アバンチュールナイト | ナノ


1



3年付き合った恋人と別れた。
大学時代からの彼氏で、周囲も認める大恋愛だった。
別れた理由は、お互いに遠距離恋愛の厳しさを甘くみていたからだ。
実のところ私はまだ好きだったので、しばらくは抜け殻のように過ごしていたが、落ち込んでばかりもいられない!

休日、友人と電話の最中。
未だ前の恋愛を引きずっている私を見かねて、彼女はとある相席居酒屋を勧めてきた。

「それってあの駅前の?そういえば何年も前に流行ってるって聞いたことあるけど、まだ人気なんだね」
「そう!会社の先輩によると、なんなら今が一番人がいて、週末なんて大賑わいらしい!実は行ってみたかったんだよね〜。ちょうど私も彼氏がいないし!行こうよ!」

彼女のわくわくした声色に触発されて一緒に行くこととなった。真面目が服を着て歩いているタイプ……と自他共に認めるような私は、普段だったら絶対OKしないが、今は気を紛らわせることが必要だった。彼女はそれを察してくれたようだった。

その店はとある雑居ビルの二階、案外洒落た雰囲気で想像よりは入りやすい店だった。
独特の雰囲気の中、何人もの男性グループと飲んだ。何分か時間が経ったら、男性達が席を移動して回るというシステムである。
私はお酒があまり得意じゃないのもあり、さまざまな初対面の男性たちと話すことにちょっと疲れてきてしまった。
そんな中、同年代くらいの男性が席に入ってきた。

「お邪魔しま〜す。あ!可愛い子がふたりもいるねえ。俺たちラッキーだね」
「この人、どの席でもこうやって言ってるんで間に受けない方がいいですよ」
「あ、こら、バラしちゃダメじゃん!たしかにどの席でも言ってるけど、今回は本気だから!信じてほしいな〜」

軽そうな茶髪の男性と、ツンとした黒髪の男性だ。
黒髪の方は一緒に来ている友人のタイプの顔だとすぐ分かった。横目で見ると、ウインクされた。

「(真夏!黒髪は私が行くからね!)」

……と、言いたいのが伝わってきて私はうなずいた。彼女とは子供の頃からの付き合いだ、なんとなく意思疎通ができてしまう。
そういうわけで私の隣に座ったのは茶髪の男性なのだが……。

「なんかあっちの二人、もういい雰囲気だね。俺たち余りものかな?…………、あの……?俺の顔に何かついてる?」
「!ああいいえ!」

つい顔をじっと見つめてしまい、しまったと思った。この人の顔、凄くタイプかもしれない!今日出会った人の中でも、一番好みだし、今まで出会った人の中でも一番かもしれない……。
私はちょっとテンションが上がる。あとは性格が合えば。人間関係はそこが一番問題だ。
だけど見た感じちょっと軽そうで、どうだろうとも思った。ひとまず、彼のことを知ろうと思い……。

「私、真夏と言います。24歳で、公務員やってます。えっと、そちらは……」
「俺は樹。なんだ同い年じゃん!よろしくね」
「普段は何をされているんですか?」

樹さんは人懐っこくぱっと笑うと、少し間を置いて答えた。

「仕事はね、…………えーっと……きみと同じ公務員で、消防士だよ。見えないでしょ」
「へえ、確かにちょっと意外かもしれません。(そのわりに全然ガッチリしていないな……さすがに消防士全員がそうなわけじゃないか!)」
「ねえ、敬語じゃなくていいよ〜。同い年だってわかったことだしさ!名前も呼び捨てでいいしね」
「あ、じゃあ。樹…」
「そうそう。俺も呼び捨てでいい?真夏」
「はい……じゃなくて、うん、もちろん!」

そんな感じで仲良く話していって、夢中になっているうちに飲めない酒が進んでしまう。
そう、なんか色々、色々話してて……それから……。

――

はっと目が覚める。
朝日が眩しく顔を照らして、眠っていられなくなったからだ。
見知らぬ天井が目に入って体を起こすと、ここがホテルだということがわかった。

「はっ!?」

眠気が一気に覚めた!!体を見ると、私は服を着ていない!隣を見ると男が寝ている。

「んん〜……、真夏、もう起きたの、早起きだねえ。まだ七時だよ、二度寝しようよ」
「え!!!!えっと!?樹……!?ちょっと待って!」
「え〜。待つって、何を」
「抱きつくのを!!!!」

寝ていたのは、昨日相席居酒屋で出会った樹だ。彼も服を着ていない。それに妙に馴れ馴れしく、こちらに抱きついてくる。
これはまさか!いや確実にそうだ!

