ぐしゃり。床にたくさんの液体。そこにある程度の重量のものが落ちる音。シャワールームに石鹸を落としたとかそんなことじゃなくて。血の海の中にターゲットの首が落ちた音だ。

『ばっさり切り捨てたねぇ』

なまえの何とも思っていなさそうな他人事と言いたげな声が室内に響く。その部屋には首を跳ねた男となまえだけがいた。

「いつものことだろうがぁ」

剣についた血を落としてこちらを向いたのはスクアーロだ。

『全く世の中はクリスマスだって言うのに』

「とうの昔に死んだ奴の誕生日だろうがぁ。だいたいボスさんが任務をいれた時点でこうしない手はねぇだろう」

イタリア人なのにこんな信心深くなくていいのか。無神論者が多い日本に生まれた私ですらそう思うわ。まぁ後半にたいしては肯定以外の言葉が出てこないけど。

私とスクアーロは世の中クリスマスイブだって言うのに暗殺の任務を課せられ、ベルにうわー可哀想とか言われながらしししっと笑われながら見送られて無事に今その任務を終わらせたところである。

『スクアーロ、帰りに少し街を通ろうよ』

「何でよりによってこんな混んでるときにだぁ」

『今日見るべきじゃない?ツリーとかイルミネーションとか』

混んでるのは重々承知。でもそういうクリスマスっぽいこともしたいってのが私の主張で。

「しかも血の臭い絶対ついてるだろう」

たしかに二人の体のどこにも返り血などはついていないが、臭いばかりはどうしようもない。

『えー…じゃあ歩かなくていい。ドライブだけでいいよ』

スクアーロは人混みが好きじゃない。それはまぁ私もだけど。歩かないとなれば少しは融通が聞くだろう。

「仕方ねぇなぁ」

沈黙のあと絞り出したような声に私は満面の笑みを向ける。

やったね。クリスマスに人殺ししてそれで終わりじゃあ何とも味気ない。ルッスーリアの手料理すら食べられないんだから。



二人は車に乗る。運転席にはスクアーロ。助手席にはなまえ。来たときに買ったコーヒーが冷めていた。

スクアーロの運転している姿、実は結構好きだったりする。ハンドルを握っている指は華奢なのに骨ばっていて大きい手。助手席にたまに回される腕は重いっていつも言ってるけど何だかんだ言って嫌いじゃない。

『あ、見えてきた!』

建物と建物の間を走り、キラキラとしたイルミネーションが見える。周りは幸せそうなカップルに家族連れ。うん、いいクリスマスだ。

「チッ、本当に人多いなぁ」

舌打ちしながらスクアーロはたらたらと運転する。人でも跳ねかねない。

『スクアーロ。メリークリスマス』

「おう。メリークリスマス」

『似合わない台詞』

そう言って笑えば、頭にチョップされた。

『痛い』

「てめーが悪いだろうがぁ」

イルミネーションを抜ければ、巨大なツリー。大きな大きなもみの木にオーナメントがたくさん。てっぺんにはキラキラ光る星が。

『クリスマスってやっぱいいねぇ』

冷めたコーヒーを飲みながら言った。

「煎れたてが飲みてぇなぁ」

『帰ったら一緒に飲もうか』

スクアーロが、ああと相槌をうつ。

スクアーロの手が私の頬を滑る。そのまま私はスクアーロを見た。スクアーロの顔が近づく。

「なまえ」

『なに』

鼻と鼻がぶつかってる。スクアーロってばさすがイタリア人。鼻高い。

「メリークリスマス」

だから似合わないってば。

その言葉はスクアーロの唇で遮られて言えなくなった。

「帰ったらすぐにコーヒー煎れろよぉ」

『まずはシャワーかな。スクアーロは報告書ね』

「俺に丸投げするんじゃねぇ」

『よろしく』

人の話聞けぇ!スクアーロの大きな声が車内に響く。全く突然キスされてアンタの顔見れない私の気持ちにもなってほしいものだわ。



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