飴と鞭 | ナノ


2

――――



「先輩またサボって…!」

会議室の真ん中で眠りこけていた上川を黒瀬がやっと見つけた。
ここは今日は午後から使われる予定がなかったので、絶好のサボり場所だったのだろう。
黒瀬は雑に上川の背中を揺すった。そして耳元で大きな声を出す。

「先輩!20時ですよ!」
「ん…ッあれ…?黒瀬ちゃんじゃないか。ありゃ…もうそんな時間か」
「先輩の荷物があるんでオフィスが閉められないんです」
「そっか、ごめんごめん」

と言って上川は大きな伸びをする。
眠たげな目を擦って、まださめきらない体を椅子に預けた。

「こんな所で寝てるなんて…。探したんですからね」
「俺も今ビックリしてる。こんな寝るなんて」
「いつから寝てたんですか」
「んー…昼から…かな」
「どれだけ暇だったんですか…」
「今日は久しぶりに誰とも会う予定もないし、溜まってた書類片付ける予定だったのになぁ」

それでもどうも反省の色が見えない上川を黒瀬が訝しげに見た。
カーテンの開け放された窓の向こう側に大きな月が煌々と光っていて、暗いままの会議室をぼんやりと照らす。ようやく上川が涎を拭きながら立ち上がる。
眠そうに半分閉じた瞼は通常通りの彼だ。

黒瀬は彼の出で立ちをじっと見る。
先日の滝川の話を思い出したのだ。上から下まで眺めても、上川先輩がMだという疑惑は拭いきれなかった。

「ん?なんだい、俺を見て。……もしかして、滝川に変な事吹き込まれたりしたかい」
「えっ!?いや、その…!」
「おやぁ。図星だったのか」
「…そ、それより、どうしてちゃんと仕事してくれないんですか」
「んー、説教かい。黒瀬ちゃんはお姉さんだな」
「(お姉さん…!)…あ、わ、私がこうやって残業してるのもひとえに先輩が不真面目にしているからですよ!せめてもう少し真面目にしてください!わからないことがあれば私が教えてあげますから!」
「黒瀬ちゃんが?面白いな」
「先輩が未だにスケジュールとか、社内の配置とか覚えないから言ってるんです!」

黒瀬が怒りだすと、普段は聞き流す上川が考え出した。
しばらく唸った後に何かを閃いたらしい。黒瀬をまっすぐ見つめて、

「いいぜ、明日から会議は真面目に出るよ」
「え…ほ、本当ですか!」
「ああ、でも条件があるんだ」
「条件…もう真面目にしてくれるなら何でもします!」

上川がにっこり笑う。ちょっと意地悪な色を含んで、黒瀬を試すような瞳を向けた。そうして導き出された言葉は、

「俺と付き合ってくれないか」
「はい?」

予想もしてない台詞に、黒瀬の目が点になる。

「あはは。黒瀬ちゃんの顔すごいな」
「付き合ってくれ…って、え?」
「俺たち付き合ったら相性合うと思わないかい」
「わ、わかりません…」
「前よりだいぶ成績延びたじゃないか、黒瀬ちゃんもさ」
「それは…」

――上川先輩の人脈のお陰で…。
黒瀬が俯くと、悩まれていると捉えた上川が追い打ちをかけた。

「ほら。何でもしてくれるってさっき言っただろう。…それが駄目なら説教はもうしないでくれ。パートナーも解消だな」
「え!ど、どうしてですか」
「そりゃ、振られた女と仕事するのはきついだろ。…もしかして、君は俺じゃ駄目なのかな」

上川がさも残念そうに口をとがらせる。
けれど黒瀬は気が気でなかった。上川からパートナーを外されては今の仕事が滞ってしまう。

「(先輩は私が断れないのを知ってるんだ。仕事だけじゃない、別の意味でも)」

黒瀬は改めて彼を見つめた。眠そうな目にいつも通りのボサボサの髪、蓄えた髭…うっすら笑いが浮かんでいるのは地顔だ。はじめて会った時から黒瀬が好きな顔だった。
ずっと思いを伝える切っ掛けが見つからないでくすぶっていた恋心を、なんとも奇妙な形で刺激されて、黒瀬も覚悟を決める。断る選択肢なんて本当は最初からなかった。

「…お、お願いします。私でよければ」
「お!本当かい」

上川がぱっと笑顔になる。
そのまま黒瀬を抱き締めた。彼は感動を隠さない。むしろちょっとオーバーなくらいだ。

「きゃあっ!先輩、痛いです!」
「おっと、すまん。直ぐに答えをくれるとは思わなくてな」
「わ、私も、前から好きだったので…」
「…俺、君はオーケーしてくれると信じてたよ」
「わ…――んんっ…!」

上川が黒瀬の華奢な体を抱え込むように優しく抱き締めて、軽いキスをする。
何度かするうちに徐々に深くなり、黒瀬は溺れるようだと思った。

「――っは…、上川先輩…」
「ん?キス、嫌だったかい」
「違います、そうじゃなくて…その、わ、私、先輩のお役に立てるように頑張ります!」
「お役?」

黒瀬は一旦目を伏せてからまた上川を見つめると、意を決したように鞄からあるものを取り出した。彼女はうやうやしく振りかぶって床を打つ。

――ピシャン!

