第二章-06


 お待ちどうさま、そんな威勢のいい声と共にテーブルの上置かれた料理にテーブルを囲んでいた人物たちは歓声を上げた。先ほど運ばれてきた料理――エウメラ鯛のバター焼きを中心に広いテーブルは豪勢な料理に埋め尽くされている。
 ……エウメラ鯛から香る香辛料とバターの香ばしいが鼻をくすぐりモルジアナは勿論アラジンも目を輝かせ、食い入るように魚を取りわけるアリシャールの手を見つめていた。
 そんな主の無邪気な姿を微笑ましく思いつつも早くしないと自身の手ごと食べられてしまうのではないか、と内心焦りつつアリシャールがアラジン達の前に料理を盛りつけた皿を差し出したのを合図にそこで食事が始まる。
 
 頬を一杯にしながら料理を頬張る二人の豪快な姿が見ていて気持ちいいのかシンドバッドはニコニコとしながら彼の背後に立っていたジャーファルとマスルールを紹介した。特にファナリスであるマスルールに対しモルジアナも驚きを隠せないのか目を丸くしている。
 彼女からすれば自分以外に初めて見る同郷の人物であることもそうだが、そんな彼女の姿を見たアラジンも興味深そうにマスルールの元へと向かっていった。
 短時間の内にテーブルから無くなった料理の数々にジャーファルが驚きながら腰を下ろせばいつものことですよ、と然も当然のような表情でアリシャールがお茶を差し出す。

「アリシャール、顔色が悪いですがどうかしたのですか?」

 茶を一口啜ったところで隣に座る少女の異変に気がついたジャーファルからの言葉にアリシャールの手が止まる。生まれつき色の白い彼女だが普段にもまして白さが目立っていた。最早青白いと言ってもいい程になっている。加えて良く見れば目の下に薄らとだが隈も現れていた。

「そういえばそうだな。どうしたんだ、昨日は眠れなかったのか?」

 ジャーファルの声にシンドバッドも彼女の顎に手を添え顔を向かせると心配げに顔を覗き込む。狭まった距離に両者とも他意は無いことは分かっていたのでそれ以上のことには行かないが、傍から見れば誤解されそうな光景になっているのは言うまでもないだろう。
 抵抗しないアリシャールにもそうだが自身の胸中でモヤモヤと広がる感情にジャーファルは苛々としながら無理矢理笑みを顔に張り付け、彼女から見えないようにシンドバッドの脛を蹴り飛ばした。

「痛ってえ!!」
「シン、昨晩も言いましたがアリシャールへの接し方が馴れ馴れし過ぎですよ。貴方はもう少し女性に対しての接し方というものを……」
「酷いなあ、ジャーファルは。俺はアリサがまだお腹の中にいる頃から知ってるんだぞ?妹みたいなもの何だからいいじゃないか、なあアリサ?」
「はあ……。そういうものなのですか……」

 彼女の肩に腕を回し笑うシンと首をかしげるアリシャールの間をジャーファルが引き離しながら、彼が改めて昨晩何かあったのかと尋ねれば首を横に繰りながら小さくため息をつき口を開いた。

「いえ、昨日はあの後寝室で御二人が遊ばれていたんです。それに私も加わることになって……」

 ウーゴを呼び出しあの巨体をベッドで揺らしながらはしゃぐ光景を思い出しアリシャールは軽く眩暈がしてくる。年齢が離れていることもそうだが幼少期からあまり“遊び”というものの経験をしたことのない彼女にとってこんな時どの様に振舞っていいのか分かるはずもなく普段なら断る所だが、相手が自身の従う主ということもあり彼らが寝付くまでの間振り回されることとなってしまったのだ。言うなれば彼女にとって昨夜の出来事は“悪夢”といってもいいだろう。
 額に手を当て再びため息をついた彼女に対し気遣わしげに背中をさするジャーファルとは逆にシンドバッドは腕を組みながら嬉しそうに笑っていた。

―――
今まで子供らしいことをしたことのなかったアリシャールさんが色々と初めての経験をしてもらえることが嬉しいシンさん。
まるでお父さんみたいですね!

2013/01/20
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