もし、(兵部京介)
「最近力が弱まってるんだって?」
手のひらを眺めていた私に後ろから声をかけたのは、私たちの組織のボス、兵部京介だ。
『何で知ってるの?』
その話をしたのは紅葉さんと真木さんだけだ。他には心配かけたくなくて言わなかった。
「真木がね。人を配属するのは真木だけの仕事じゃない。僕だって皆の調子は聞いておかないとね」
そう言う京介だが、実際ほとんどは真木さんに丸投げだ。
「何が原因かわからないのかい?」
『全然』
即答すれば、京介は困ったように笑った。この男はわかっているんだろう。この理由が。わかってるなら早く言ってほしいのに。
「へぇ?僕はわかってると思うんだ?」
クスクスと京介は笑った。知らぬ間に頭を撫でられていた。心を勝手に読まれて、私の機嫌は急降下する。
「ごめんよ。僕もわからないんだ」
え、小さくそう漏らして私は顔をあげた。
「いつもなら大体の予想がつくんだけど何でかな。君のはわかりそうもない」
困ったように笑っていた。そして耳元に口を寄せて言う。
「君のことは僕が一番見てるはずなのにね、なまえ」
耳にかかる吐息に身を震わせれば、また京介は笑った。
前までは何でもできた。危ない仲間を助けることも、普通人を攻撃するのも。でも、今は。
『ねぇ。このまま私普通人になっちゃうの?』
「そんなことはないだろう?それは僕が許さない」
ね?と頬に手を当て、私の顔を見つめる京介。一人の時より安心できる。でも、不安で仕方ない。
『もし、もしもさ。私が普通人になっても私のことPANDORAから抜けさせないでいてくれる?もし、私の力がなくなっちゃっても私を愛してくれる?私が普通人だったなら、京介は、』
それ以降の言葉は、何も続かなかった。京介の唇が私のそれと重なっていたから。優しくて、いつもの子供じみた京介なんて嘘みたいなキスだった。
「バカな子だね」
京介が目を細めて私を抱き寄せて頭を撫でた。
「愛してるよ」
京介の声が震えていた気がした。本当に私が普通人だったなら、京介は私を愛してくれただろうか。それはもう、聞くことはできなかった。
◎あとがき
初!兵部!ずっとめっちゃ好きだったけど書いたことなかった!兵部も好きです。でも個人的には真木さんを困らせたい。あと紅葉さんとお話したい。
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