小説家 | ナノ


2


「(ちょっと!!や、やばいかも!?)」

マナはキッチンに背中を向けて座っている。つまり今、晴市に背中を向けている。
彼女の向かいにテーブルが、そして晴市の席が、ソファが、チェストがある。
マナの視界の中に瓶は存在していて、もしまじまじ瓶を見つめたらラベルの文字がバッチリ読み取れてしまう。
幸い今のところバレていないはずだ、多分。晴市はなんとかして隠そうと考えた。
何しろこれを使うか使わないかもまだ決めてない、使うにしても心の準備ができてないのだ!

テーブルの上にフルーツの入った皿を置いて、マナの顔色を見た。テレビに夢中だ、やはりおそらく大丈夫だ。

「わーい、ケーキだ!?良いんですか、ありがとうございます先生」
「とんでもないよ。あ、お姉ちゃん、フォーク持ってくるの忘れちゃった。ごめんだけど持ってくるの頼んでいい?俺並べるからさ」
「あっはい、フォークフォーク……!」

チャンスだ!
マナが台所に消えたのを見計らって瓶を引き出しの中に隠してしまおう!ソファに手をついてもう片方の手をチェストに伸ばす。しかし瓶まで少し遠かったようだ、バランスを崩した拍子に手が泳いで瓶にぶつかった、そしてそのまま落としてしまった!
急いでソファを離れるとコロコロ転がる瓶を拾い上げる。あとはしまうだけだ。だが。

ちょうどフォークを二本、両手に持ったマナが引き出しを開けるところの晴市を目ざとく見つけた。そしてなんだろうと近寄っていく!

「あれっ?先生、それなんですか?薬?」
「おわっ!?こらお姉ちゃん。びっくりさせないでえ」
「せ……いりょ……」
「読んじゃダメ!これはなんでもないの。ささ、こんなのほっといてあっちで遊ぼうね」
「くぜつりんハッスル・マカスーパーロイヤル内服薬マックスエナジー……?先生!これなんなんですか!?」
「うそ、すぐ閉まったのに今の一瞬でよく全部覚えたね!?」

もちろん薬の内容を即座に理解してキラキラした顔になるマナにしまったと思う晴市。この女の子は特別に好奇心が強い。

「滝川先輩に貰ったんですか?」
「そこまでわかっちゃうのね……!?察しがよすぎるね?」
「だってそれ、先輩のデスクの上にもありますから」
「ええ……。それってハラスメントにならないの?」
「なるかも……?それはそうと、その薬凄く効くそうですよ!先輩いっつも自慢?してました。……先生、貰ったなら使いましょうよ!」
「言うと思った。でもねえ……あんまりこういうのは俺」
「先生!!」
「な、なに?」
「度胸!!見せる時ですよ!!!!」
「げ、元気ねえ……!そんなにこれが気になるの?いつもの俺じゃダメ?」
「気になります!だっていつもじゃなくなる先生も見てみたいですもん!」

ええ……。彼女のあまりの勢いに多少おののく晴市から自然に声が出る。しかし先生お願いとダメ押しで頼まれて、黙っていると抱きつかれて、お願いを聞いてくれるまで離さないとまで言われてしまっては。望んでいることすべて叶えてやりたくなってしまう。いやいやというテイは崩さず、仕方なしの返事をする。

「…………じゃあ。一回だけよ?」
「よっし、やったー!先生!今すぐ飲みましょう!」
「ええ今?ケーキとフルーツはどうするの?」
「効くのに30分くらいかかるらしいです。飲んで、食べたらちょうど良いですよ、きっと!」
「……マナちゃん。詳しくない?」
「滝川先輩情報です!」
「……滝川と普段どんな話してるの……?俺本格的に心配になってきちゃった」

手放しで喜ぶマナが即座に体から離れるものだから現金すぎて笑ってしまうやら呆れるやら。不穏な会社での会話も相まってどんどん心配になってくる。
一回5錠、一粒も大きいし量が多くて怖い。が、マナの手前、男を見せる時だ!

「ええい、どうなっても知らないんだから」
「その意気です先生!」
「(……だ、大丈夫かしら…….)」

不安は拭い去れない、しかしすべての錠剤を一気に飲み込んだ!テーブルの上の緑茶で全部流し込む、ぷはっと息をつく晴市に彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「で!どうですか先生?」
「どうって言われてもね。さっきの今よ。そんな即効性ないでしょ」
「そっかあ……」
「なんで残念そうなの……マナちゃんは本当に元気ねえ」
「えへへ……!」
「良くも悪くもね」
「えっ!」

しゅんとされてしまったと思った。あわてて嘘だと言うと、またにっこり100パーセントの微笑みに変わる。なんだか操られている気がする、20も年が下の子に!晴市は頭を抱えた。

