エステ | ナノ


2-4


まぶた越しに目に届く眩しい光に私はいよいよ目が覚めた。すると隣でじっとこっちを見ている柏木さんと、朝日が視界に飛び込んでいた。

「あ……ふふふ、おはよ〜。ミドリさん結構早起きやね」
「……え!?柏木さん!?」
「それにめっちゃ元気やあ。朝強いタイプなん?」
「(そ、そうだ昨日私、いや私達……!)」
「てゆうかごめん、僕起こしてしもたかな。こんな珍しい事無いな思ってなんかめっちゃ見てしもてた」
「いえむしろ起こしてくださりありがとうございます、もう朝だなんて……!」

服はどこだ!?とキョロキョロすると、私の意図を察した柏木さんが壁を指差す。いつのまにか綺麗にしっかりハンガーにかけられていた。

「大丈夫、まだ早朝って時刻やもんゆっくりし。せや、待っとって、目え冷めるようにお茶入れてきたるわ。あ、それとも先にシャワー浴びる?それともお風呂貯めよっか?ミドリさんの家ここからちょっと遠いし、今日はこのまま出社するやんね、入っていきやあ」
「じゃあ、シャワー……お借りします……」
「うんうん。それがええよ〜、はいバスタオル。お風呂はあっちね、僕は朝ごはん作っとくから」

と、寝室から消える柏木さんは髪をゆるいポニーテールにしている。格好はオーバーサイズのシャツのボタンを広めに開けて少し着崩していて、下は黒いワイドパンツを履いていた。部屋着だろうか。

それにしても、昨日柏木さんに会うまでまさかこんなことになるとは夢にも思っていなかった!
半信半疑の寝ぼけた目をこすって時計を見ると7時、ちゃんと用意をしていかないと遅刻してしまう。土曜も普通に出社のうちの会社だ、慌ててお風呂に向かった。 

お風呂から出たらドライヤーを用意した柏木さんがリビングで紅茶を飲んでいた。促されるまま髪を乾かしてもらい、さらには食事まで用意される始末だ。基本ご飯は外食コンビニの私は彼がやたら凄く感じた。
朝ごはんは目玉焼きとソーセージとなんかオシャレな野菜が使われたサラダにパン屋の食パン、そしてオニオンスープ。バターの香ばしい香りが部屋に立ち込めて幸せな気分になる。
ぺろっと美味しくいただいて、少し一服となった。ダイニングテーブルの向かい、穏やかに佇む柏木さんを見る。

「いつもこんなにちゃんとしたご飯食べてるんですか?すごいです」
「すごないよ〜スムージーだけの時とかあるし」
「(スムージー!)すごく健康に気を使ってるんですね」
「せやねこの仕事始めてからやけどね。健康美容に関わっとる人間が自分の健康と美容顧みんかったら説得力ないやんか」
「はあ、なるほど……!」
「ほんとのところ僕自身は朝食べても食べんでもどっちでもええんやけどね。仕事やと思ってやっとるんよ。お客さんと共通の話題もできるし。スーパーフードとか、体にいいお茶とか、そういうのに興味ある人が来てくれること多いから」
「柏木さんは本当に真面目なんですね」
「ふふ……そうでもないよ普通やんか。まあ向いとるんやと思うわこういうん。僕凝り性やもん、料理とかめっちゃ道具集めてしもた〜」

ちらりとキッチンを見ると確かにいろんな器具が置いてある。あれはガスバーナーだろうか、私の興味に気がついた柏木さんが肉を炙る用だと言った。

「お酒に合うおつまみとかも作れるんよ。まあ僕下戸やけどね」
「へえ〜!料理ができるのもお酒を飲まないのも意外です」
「そう?僕にどんな印象持っとんのか気になるわあ。ミドリさんはお酒飲むん?」
「私は……えっと、仕事柄飲み会とか付き合いでお酒を飲む場がよくあって、飲めるようになってしまいました」
「そうなんや。ふふ、ええねお酒飲める女の人。なんか大人っぽく見えるわ〜」

と、ここで柏木さんが上を見て思案するようにうーんと唸った。どうしたのか問いかけると、いたずらっぽく笑った。

「結局ミドリさん僕ん家お泊まりしてしもたと思って。ふふ、滝川くんになんて言い訳しよ?」
「!」

私は目をぱちりと開く!驚いているところを畳み掛けるように彼は言葉を続けた。

「だって僕ら普通にセックスしてしもたやろ、もう店員とお客さんな関係、飛び越えたような気がせん?」
「……します」
「やろ?…………僕らこれからどうしよね?」
「(どう、とは……!?)」

少し腰を上げた柏木さんによって木のダイニングチェアがガタリと音を立てた。頬に手を添えられ親指で唇をなぞられる。彼が触れるとどうしても心にざわりと波が立つ。
目が合うと柏木さんが柔らかく微笑みかけた。そうして体を近づけられて、キスに至った。

