世界にさよならを | ナノ


恐怖と絶望で外の、変化のない暗闇を呆然と見下ろしていた花子は、全身をかける悪寒で急いで体を隠すようにしゃがみ込み、恐怖で震えだす体を抑えこむように抱きしめながら思考を無理やり働かせる

廃校、ホラーゲーム…小説では見てたけど、なんで私が…っ!いやまずそんなことは今言ってられない…夢か現実かなんて後でわかることだから、今行動しないと死ぬ…!

花子は社会人だが人並み程度に漫画や、ゲームなどにも興味があった。その延長で夢小説なども読んでいたが、この状況が夢にしろ現実にしろ、今しなければならないことを理解した

上体を屈めたまま、今いる教室のような部屋を慎重に見回す
黒板側の前方、窓側、廊下側、自分のいるロッカー側、最後に天井の隅々まで何か、影や得体のしれないものがないか注視した
一先ずこの場所には危険がないことを確認し小さく息をつくと、また唇をきつく結び開いているロッカー側の扉に近づく
足音を立てないように、何かを踏まないようにゆっくりと進み、扉の側でまたしゃがみ込み廊下に耳をそば立たせる
花子が読んだことのある小説、またはプレイしたことのあるホラーゲームでは大概何かしらの敵がいる
それがバケモノなのかゾンビなのか、はたまた幽霊や童話の登場人物かはわからないが、必ず自分を追い詰める、殺そうとするモノがいる
まだ状況が読めず、対抗する武器を持たない花子は、そのナニカに遭遇してしまわないよう安全を確保しようとしていた

耳を澄ましても、人の声や何かの異音は聞こえず、慎重に扉の向こうの廊下を覗く
最初は右、次に左をじっくりと見渡し何もいないことに安堵しながら音を立てないように扉を閉め、鍵をかける
また足音を立てぬよう今度は黒板側の扉に向かい、外を確認し扉を閉める
安堵の息を吐きながら扉の鍵に手をかけしめる

カ……チャンッ

先程閉めた扉よりも鍵が渋かったのか、思いの外響いた音に花子の背筋が凍りつく
すぐさま扉から離れ廊下側の壁に張り付くようにして、ギリギリ黒板側の扉の、上のすりガラスが見える位置にしゃがみ込む

ズル…ズッ…‥…ズルズル

ナニか、重いものを引きずるような、ナニカの音が廊下に響く
花子は「ヒュッ…!」と恐怖で引き攣った音の出る口を両手で抑え、体を縮こまらせた
その音はゆっくりと立ち止まりながらこちらに確実に近づいている
花子は恐怖で鳴りそうな歯をしっかり噛み締め、カタカタと震える体を強く抱き込みながらその音が通りすぎるのを待った

その音はついに花子のいる教室の前に差し掛かる
花子は恐怖に慄きながらも黒板側のすりガラスの所をギリギリ離れたところから見つめる

ズル‥ズル‥ズルルルル

「ッッッ………!!」

すりガラスから見えたシルエットはヒトのものではなかった
すりガラスを優に超える、2~3mもある巨体で見える色は緑と赤黒い色がまざりあっており、下から除くと一番上に頭らしきものがあった
頭には黒いものも見え髪の毛だとわかるが、長くソレの動きに合わせゆらゆらと不気味に揺れている
そして近くだとわかる、別の音が聞こえる
「シューッ…シューッ…」と掠れるように聞こえる音はそのナニカの息づかいであることがわかる

花子はソレが通りすぎ、しばらく立ってそのまま動けずにいた


(目の前は恐怖の色に染まる)(潜めた息で自分を殺す)
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