「私何かやっちゃった!?」

 

●アバンチュール ナイト

 

抱きついたまま寝息を立て出した樹の体を強く引き離す。
整理しろ整理しろ、とにかく今わかっているのはこの男とホテルで一夜を過ごしたってことだ。昨日のことを思い出そうと頑張るも……なんだかお酒を飲みすぎて、いい気分だったのは覚えている。それだけしか思い出せない。店を出た記憶もない。

「(テンション上がって、飲みすぎたんだ……!最悪だ!!)」
「真夏どうしたの」
「どうしたのっていうか……、あの〜……。……私たち……やった?」
「……え。もちろん、やったよ。もしかして覚えてないの?」

やっぱりやってた!!!!
驚愕と絶望の混ざった表情より私に、樹はええ〜っと唸る。

「まってまって、俺と付き合うって話になったのは覚えてる?」
「えっ!?」

そういう話になっていたらしい!目をぱちぱちさせる私に、樹はひどく落ち込んだ様子でうなだれた。

「ああ〜、思い出してよ。真夏めっちゃ乗り気だったじゃん?……俺たち付き合うって事で良いんだよねえ。俺はもうそのつもりだよ〜?」
「……あ、あ……っと、」

どうしよう、いや、いいのか付き合って?
でも……。感情がごちゃ混ぜになる。冷や汗が凄くて、胸もバクバク鳴っている。こんな状況になった経験は24年の人生今まで一度もなかった。

「まだ樹のこと何も知らないし……!どんな人かもわからないのに付き合うとは言えないな……!昨日のこと、出会ったところまでしか覚えてなくて」
「ええ!うそ〜……!昨日の君、それはもうすごいやる気だったんだよ。俺は流石に出会って当日にホテルはちょっとって言ったのに、君が強引にここに連れてきたんだよ」
「はっ!?」
「それで休むだけで何もしないって言ってたくせに、エレベーターでディープキスしてきて……」
「はい!?」
「部屋に入るなり服を脱がせてきて」
「!?」
「そのままフェラでイかされちゃった。ベッドに連れてかれて一発やって……、二回戦もやって、結局四回戦までやった」
「な……な…………!?」
「君、すごいテクニックだね〜!俺、今まで出会ったどんな女の人より気持ちいいセックスだって思ったよ。だから終わってすぐに付き合おうって言ったら、君も二つ返事でOKしてくれた。あれは嬉しかったな〜」

開いた口が塞がらない!!!!ちょっと待ってほしい!突っ込みどころが多すぎる!

「まず、私はエレベーターでそういうキスとかするタイプじゃない。人に見られるかもしれないのが嫌だから!ていうか男の人に初対面でホテルに誘ったことも人生で一度もない!あと、一日に4回したこともないけど!?そんなの私じゃない、嘘つかないで!」
「またまた〜。かなりの手練れって感じだったよ?あっ、俺すごい女の人に好かれたんだなって思ったもの。あれだな、射精の後に潮吹き?させられたとき、あれははじめての経験っていうか、とにかくヤバイって思ったね〜」
「潮……はあ!?どういう……!?わからないけどとにかく!私がそんなことするわけない!嘘をつくな!!!!」
「わ〜、怒らないで!本当なのに……」

思い切りしゅんとされて、ちょっと罪悪感が生まれた。が、昨日自分がしたとされることを考えると、すぐそれどころじゃなくなった。

「とにかく……。覚えてないし、ちょっと……樹の話す私が私じゃなさすぎる。百歩譲ってそれが私だとしても、普段の私は全然違う。今時珍しい一歩引いて男性を立てるタイプだから」
「自分で言う?……ふふふ、でも昨日のことを思い返すと、無かったことにしてはさすがに無理って感じだけどなあ〜」
「そう言うわけだから、付き合うのはなしにしよう」
「それは嫌だ」
「んっ?」
「付き合うのはやめるは嫌。だってもう付き合ったし。彼氏いないんでしょ?」
「いないけど」
「俺の顔好きでしょ」

と、真顔で詰められて、ええって思ったが、昨日散々私が自分で言ったと言われて恥ずかしくなった。

「ま、まあ、わりと好きだけど…」
「でしょ?じゃあ何も問題ないね。付き合おう!俺、君のことすごーく、気に入っちゃった。またえっち、したいし……」
「…………(顔がタイプとはいえ普通にこの人とはやっていけないかもな……なんかノリが合わないかもしれない……)」
「あ……、実は俺、仕事は消防士じゃなくて歌舞伎町でホストやってるってことも忘れちゃってる?」
「あ!?」

ホ、ホスト……!?仰天の私の顔を見て、樹は笑った。

「あはは、面白い顔。素面の真夏、面白い」
「ちょっと!?ホストなの!?」
「そうだよ。先月は人気ナンバーワンだったからそこそこ稼いでるから安心して〜!まあ全然大きな店じゃないんだけどね……」
「そ、……」

そういう問題じゃない!道理で見た目消防士っぽくないと思った!戸惑う私を、樹はにこにこ見つめる。

「真夏。これからよろしくね!」
「よろしくしない。私の手に負えないから別れよう」
「えっ!?俺がホストだから!?」
「それも(嘘つかれてた手前)ちょっとはあるけど、ホストだからじゃない。色々、こう、すれ違ってる気がする。何度も言うけど、私は樹の思ってるような人間じゃないよ」
「…………」
「出会ってすぐ、やって、彼氏にするってのは性に合わない。私は結構堅実で真面目なの」
「…………、真夏」
「…………何?」
「俺、ヤリ捨てされるってこと?」
「!?違……」
「違わなくない?君から誘ったんだよ。そりゃ、付き合おうって言ったのは俺の方からだけど、いいよって言ってくれて、そのあともう一回戦した。なのに今日になってなかったことにってさあ……ねえ君のどこが堅実で真面目なの?」
「!!」
 

 

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