「(ああ俺、なんか……ダメね……!)」
「はやく効かないかな。〜♪〜♪」

鼻歌を歌うマナがケーキフィルムを二人分ぺらりと剥がす。宝石のように輝くフルーツがたっぷり乗ったそれをとりあえずいただくことにした。




30分ほど経過しただろうか、ケーキとフルーツを食べきってもまだ薬の効果の実感がない晴市が疑いだした。

「うーんこれほんとに効くのかなあ?……精力剤と言ってもがむしゃらに理性がなくなるわけじゃないのね」
「全然変わりませんか?」
「今のとこ。もっとこう、ばーんと変わるかと思ったけど違うみたい……」
「滝川先輩曰く一回使ったら病みつきだそうで、以降それがないと不安で不安でダメらしいですよ?」
「えぇ〜やだ怖い。そんなすごい薬なの?……あぁでも体質とかあるかもね、アイツ酒も弱いじゃない飲む癖に。効きやすいんじゃない?」
「そっか確かに。この間雑誌のコラム書いてもらっている占い師さんに催眠術かけられてバッチリかかってましたし。あとあと占い師さんに聞いたら占い専門だから催眠術はやったことないけど即興でやったら何故か効いたと言ってまして……」
「何そのエピソード……滝川はなんなの?」

と、できの悪い編集者の噂話に花が咲く。と、ここでフォークを落としたマナが少しかがんだ。今日も着ているエロいニットが胸の形にたぷんと揺れるようだ。何となくじろりとそれを眺める……、ぴったりニットが下着の形を少しだけ浮きださせている……気がする?ただ単にインナーの肩紐かもしれないなどと考えていたところ。
局部がどうも窮屈な気配がして、目をやるとしっかりズボンを持ち上げているではないか!

「(待って!うそお!?)」
「あれっ先生どうされましたか?変な顔して」
「えっ、いや、あはは、なんでもないの」
「……?」

不審なマナの視線、だがそれどころじゃない。確認のため左手をさりげなく股の間に持っていく、すると信じられない硬度でばっちり仕上がっている。抑え込もうとしてもまるで溶接されたのかってくらい角度を保っている!

「(さ、さっき効かないって言ってたところなのに、なんで!?)」
「そうだ先生、みてくださいよ写真!実は姪っ子ちゃんが生まれまして……」
「(こっちに来た!?)」

ハーフのすこぶる可愛らしい青い目の赤ちゃんの写真をわざわざ隣にやってきて見せてくる。自慢の姪っ子らしい、素晴らしく美少女だ。曰く姉の結婚相手がアメリカ人でそれがまたイケメンだとかなんとか……けれど今のマナには最高にどうでもいい!

「えーと……マナちゃんなんだかすごくいい匂いする気がするけど、シャンプー変えた?」
「いつもと一緒ですよ」
「そ、そう……?」

なんて会話の合間もマナがぴっとり寄り添ってくる。いちゃいちゃしようとしてきている!なんとなく気が引けて晴市は少し体を離した。
が、また寄り添われる。顔を見るとにやにや笑っている……これは。

「もしかしてわかってやってるね!?」
「!あはは……!」
「あははじゃないの。もう……やんなっちゃうなぁ」
「だって。先生見るからに顔赤くって、ふふ、色っぽいですもん」
「俺が?色っぽい……!?そりゃ、なんか恥ずかしいね……!」
「薬、効いてきたんですか?」

まじまじ見つめられる。どうにも恥ずかしくて下半身は膝を立てて隠した。とりあえずパタパタ手で作ったうちわを仰ぐ。

「ウン、た、確かに急に熱くなってきたかも。……度数の高い日本酒、空きっ腹にグイって飲んだみたいなカンジ……」
「あ。ほんとだ体熱いですね」
「ちょ……触んないで……」
「?なんでですか?」
「なんでも……」
「えい。ぎゅっ」
「!こ、こら……やめなさい」

マナが抱きつくと、晴市は肩で呼吸をしていた。視線を合わせないように明後日を向いていて、何かを隠すように不自然に身じろぎしている。ぎゅうと彼の右手が自分の左腕を掴んでいる、指先に力が入りすぎてシャツがシワになってしまっていた。

「先生、大丈夫ですか?」
「全然ダイジョブ……よ」
「ふうっ」
「ちょ……っ!?おねーちゃん……!!耳にふーってするのダメ!」
「えへ……。…………あ!せんせ……ここ」
「!!」

耳に息をかけられてぞわりと背筋に快感が走った晴市が、よろけてバランスを崩した。拍子に局部をばっちり見られてしまい……マナはにこにこ笑顔になる。


[ 8/11 ]



しおりを挟む しおり一覧
back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -