月ちゃん」
助け来た!しかしよりによってお前か、水嶋先生。先生はじっと私を見てから溜め息を吐いた。
「うわあ、咲月ちゃんスカートの下にジャージなんかはいちゃだめだよー。男子の夢壊してる」
「ちょ、てめー!!私がジャージはいてなかったら堂々とパンツ見てることになってんぞ!!!」
「ねえ咲月ちゃん、本当に助けてほしい?」
「ごめんなさい助けてください!!!!!!!」
助けてもらいました。
「子猫助けてたんだ」
「そうですよ」
私の腕の中の子猫を見て微笑む水嶋先生。なんだ、この人こんな顔もできるのか。
「………なに?咲月ちゃん」
「いえ、別に」
「なるほど、襲ってほしいと」
「ちーがーいーまーすー!!腰を!抱くな!」
「なんだ、つまらない」
私の腰からぱっと手を離す水嶋先生。ああよかった貞操は守られた。この人と一緒にいるだけで妊娠しそうだ。
「いやさすがに妊娠はしないよ」
「人の思考を読むな」
子猫をいじりながらさらりと言ってのける水嶋先生を睨んだ。
「水嶋先生ってなんでこう、一人だけ18禁なんですか」
「いやいや、なにそのレッテル」
「つまりエロいんだよ」
「仕方ないじゃん。知ってる?咲月ちゃん、男はみんな獣なんだよ」
「おいコラ全年齢だぞこのサイトは」
「咲月ちゃんもさ、注意してないと食べられちゃうよ?」
「聞いてないしこの人!!!!!だぁから腰を抱くな!」
なにこのデジャヴ。とりあえず水嶋先生の鼻に指突っ込んどいた。鼻フック。
「………女の子がイケメンに鼻フックとかしちゃだめだよ」
「秘技・イケメン殺し」
ていうか自分でイケメンって言ったよこの人。残念すぎる。
しかしそろそろ可哀相なのでやめてあげた。(そしてハンカチで手を拭った)
「水嶋先生、その子猫どうするんですか」
先生の腕の中で穏やかに眠る子猫と、水嶋先生を見比べて言う。水嶋先生はそうだねえ、と呟いて、
「琥太にぃにでも預ければなんとかなりそうじゃない?」
「あー、そうですね。星月先生ってなんだかんだで世話焼きですよね」
「だからきっとこの子の面倒も見てくれるでしょ」
そうですね、と頷くと、背後から嫌そうな溜め息が聞こえた。
「なに俺のいないところで話を展開させてんだお前ら…」
「あ、琥太にぃ」「星月先生」
水嶋先生が星月先生にゆっくりと近付いて、子猫を手渡す。星月先生は迷惑そうな顔して子猫をしっかりと受け取った。やっぱりこの人いい人だなあ。
「まぁ、子猫の件はいいとして、朝野」
「うい?」
「保健室に来なさい」
「………」
バレたか。水嶋先生が不思議そうに首を傾げているところを見ると、どうやら水嶋先生は誤魔化せたようだ。が、さすが保険医、あなどれない。まさか一発でバレるとは思わなかったよ。
木を登ったときに少し足を捻ったことに、さ。
← home →