『…っく…』

静まり返った邸内に小さな声が聞こえた。何だか気になって、その声の方へ向かえば、俺の部下だった。泣いていた。

「…?何泣いてるわけ?」

王子らしくない。そんなことはわかってる。いつもなら無視していってるのは十分わかってる。

『ベルさん…』

泣いていたなまえが顔をあげた。コイツはつい最近王子の部隊に入ってきた新人。それまでは情報部とかいろんなとこを転々としていた。そこでまぁ俺が気に入って入れたんだけど。

『…私、今日初めて人を殺したんです』

「は?」

まずい。本音が出た。だって暗殺部隊に入ってそんな当たり前のこといわれたんだぜ?だから何って話だろ。

『誰かの大切な人を、私がこの手で殺したんです』

震えた自分の手をおぞましいものを見るようになまえは言った。

『あの人たちが悪いことをしたから私たちが殺さなければならなかったのはわかってるんです。でも、それでもあの人は誰かにとっては大切な人だったことは変わりません。そんな人を、私は…』

コイツはここに向いてない。俺はそう感じた。何人もそんな人間を見てきた。精鋭しか要らないこの部隊にこんな人間はコイツだけではなく何人か入ったことがあった。役立たずはこの場所にはいらない。

「なら、ここやめんのかよ」

子供のように唇を尖らせて言う。

『それは、できません』

だからなれていくしかないことは、ちゃんとわかってますとコイツは言う。

『でも正直言うとこんなことが起きて、怖くなったのは人を殺したこと以上に大切な人が殺されることなんです』

「…お前の大切なやつって誰だよ」

コイツにも死んでほしくねーやつがいるのかと思ったらイライラした。俺が最近気に入ったやつなのに。もう誰かのものだったりするのだろうか。

『私は…ベルさんが死ぬのが怖いです。強いから死ぬわけないのはわかってます。それでも、「死ぬわけねーだろ」

泣きながら俺の顔を見るなまえの手を握った。何故かはわからない。でも触れたくなった。

「王子は死なねーよ」

口で三日月を描き笑って見せる。すると、なまえは驚いたような顔をして。

「んだよ、死ぬとでも思ってんのかよ。」

『いえ!まさか!』

慌てて手と首を左右に振って否定するなまえ。

「いいから王子の心配してる暇あるなら自分の心配してろよ。お前が死んだらサボテンな」

ナイフをちらつかせれば、なまえは嫌です、とかいって笑った。いつもみたいな笑顔だった。ありがとうございます、そう笑うなまえが立ち上がる。

俺は立ち上がり歩き出したなまえの横を歩いて自室に戻った。







◎あとがき
久しぶりに書いたベルのこれじゃない感はんぱねぇ。誰だこれ。ごめんねベル頼むからナイフ出すのやめて。 サボテンとか言えばベルっぽくなるかなって思ったけどそんなことなかった。

有心論◎RADWIMPS



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