ハンター試験に向かって


目的の船に乗り込むと、そこはもう熱苦しい男性でいっぱいで。

わたしは思わず眉間に皺を寄せていた――




それからもいくつかの港に立ち寄って増えるのは厳つい男ばかり。

見た目にもハンター試験専用便となっている様子にすっかり安心してナナミはくつろいでいた。


初めて実物を見たハンモックに座って、ゆらゆら揺られること数時間。
いつのまにか外は嵐になっているようで、船の揺れも雷雨の音も激しくなるばかりであった。

とはいえ、雷が怖いわけでもなく。三半規管が弱いわけでもないナナミ。

アップダウンの激しい大揺れを、心なしか楽しんでいるうちに嵐は去り……

更には次なる嵐はもっと激しいという予告により、途中下船してまで逃げ出した大半の男たちを眺めて。
ハンターとは?と、なんとも言えない感慨に耽っていた。




そんな時――



「お姉さんすごいね! 全然酔ってないみたい!」

話しかけてきたのは船内唯一の子供と思われる黒髪の少年である。
先ほどは親切にも酔った乗客に何くれとなく世話を焼いていたことでナナミも注目していたが、およそ子供とは思えないタフさ、バランス感覚の良さを発揮していた。

「あなたこそスゴいじゃない。一人でこんな船に乗り込んだだけじゃなく、嵐の中でも平然と動いてるんだもの。驚いちゃった」

「へへ、オレ船には慣れてるんだー」

「そうなの」

「お姉さんもハンター試験を受けるの?」

「そうよ」

「オレもなんだ。ハンター試験ってどんなかな? 知ってる?」

「そうね、噂くらいなら……聞きたい?」

「うん!」


元気よく頷いた少年は、ゴンと名乗った。

求められるがままに過酷な試験の噂について話してやると、ゴンは目を輝かせ、それでも楽しみだと言う。

お互い頑張りましょうねと話しているうちに、すっかり静まった船内に残された受験生らしき乗客は、ゴンと自分を含めて四名だけになっており、全員が船長に呼び出されたのだった。








「オレはゴン!」

煙草をふかした船長に名を問われると、真っ先にゴンが元気よく答えた。

「俺はレオリオだ」

「私はクラピカという」

「ナナミです」

ふむ、と何やら意味ありげな含みを持たせて煙草を吸い、船長は問いかけを続ける。

「で、お前らは何でハンターを目指した?」

その言葉に真っ先に反発したのは先ほどレオリオと名乗った黒髪の青年だった。

「なんだよ、試験官でもないのに偉そーに」

しかしゴンはさらりと理由を答え、それがまたレオリオは気に入らないようだった。

彼が反発を続けていると、クラピカと名乗った金髪の青年?がそれに続く。嫌味なくらいに堅苦しい文言での拒否だった。

「わたしは話しても構いませんが、そもそも船長さんは試験官なのでは?」

何の気なしに割り込むと、驚いたように二人の青年がわたしを見る。

「ほーう、鋭いじゃねぇか嬢ちゃん。そうよ、さっきの途中下船した奴らはみんな不合格だと協会に連絡済みだ。
別のルートで会場に入ることはできねぇ。要するにお前達が試験を受けられるかどうかは俺様の気分次第ってことだ。心して答えるんだな」

すると変わり身早くクラピカが志望理由を答え出す。
盗賊に壊滅させられた一族の生き残りとして、ブラックリストハンターを目指しているとのことだった。なかなかに重い理由である。

対してレオリオは金銭が目当てだと話し、そこから二人は口論へ。
何故だか甲板で決闘をする流れとなった。



(男の子だから血気盛んなのかしらね?)








「……で? お前さんは何でハンターを目指したんだ?」

思い出したように残されたわたしに問いかける船長。

「そうですね……ライセンスが便利だから、でしょうか。自由に生きようと思ったら色んな力が必要です。財力.権力.知力.体力……他にも色々。正しいと思うことをするのにも、自分らしく生きるのにも、ハンターの資格が必要だと感じたので目指しています」

「具体的なハンター像は決まってねぇーってことか」

「そうですね。今のところはそんな感じです」


話しながら甲板へと出ると、雨のなか向かい合う二人の姿。

船は再びの嵐で斜めに大きく傾いているが、気にせず武器を構えて怒鳴り合っている。


するとピカッと稲妻が落ちたと思ったら、マストの一つが折れてゆく。

あっ!と思った時には人が落ち、気付いたら足が動いていた。






柵を飛び越えて海へと投げ出されていく体を追うように、緑の服を着たゴンが飛び付いていく。

あのままでは二人とも海に落ちてしまう、そう思った時には自分も縁に足をかけることなく飛び出していた。

(また死ぬかもしれない……)

ほんの一瞬そんな考えが浮かんだ時、わたしの足は誰かに強く掴まれて。

ゴンと船員共々、無事に引き上げられたのだった。






甲板に投げ出されて言葉もなく倒れ込む。
むくりと起き上がると同時にレオリオとクラピカが怒鳴りだした。

要約すると、なんて危険で無謀なことをするのだ!と怒られたゴンとわたし。


「仕方がないじゃない……」

「そうだよ。それに掴んでくれたじゃん、二人とも!」


笑顔のゴンに、不思議顔のわたし。
呆れと困惑顔のクラピカとレオリオ。


そんな四人のやりとりを見て、船長はガハハと豪快に笑ったのだった。








船長に気に入られた受験生四名ことレオリオ、クラピカ、ゴン、わたしは、なんだかんだで人命救助のために結束してしまったからか、あっという間に打ち解けた。

そして港に着くと船長の助言通りに一本杉を目指して共に進んだ。

案内状に書かれた地区とは反対方向だったけれど、試験官が言うのだから間違いないだろうとの判断である。



そうして、寂れた街のクイズ大会や魔獣との鬼ごっこなど、紆余曲折を経てハンター試験会場へと辿り着く。



ごはん屋の個室型エレベーターにて美味しいステーキを食し、ゴンの無知に驚き、レオリオとクラピカの討論を聞いているうちに到着した地下100階。


そこは船や港に集まっていた猛者達よりも、はるかに熱苦しい空気を発する男連中が密集した空間で。
わたしの気分は下降した。

なんだかんだでレオリオは香水を付けているくらいに身だしなみはしっかりしているし、クラピカもゴンも爽やかだ。
わたしの連れは、ある意味とてもレベルの高い人達なのだと実感する。



これから始まる試験の内容次第では、雨に濡れるどころか血まみれになることもあるのかもしれない。
覚悟を決めて、浄化の魔法をこっそりと身体にかけたのだった。


魔法べんり。転生チート万歳。




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