ブラックお屋敷 | ナノ




1 プロローグ

 


ピンポーン
『はい』
「出前お持ちしましたー!」
『ああ、どうも。お入りください』

ズゴゴゴ

「広いなぁ、ナニコレェ」スタスタ

チカは中華料理屋でのバイトの一貫で、とあるお屋敷に来ていた。
鈍い音と共に門が開いても玄関までは遠い。外からは見えない整えられた庭をまじまじと眺めながら、大きなドアの前まで行くと黒いスーツの男が出迎えてくれた。

「ええと、常磐…ワタルさん宛にラーメンをお持ちしました」
『承っております、中にお入りください』
「ハ、ハイ」

応接室に通されたチカを、ソファーに腰かけていた三人の男が興味深げに見上げた。

「やっとだな。君、こっちに頼む」
「拉麺」
「楽しみだね、兄さん」

「はい、こちらになります!」
(ひぇーこの人たちがこの大きな屋敷に住んでるんだ…!)

常磐家の三人兄弟、は近所じゃちょっとした有名人だった。彼らの父であり常磐財閥の会長常磐正蔵とその息子達が住むこの屋敷はとても広大だ。
そんな場所にはじめて足を踏み入れたチカは…完全に腰が引けていた。屋敷の中には高そうな壺だったり絵だったりがおもむろに飾ってあって、庶民の彼女には異空間でしかなかったのだ。

「あの、代金…ですが…」
「あぁ、南郷、」
『私がお払いいたします。五千と、六百円でよろしいですよね。どうぞ』
「あ、丁度、受けとりました。こちらレシートです!」

「美味しいなぁー!」
「ふむ、悪くないな」
「なかなか美味い」ズルズル
「サトル兄さん、もっと美味しそうな顔してよ!」
「…今しているが」
「サトルは気持ちが顔に出にくいからな。しかし笑顔はビジネスじゃ大事だ」ニコッ
「わぉ。ワタル兄さんの営業スマイル凄いもんね」
「だろう。お前もやってみろサトル」
「わかりました、兄さん」ニヤア
「あははははは!何その顔ー!」
「ふ…ははは…お前、それはないだろ…!」
「やらせたのは兄さんではないですか」ムスッ
「あははははは!おっかしー!」
「ふふ…まぁそう拗ねるな、」

「(仲いいな…)し、失礼します!」

三人の会話に気をとられて前方不注意になったチカが転ぶのは必然だった。

ガクッ
「ギャッ!」
ドカッ
ガシャーン!!!

「む」
「なんと」
「わぁ」

『大丈夫ですか、あなた』
「は、はい…え!!!!!!」

盛大に転んだ先にあった謎のオブジェが台から転げ落ち粉々になっているではないか!

「あー!!!???」
『こ、これは、旦那様の大切にしていたサムトラケのニーケが…!』
「申し訳ありませんあわわわ」アワワワ

「あれいくらだったか、」
「五千万」
「えー。あの子可哀想」

『…弁償、ですね』

「ひぇーー!!!!!!」

四人から白い目を浴びせられ、パニックになるチカ。

「ご、五千万、なんて、とても!」
「親に頼めばいいんじゃん?」
「うち、母子家庭で、そんな大金は、まるで」
「はぁ?五千万もないの?」
「やらかしたな」
「仕方がない、南郷」
『は…』
「手配してやれ」
『はぁ…またですか。なんてお人好しでしょうか』

「な、なんですか…?」
『あなたは今日からうちで働いてもらいます』
「はい?」

『ゴセンマン、払えないのでしょう?ワタル様のお優しい処置にちゃんと礼を言いなさい』
「えっ!?あの、」
「お前達、いいだろう」
「使用人足りなかったしいいんじゃないかな?」
「ええ、僕は賛成です」
「よし、決まりだな…お前、名前はなんと言うんだ」
「チカ、です、あの、」
「チカか。しっかり働くことだな」
「…二十年くらいでしょうか?」
「住み込みだからご飯とかでるし。チカさん、よかったね!」
「ニジュウネン…!?オカアサン、天国のオトウサンごめんなさい…」フラッ

バタン

「倒れたな」
「そんな驚くことないのにねー」
「うち、高給なほうなんだがな」

『医務室に運んでおきます、お坊っちゃま方はお食事の続きをお召し上がりください』

「頼む」
「父さんこそぶっ倒れるんじゃないかなぁ」
「先週買ったばかりだからな」
「見せびらかしたくてこんな目立つところにおいとくからこうなる…まぁ、こんなことあるなんて考えないか…」





『あなた、起きなさい』ビシバシ
「ヒェー…イタァイ」
『起きなさい!』バチーン
「ギャー!」
『えーと、携帯…』ガサゴソ
「キャー!服の中に手をいれないでください!」
『煩いですね、携帯はどこですか』
「ズボンの…ギャー!」
『あった。今からあなたの親御さんに連絡を入れます』
「あわわわわわわわ」

ピポパ
『…………はじめまして、私常磐家の使用人の南郷と申しますが、…ええ……あなたのお嬢さんが……はい、美術品を……ええ………あ、そうです、ですので本日からこちらで働いていただく形で……なるほど……はい、ではお待ちしております』
ピ

『今からお母様がこちらに来るそうです』
「はい…」
『災難ですね、しかしこの仕事はなかなか高給ですので…下手な仕事につくよりは早く返済できると思いますよ。後できちんとワタル様達にご挨拶しましょう』
「ふぇ…」
『話を聞くときはちゃんと人の方を向くことですよ!』バチーン!
「キャー!痛い!」
『と、まぁこんな風に手が出ますので注意なさい』
「ヒエ…体罰…」
『何か?』
「な、ナンデモアリマセン!」
『…』バチーン
「何で叩くんですか!」
『いや、本当にわかっているのかなって。グーじゃないだけ感謝なさい』
「(ブラックだー!!!)」
『…』ギロリ
「(怖い!!!!)」




\ギャー/

「あ、叫び声が聞こえる」
「南郷さん容赦ないですから」
「新人が入ると家が賑やかになっていいな」
「悲鳴でね」



*ブラックお屋敷のメイドさん



(プロローグ…終)

→使用人長南郷のレッスン

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