「お?」
「先輩のために頑張って練習しますんで!」

黒瀬はあの日滝川から鞭を譲り受けていた。
それをずっと鞄に入れっぱなしにしていたのだ。

「せ、正座…してください!」
「おい待て、なんの話だ」

二人とも不思議そうに顔を見合わせる。
黒瀬は仕方なく事のあらましを説明した。

「俺がMだって?どうしてそんな根拠の無い噂を信じたんだい」
「あわわ、その、見た目的にありえそうというか…」
「なんだって?」

上川が大きなため息をついた。
黒瀬をデスクに座らせると、右耳に唇を当てて 「試してみるかい」と言った。

「ひゃ…っ!?」

そのまま舌が耳を舐める。
なぞるように全体を触ってから、出し入れするようにぴちゃぴちゃ音を立てる。

ぞくぞくぞく――っ

黒瀬の背筋が逆立つ。
机に座らされたのは正解だった。
彼女の腰は溶けてしまったみたいにふわふわしてしまい、手をデスクについて体を支えなくちゃ耐えられなかった。

「ゃあ、先輩、やめてください!」
「どうして?」
「ぁっ、そこで話さないで…・」
「つまりもっと話してってことかなぁ。どうかな…」
「ちょ、ちょっと、待って」
「ん〜?ふふふ。待てないねぇ」

上川の吐息が彼女の耳にかかる。
その度にびくりと体を反応させるのが面白いらしい。彼の左手が黒瀬の背中に回って、シャツをたくしあげながらゆっくりと体をなぞった。

「ぁ…っ上川せんぱい…」

簡単に外されたブラのホックの感覚に、声が漏れる。
熱い舌の感触と上川の冷たい指の感触が彼女を惑わせる。
ブラをたくし上げられて、胸が直にシャツに触れた。

「おや、乳首たってるねぇ。この状況に興奮しているのかい」
「そ、そんな、こと…なぃ…」
「黒瀬ちゃんは嘘つきだ」
「ぁ、ぁ…み、耳…駄目…」
「ほら。また嘘、ついた」
「ゃぁ…っ」

上川の手がシャツの上から胸を揉みしだく。
耳の愛撫も止まなくて、黒瀬の胸の高なりもどんどん強くなった。

「はぁ…ぁん…ふ…っ」
「息が荒いね。どうしたんだ?」
「な、なにも…んっ…ぁ」
「足だって擦りあわせちゃってさ」
「ぁ、ゃ…止めて…ふぅ、はぁッ」

上川の手が彼女の股をゆっくりと開く。
そこに体を捩じ込んで閉じれなくした。彼の右手がスカートの中に侵入すると彼女は駄目、だとか止めて、だとか言った。彼女の手が彼の腕を押さえるが上川は存外力が強くそれは形だけとなる。

――――くちゅっ

「――ぁっ…!」
「耳と胸がそんなに良かったのか」

半ば呆れた声に黒瀬は辱められる。
下着が湿っているのを確認したら、上川の手は彼女の太股を撫でだした。恥ずかしくて恥ずかしくて、黒瀬は全身熱くなって仕方ない。

「顔が真っ赤だ。黒瀬ちゃんはお姉さんなんだろ?余裕を見せてくれよ」
「よ、余裕です!…なんだか、変ですよ、今日のせんぱぃ…ッ」
「そうかい?俺はいつも通りだけれど」
 
歌うように上川が言葉を続ける。彼の大きな手が彼女の胸を揉むと、甘い声がさらに大きくなる。

「んぅっ…!ぁ、はぁ、ぁぅ」
「声、我慢しなくていいぜ。もっと出してくれよ」
「し、…してな……ぁ…ん…」

せわしなく揉みしだいたと思えば、急にゆっくりとした手つきになる。
そうなると黒瀬は少し切なげな顔をした。

「ん?どうしたのかな」
「ぇ…ぁ、あの…その…っ」
「ふふ。なんだい?」

ふぅ、と耳に息を吹き掛ければ、彼女の体がびくりと反応した。
上川の服を引っ張って、うるうるした瞳で彼を見上げる。本人は無自覚に煽るようなマネをしているのが伺い知れて、上川は笑顔をより深めた。

