出来のいい弟 | ナノ







「結佳ー。回覧板お隣に届けて来てー」
「嫌だー。廉にやらせればいいと思うー」
「廉は今ご飯作るの手伝ってくれてるから。いいから行って来なさい」
「なっ……」

わざと音を立てて階段を駆け下りる。台所に行けば憎々しい男がシチューの味見をしていた。

「ちょっと!何料理なんて手伝ってんの?モテたいの?お前がいくら料理できてもその性格じゃ無理ですけど!?」
「うるさい黙れ早く行ってこいよ」
「なっまいきな弟め!」
「姉ちゃんうぜぇ…話しかけんなって言ってるだろ」

騒ぐ私を無視して弟…廉は灰汁取りに戻る。
こいつが半端に手伝いとかするから私が回覧板を隣に持って行かなきゃいけない羽目になるんだ!私が怒りに震えていると、お母さんが回覧板を私の頭の上にポンと置いた。

「廉はよくお手伝いしてくれるけれど、あなたはいつも怠けているじゃない。これくらい持っていきなさい」
「うぇー…」





出来のいい弟





弟と仲が悪くなったのはいつからだろう。
年子の弟は今でこそこんなふてぶてしく憎たらしい男だが、小さい頃は私について回って歩き素直に言うことを聞き私を敬っていたと思う。
それが中学三年生になった今では立派なウザい男に成長していた。

背は私をとっくに追い越して大きくなり、家にいるだけで邪魔くさい。
インドアな私に比べて快活でアウトドアな廉は、休日はだいたい彼女とデート。部活はサッカー部でそこそこの成績を残しているらしい。勉強も内申がとてもよかったとこの間お母さんがお祝いしていたっけ…。
私がリビングでくつろいでいると言葉の端々にトゲを背負った廉が口を尖らせた。

「オイ姉ちゃん。下着でそこらへん歩くんじゃねーよ、気持ち悪い」
「下着じゃない、ルームウェアです。これだから童貞は…」
「童貞じゃない。いいから服着ろよ、今から友達来るんだ」

短パンタンクトップのルームウェアじゃ文句を言うので上にパーカーを羽織った。それだけではまだ文句があるらしい、いちいちうるさい弟だ。

「じゃあ部屋からでてくんなよ?お前みたいなブスが姉ちゃんだってバレたら学校での俺の立場が危ういからな」
「なっ…!」
「それと、友達は女だから」
「は!?」

乱暴に部屋のドアを閉める廉は大変態度が悪い。それに女だと?こんなやつに女なんて、相手の子がかわいそうすぎる!

ーピンポーン
チャイムが鳴って、私が出ようとすると廉が慌てて静止した。どうやら本当に私を友達と会わせたくないらしい。

リビングに潜んで、奴が連れ込んだ女の子を見るとゆるふわでなんとも可愛らしい。
しかも二人だ。どこにあいつの部屋に行きたい要素があるのか苦々しく思うが、彼女たちに見たことないくらいに和かな笑顔で対応する廉を考えるとなるほどと思った。
私にはそんな笑顔もう何年も見せないだろうが!憤りを覚えたが考えるだけでも馬鹿らしい。
奴らが部屋に消えたのを見計らって私は出かけることにした。







休日、なんの予定もない私は暇を持て余してリビングでぐったりとしていた。そこで、廉の部屋にある漫画を読もうと思い立った。

廉はこれでもかってくらい自室に私が入るのを嫌がっている。
しかし奴は今何処かに出かけて行って居ない。普段は入れない廉の部屋を探索するチャンスなのだ。

ゆっくり部屋のドアを開ける。
かなり片付いたシンプルな内装だ、奴らしい。事あるごとに私の上を行くこの男は、掃除洗濯炊事全ての点において私に勝ろうとしている。つまり私の部屋は散らかり放題ってわけだ。

「そうだ!エロ本とかないのかな?姉が弟の部屋に入ってすることの定番だしね!」

めぼしい場所を漁るがよっぽどエロ本隠し能力に優れているのかなにもでて来ない。ベッドの下には物がないし、本棚にも健全なものしかおいていなかった。

「これほど隠すとはもしや姉モノなのではないだろうか!あいつ変態っぽいからな、あり得なくはないぞ」

独り言で冗談を言いながらクローゼットを開ける。私のわからない洋楽のロックバンドのCDがズラリと並んでいる。それからワックスや制汗剤など。なかなかつまらない部屋だ。

「なるほど…。じゃあデータ派か!」

スリープ状態のパソコンを起動させる。
怪しいフォルダや履歴を漁ると、どうもそれらしき動画サイトのブックマークがあった。

「なにしてんだ姉ちゃん」

動画のページにアクセスしようとした時、真後ろから声が聞こえた。
同時に腕を取られ、振り向くとかなり怒った様子の廉が私を睨んでいる。

「う!良いところだったのに!」
「さっさとどけ!殴られたいか!」
「なんて乱暴な…」
「当たり前だ!勝手に入るなっていつも言ってるだろうが!」

手に持ってる菓子などが入った袋を見るに、どうやらコンビニに行っただけだったようだ。

「ふふふ!いけないんだ、廉!こんなえっちなサイトを見て!お母さんに言いつけようかなー?」
「はぁ?うわ…お前本当ろくでもないな。人のパソコンでエロ動画見んのかよ」
「違う!廉のお気に入りから飛んだんだよ、ふむふむ…女子高生…ほうほう…」
「最低」

ードタんッ
乱暴に部屋から追い出される。
本気で怒ったらしい、私の胸ぐらを掴んで、廊下にぶん投げた。

「いっ!!」
「俺入るなって言っただろ?いつもいつも姉ちゃんさぁ、そんなに俺に嫌がらせして楽しいわけ?」
「べつにそんなつもりじゃ…」
「二度とすんな」

バタン!
ドアが閉じられる。

「そんな怒ることないじゃん!冗談じゃん?」
「うるさい!黙れ!俺に関わるな!」
「反抗期?…ねぇ、漫画貸してよ。その為に部屋入ったんだから」
「…」

いよいよ返事がない。
こちらこそ関わるだけでイライラするから、できるだけ一緒に居たくないんだ。それなのに黙れ、とかうるさい、とか暴言を吐いてきて本当乱暴な弟だ。壁で打った背中がジンジンと痛い。


私がドアを叩くと痺れを切らした弟がいきなりドアを開けた。その拍子におでこを強く打ってしまった。


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