ほんの一瞬だった 前のバケモノにばかり意識を向けて剣を振っていたら、後ろから花宮の呻くような声が聞こえ思わず視線を後ろに流した 痛みを堪えるように手で覆う花宮の、その手の奥でいつもはグレーを帯びたヘーゼル色の瞳が黄色く輝くのを見た それと珍しく焦ったような花宮に、腕を強い力で引かれたのはほぼ同時だった 強い力でバランスが取れず、そのまま私の体は後ろに傾き尻餅をつくように床に倒れ込む その目の前で何故か私の腕を引いた花宮がバケモノの口から吹き出た黒く濁ったような煙に包まれた 「うっ、ぐ…!クソが…っ!」 「?!花宮くん…?!」 飛び退くように煙から出てきた花宮に駆け寄り腕に触れる前に、花宮は膝をつくように崩れ落ちた 煙をもろに吸った為か、浅い呼吸と共に花宮の額には脂汗がにじみ出る 背筋に氷を入れられたように頭が冷えていく あんな煙、確実に毒そのものなのに…! 私がよそ見なんてしてたから… 「名無しの」 後悔なのか恐怖なのか、滲みかけた視界に未だ金に輝く花宮の鋭い眼光がうつる ヨロヨロと細身のレイピアを支えに体を起こす花宮の背に手を添えると、花宮は晴れていく煙の中を睨みつけるように見つめる 「落ち込んでる暇なんてねぇんだよバァカ…次で仕留めるぞ」 背の手を離せというように頭を強く撫で付けるように押される その顔には大量の汗はかいているものの、口には試合で見せるような不敵な浮かんでいる そのままチラリとこちらに視線をよこす 「正直俺は動けねぇ…が、どういう原理かは知らんがこの眼は相手の弱点が見えるらしい」 「ふはっ…まるでゲームみたいだな」と鼻で笑った花宮の金の目をじっと見つめる なるほど、だから【視える者】ね… 「この煙が晴れたらヤツが動き出す前に殺る。いけるか?」 確かめるように問いかける 場違いな思いが花子の胸にじわりと湧き上がる こんな状況で疑わしい自分を、あの花宮が庇った 頭の悪い自分にその思惑はわからないけれど、そんな中でも自分を頼ろうとしてくれている たとえ利用されているだけであっても、先程まで胸を占めていた孤独感が薄れて行くのを感じた 「…もちろん」 不安や恐怖を押し込めるように、自信あり気に笑う これは虚構ではなく内から湧き上がる使命感と少しの喜びから 同じように唇を歪ませ笑う花宮を一瞥し、二人で晴れていく煙の向こうの奇形のバケモノを見据えた ________________ 次で決着つくかな… prev next 30/34 back |