「――ぁ、あっ…せ、せんぱぃ…」
「自分で胸押し付けちゃって。してほしいことがあるならちゃんとそのお口で言うんだな」
「ぁ…ぁの、……はぁっ…んっ」
「腰が動く度に擦ってきてるぜ。黒瀬ちゃんはこのまま俺の手でオナニーするのかい?」
「そ、そんな…違……っ」
「そうだろ…何が違うんだ」
「ぁあっ、み、耳…だめぇ…」
「おやおや、涙目だよ。そそるねぇ」

耳たぶをかぷりと噛まれて、黒瀬は固く張っていた体の力が抜けてしまう。
そのままちうちう吸われて…彼女ははじめての感覚に腰砕けになる。

「ほら、言うんだ。頑張って」
「…ぁ、う…せ、んぱ…………」
「何だ」
「もっと……――ひゃっ!?」

上川の指がシャツの上から黒瀬の乳首を摘まむ。ぎりぎり引っ張られて痛みと快感に体を捻らせた。それだけじゃ足りないんだと言わんばかりに指を動かされては、捻るだけじゃとても気持ちよさが逃げない。

「ぁん…っ…はぁっ、はぅう…」
「もっと?」
「触ってぇ…」
「何を?」
「…………わ、私を…」
「ふ、あはは…そうきたか。これはこれで…参ったな」

上川は愉快そうに笑うと、その顔を彼女の胸に近づける。
シャツを来ていてもわかるつんとたった乳首を服の上から吸った。

「きゃっ!?な…なに…?」
「君はいちいち驚くね」
「ぁ、あ、だってぇ…っあ、んゃ…ッ!」

布越しの感覚が堪らない。
それに、くちゅくちゅと下着の上から陰部をかき混ぜる音がする。彼女のある一点を引っ掻いてやれば、びくんと体が反応した。

「せ、せんぱぃ、わ、わたし…ぁんっ」
「うわ。すごいな、これ…ッ」
「ひゃっ…そこは…ぁ…や、やぁっ」

彼女の太ももが分泌液で汚れていく。
その溢れる場所をノックしてやれば、下着では吸いきれない液体がまたじわりと外に出てきてしまう。

「とろとろだわ。これ感じすぎだなぁ。まだ何にもしてないみたいなもんなのに、さ」
「ふぇ…そ、そんな、こと…ぁっ」
「会社で下着こんなにして。皆がいつも会議してるところでだからもっと酷いね」
「んっ、ひゃぁっ…ぁ、ふ…やぅ」
「これじゃ、もう俺のが奥まで入っちゃうんじゃない?」

黒瀬の足に上川のいきり立つモノがぐいぐいと主張していた。
上川は黒瀬の手を自分のモノに重ねる。

「ほら…、触ってくれよ」
「……っ!」

スーツ越しとはいえ、そのびくびく脈打つモノの存在に黒瀬は釘付けになった。
黒瀬が少し上半身を屈ませて上川のモノに両手を伸ばす。彼の見た目からは想像できないような大きさだ。存外えぐくて黒瀬は一瞬手を引っ込める。すると上川が無理に彼女の手に手を重ねて、自分のモノに押し付けた。

「あ、…熱い…です…」
「ベルト外してくれるかい」
「は、はい…」

金具の音が彼女をさらに緊張させていく。
彼のズボンの中心はかなり窮屈そうに膨らんでいて、取り出すのを躊躇うほどだった。

ゆっくりゆっくりジッパーを下ろしていく。
ズボンから覗いて勢いよく立ち上がったソレに黒瀬の呼吸が早くなる。

「……っ」

トランクスに手をかけ、これまた慎重に捲るが、彼のモノの先っぽにゴムの部分を引っ掻けてしまった。またそれで上を向いた気がするソレが完全に外の空気に触れたのを確認して、また上川の方を向けば、彼はちょっと掠れた声で

「なぁ…どうされたい?」

と言った。

「ぁ…こ、これ……――い」
「ん?」
「……あぅ」
「ほら、頑張って」

頭を撫でられて、黒瀬はより口ごもる。やがて、勇気を出して。

「これを、私に、…く、下さい」
「――うん。…わかった」

上川に押し倒されて、体がデスクに横たわる。
荒い手つきで彼女の下着を剥ぎ取って彼自信を宛がえば―ぐちゅ、と鈍い音がした。
入り口をつつかれて彼女は思わずつばを飲む。

「っぁ、…せんぱ、ぃ…ッ――は、ぁ…っんん」
「おっと、辛いかい。…あぁ、やっぱり簡単には全部入らないか…」
「ぁ、…あっ……ま、待って…」
「え?そうだな、うーん…。
 

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