意地悪い及川と片想いの女の子


自習中のことだった。先生もいないので、誰も勉強なんてしていなかった。ざわざわと近くの席の子と話しているやつらばっかりだった。

隣の席の及川はただボーッとしているようだった。先日行われたインターハイ予選に負けたのが心にきてるのだろうか。それとも彼女と別れたのが心にきてるのか。


横目に見ていると、ふいにこっちを見た及川と目があった。きまりが悪くて目をそらすと、笑われた。

『何?』

「いや、見てたのはそっちなのにものすごい勢いで逸らすからさ。照れ屋だなぁって」

爽やかな笑顔で笑っていて、かっこいいのかもしれない。でもコイツは性格に一癖も二癖もあるとんでもない男だと思う。日々及川さん!と及川の周りをうろちょろしてる女の子たちなら赤面してドキドキしてしまうのかもしれないけど、私はそんなことはない。そんなこと、起きちゃいけない。

『照れ屋じゃないし。何ボーッと考えてんのかなって思っただけ』

「心配してくれてんの?」

こいつ頭おかしいんじゃないの?そう思ったことは顔から筒抜けだったらしく、及川にまた笑われた。本当にコイツムカつく。

「なまえってさー『呼び捨てしないで。そんなに仲いいつもりない』

「へー?」

心の中を見透かしているような目で私を見た。

「俺と仲良くなりたいくせに〜」

『めんどくさ』

そう言ってやってもコイツは終始ニヤニヤしたままだ。

「いつまで素直にならないつもりかは知らないけどさ」

及川がこっちに微笑みながら言った。

「俺やっとフリーになったんだよ?俺のこと確保するなら今のうちだから」

そう言った及川は席を立つ。及川どこいくんだよー!と周りの男子が言う。食堂と返す及川に何人かの男子が立って一緒に教室を出ていく。私はその背中を見つめる。 最後に目があった気がした。今度は全く逸らせなかった。

私が及川がフリーなのを気にすることなんてない。そんな必要はないんだ。だから、だからこの心臓の早鐘は気のせいだ。気のせいでしかないんだ。

そう思って私は目の前の机に突っ伏すのだった。


私は及川なんて好きじゃない。好きじゃないんだから。



◎素直になれないってか素直になれなさすぎて好きってことに気づいてない女の子と及川です。及川って本当にうざいんだけどなぜか嫌いになれない不思議な魅力がありますよね。会う度石投げたくなるくらいには好きです。


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