セクサロイド | ナノ


セックスアンドザ-ロイド1

玄関のドアを開けると、笑顔の青年が私を見下ろした。
白い髪はアンドロイドの初期ヘアーカラーリングなので、すぐに彼が人間じゃないと分かった。まるで人形のように整った顔に息を飲んだのもつかの間、その口から発せられた言葉に思わず眉を潜めてしまう。

「まどか様、はじめまして。
商品ナンバー005セクサロイド型執事バージョン"ロイド"と申します。この度はお買い上げありがとうございます!」

「…セクサ…え、なんて?」





◇ セックスアンドザロイド





4月から私は大学生だ。
都内の某私大に通うにあたって、一人暮らしを始めることとなった。新しい部屋は親戚が管理しているマンションの六階。今日が入居日で今に至る。

今朝部屋に入り、新しい生活の幕開けを存分に楽しんでいるところにチャイムが鳴った。母親が雇ってくれたアンドロイドがやって来たのだ。

ただ、ひとつミスがあった。

どうやらそのアンドロイドはセックスロボット…らしい…!

急いで母親に連絡をすると、うっかり注文を間違えたそうだ。
あれほどネット注文はやめておけと言ったのにまるで聞いていなかったことも腹立たしい。とにかく返品したいと伝えると、三年契約をしてしまったので今解約すると結構な額の違約金が発生するとかなんとか…。
炊事や日常のサポートは充分にこなせるらしいので仕方なく解約は諦めることとなった。


…親とこんな気まずい話はもう二度としたくないと思ったのがついさっき。


「…と、いうわけで大変不本意ながらあなたを家に置くことになりました。よろしく」
「これはまどか様ご丁寧に!こちらこそ、よろしくお願いいたします」

狭いワンルームでテーブルを挟んでとりあえず頭を下げると、ロボットも私よりいくらか丁寧にお辞儀をした。
整った顔をさらに綺麗に歪めて、にっこりと笑う目の前の機械。それがロボットだとはとてもじゃないが思えない。

180センチ弱の身長に、さらさらとしなやかな白い髪。
完璧なプロポーションを真っ黒な燕尾服が隠している。にこやかで優しげな表情一つとっても、悪い印象がしない。
翡翠色の瞳を覗けば、吸い込まれそうな不思議な感覚に陥った。

私がじろじろと体を見てもロボットはまるで動じない。それどころか、私の両手をぎゅっと掴んだ。

「まどか様!」
「は、はい?」
「私はきっとあなたのお役に立ちますよ」

ロボットの体温が白い手袋の上からでも伝わってくる。完璧な笑顔が顔の真ん前に来て、何故か急に心臓が早くなった。

「ち、近い!」
「これは失礼しました。ですが、私はこの家に来られたのが大変嬉しいのです。ずっと大事にして下さいね。
そして永遠に私を愛して下さい!」
「愛し…!?」
「ロボットとの生活に一番必要なものは愛でございます。これはアンドロイド社がロボットオーナーへ打ち出した基本的な考え方なのです!」
「な、なるほど…!愛ね…!」

ロボットとはいえ愛して下さいと言われ、顔が熱くなる。
ロイドは私の反応の意味を分かっていないらしく私の顔を覗きこんでくる。その仕草一つ一つがコンピュータだって知っていても

「(こりゃかわいいぞ…!)」
「まどか様?」


首を傾げるロボットが、そういえばと言葉を続けた。

「お名前はどうお呼びすればよろしいでしょうか」
「む?普通はどう呼ばれるの?」
「お嬢様、ご主人様、変わり種ですとハニーやダーリンなどがございます」
「…呼びやすいやつでいいよ」
「ではお嬢様。設定できる項目は他にも色々ございますが、これはこの冊子を見ていただけたらわかると思います。何か変更がございましたらお申し付けください」
「これはこれはどうも。あら、なんかいろいろ設定できるんだ」

ロイドに渡された分厚い冊子を半端にめくった。

「ん?なにこれ。ロイド、設定変更モード起動して」
「は、設定変更モードでございます。いかがなさいましょう」
「この口調ってのはなに?」
「はい、その名の通り口調が変更できます。デフォルトでは執事モードでございます」
「じゃあ関西弁ってのは」
「プレビューするとこんな感じや。地域の方言はわりとフランクな感じになるんやで。これにするん?」
「うわぁ…!ほんとにその関西弁あってる?…じゃあ北海道!」
「プレビューするとこんな感じさ。したっけこれにする?」
「眉唾だわ…。えいご」
「★●〜「》÷♀♂≧」
「なんか普通が一番かも…執事モードで」
「≧[┘дσηΥ」
「執事モードだってば」
「eNヴ◯⊥〒●%#」
「え。これ私も英語じゃないとダメなの?英語は読めても聞くのは無理だよ。理系なめんな」
「島]┰ёυ▽☆†Φm」
「ま、待ってて、グーグルに聞いてくるから!」

私が焦っているのにもかかわらずロボットは穏やかに佇んでいた。









「め、めっちゃ旨い……!」

執事は炊事はもちろん言いつけたら何でもやってくれた。
言いつけにはある程度規定(法に触れたり非道徳的なことは出来ないらしい)があるようだが日常生活になんの問題もなかった。
そして今私は彼の作る夕飯に猛烈に感動している。

「こんな美味しいのそうそうないよ!すごいねロイド」

テーブルの上に並べられたたくさんの小皿。
栄養バランスもしっかり考えられていて、それがやたら美味しい。
私の部屋の冷蔵庫にあったチープな材料でこんな素敵なものが作れるとは本当に驚いた。

「私はアンドロイドですから!」
「それにしてもロイドもご飯食べられるんだね」
「はい、テクノロジーの進化は素晴らしいです」

−今やニンゲンと同じものを食べてもそれを体内でエネルギーに変えれるのですから。この技術の発達のお陰で世のアンドロイドに料理を可能にしたのです。本当現在なくてはならない機能ですよね−
ロイドが得意げに話す。
私はロボットと生活したことがなかったのでそういう事実をまるで知らなかった。

確かに科学の力ってすごい。
話し方とか、受け答えとか、仕草とか全てが人間的なので驚くというか感心させられる。
どのロボットもそうなのだろうか。

「アンドロイドって性格とかあるの?」
「性格は、設定変更モードで変えることができます。
今はデフォルトである執事タイプです。選択できる性格は数パターンかありますが根本は変わりませんね。また、私を取り巻く環境によっても変わっていくことがあります。まぁ人工知能ですから、あくまで模倣なのですよ」
「へぇ?(これは説明書読むべきだな…でも分厚いしなぁ…)」
「ちなみに選べる性格タイプは、現在25パターンあります」
「めっちゃだ!」
「たとえばですね、生意気、俺様、少年、兄、先生…などがメジャーですね。とくに流行りのアイドルは事務所が拡張パッチを販売していますよ」
「ず、随分マニアな世界だな」

ニコニコ笑顔を絶やさないロイドは癒される。彼がいるだけで少し部屋が明るくなる気がした。



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