「ミドリさん逃げへんってことは。こんな事してもええ関係になったって事でいいんかな」
「!……はい……!」

ぽーっと顔に熱が上がる。肯定したらもう一度軽く口付けられた。ぐわっと迫り上がるこれ以上を求める気持ち……時間がさしせまった今はまずい。しかしやめる気にもなれず、むしろもっとと求めてしまいそうだ。
ちゅ、と控えめな音と共に柏木さんが離れる。私は名残惜しすぎてたまらなくなった!なぜだか満足げな笑みをたたえる彼が、こちらを熱っぽく見つめつつ席に戻った。

「今度はちゃんと会いたなったらすぐ連絡して。お店いつでも開けたるし、もちろん……お店やなくても構わんよ」
「!(また家に来ていいってことかな……?)」
「あはは、めっちゃ嬉しそうな顔や〜。ミドリさんほんと見てて和むわあ」
「(和まれた……!)えっと、じゃ、じゃあ!時間ができたら連絡します、お店がお休みの日であっても!……あの、私本気にしますよ?」
「うん、本気にして。これで連絡来んかったら僕がっかりして立ち直れへんわあ」

寂しそうな顔をされ、なんとかにっこりしてほしい思った。すっかり柏木さんの一挙一動が気になる始末だ。きっともうしばらくーーいやもしかしたらこの先ずっと、彼を忘れられないかもしれない。

「(大変だ、また大袈裟な考えがぐるぐるしてきた。回を重ねるごとに大事な人になっていっている……気がする!)」
「?どしたん、深刻そうな顔して」
「!いえ何も……。もう行かないと」
「そう。ふふ、居なくなるの寂しいわ」
「(私もだ……)」

廊下でコートを着せてもらった。名残惜しいが会社に行かねばならない。ボタンまでとめられると、肩をポンと叩かれた。

「いってらっしゃいミドリさん」
「!いってきます……!」
「ふふ、なんか僕ら一緒に暮らしとるみたいやね。せや、いってきますのちゅーしよか」
「(なんと……!)じゃああなたから!してください」
「あなた?あぁ旦那さんってこと?あはは、そりゃ気い早いわあ」
「(スベった!?)」

靴を履いた私が柏木さんに向き直ると、少し屈んだ彼が腰を引き寄せた。体を密着させてキスをする。唇が離れて、目の前、やっぱり楽しそうな柏木さんはニッコリ笑った。

「ほんとにそうやとしたら、僕には勿体無いかわいい奥さんやこと」
「え!」
「あーあ、かわいすぎて外に出すの心配や〜。悪い虫がつきそうで」
「悪い虫って!あはは大丈夫ですよ!」
「ええ、そうかなあ?そうは見えんよ、現に……僕とかおるやん」
「!(たしかに……!)」
「あ、今納得したやろ〜。自分で言っといてなんやけどミドリさん失礼やわあ」
「な、納得してないですよ!」
「ふふ、しゃあないなあ。そういうことにしといたろ。それよりほんまに会社まで送らんで大丈夫なん?めっちゃ近いやんか、一緒に行きたいわ」
「だ、大丈夫です!滝川先輩にバレるかもしれないですし!(あとみんなに見られてしまう……)」
「あはは、そらそやね。……おっと。もうあんま喋っとれん時間なってしもたね。じゃあ。またおいで」
「はいぜひ……!」

くだけたシャツから手首をのぞかせて柏木さんが手を振る。私も振り返す、そしてすぐエレベーターの扉が閉まった。
未だよくわかっていない面持ちでマンションから出る。ここからオフィスはギリ見えないが、1分も歩けば見慣れた会社のビルが見えた。
非日常が日常へ引き戻され先ほどまでの出来事が夢のように思われる。朝の冷え込みが体を包み込むが、なぜかちっとも気にならない!
熱い体をいつも通りの冷えた体に戻すべく肺いっぱいに空気を吸い込んだ。




end


「わあ本当にたくさんあるんですね!ローズだけでもメーカー違いでたくさん……!」
「新製品試し買いしてるうちにこうなってしもたわ。それが講じて僕の特技は効きアロマオイルなんよ。ミドリさんも挑戦してみる?」
「いえ多分一つも当たらないんでやめておきます。……にしても、これ全部リラックス効果あるんですか、へえ……」
「リラックス以外にも体質改善、自律神経や精神に作用するものとか、アロマの効能は幅広いんよ。……中には言えない効果のやつもあったりして」
「言えない効果?なんだろう」
「ふふ。せやこれ試してみ、効果当てたらそれあげる」
「!や、やってみようかな……」



「効果なんやと思う?」
「なんだ……なんだろ?わからない……とにかくいい匂いです」
「冷え性改善。そりゃすぐみるみる変わった〜って感じには効かんから分からんに決まっとるよね。当たらんかったけどそれあげるわ〜」
「(うそ、エロいやつではなかった……!)やった、ありがとうございます!…………」
「……?どしたん?」
「い、いえ……!」
「いかがわしいのもあるよ?欲しいん?」
「(なんで考えてることわかった!?ていうかあるんだ!?)」



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