9月4日A

sideレオリオ




時は少し遡る――




「よっ、クラピカ」

レオリオが指定されたホテルのロビーに到着すると、クラピカを含めた三人が待ち構えていた。久々の集合だった。あと一人ももうすぐ到着するはずである。

「あれ、レオリオ。ゼパイルさんは?」

ゴンが尋ねる。

「小切手の確認がてら別の掘り出し物探すってよ」

「そっか」

「ナナミはまだか?」

「もうすぐだろう」

クラピカが知ったような口調で答えた。

「何で分かるんだよ」

「勘だ」

なんで偉そーなんだコイツは。

「さっき電話した時はまだ寝起きだったぜ〜? 女ってのは準備に時間がかかるもんだろ?」

「ナナミは例外ではないか? 出掛ける時はいつも5分で支度をしている」

「何でオメーがそんなこと知ってるんだよ」

「同じ職場だからな」

嘘くせェ。何でプライベートなことまでそんなに知ってるんだよと問いつめたい。というか知らないくせに知ったつもりなのかもしれない。

「それにしても、オメー。なんつーか、威圧感つーか、迫力みてーなもんが出た気がする」

「そうか? 君は……大した変化もなさそうだなレオリオ」

「ムカつく度も増したなオイ」

「それはそうと。なんか旅団の一人と闘って倒したらしいな?」

「…………」

「念を覚えて間もないお前が一体どうやって勝ったんだ?」

「……もしお前達が旅団の残党を捉えたくて訳を聞きたいならやめておけ。私の話は参考にはならない」

クラピカは否定的だ。

「そのことだけじゃないよ!」

ゴンがそれに反論する。旅団のこともあるが、念を極めたいから知りたいのだと話すと、クラピカはなおのことやめておけと話した。

「私の能力は旅団以外の者に使えない」

衝撃的な事実だった。
クラピカは自分の念能力を復讐のためだけを考えて決めたらしい。

「そのこと、ナナミは知ってるのか?」

「ああ。彼女には私のサポートをしてもらっている」

「そっか」

ゴンが悲しそうに呟いた。

「ナナミの能力はもともとサポート向きだったもんな」


オレ達は部屋でナナミを待ちながら、クラピカから念の秘密について聞くことにした。

 











「なんで、何で話したんだ! そんな大事なこと!!」

クラピカの能力についての詳しい話を聞いて、キルアが立ち上がって叫ぶ。

「まずいんだ! 奴等の生き残りに記憶を読む能力者がいる! おそらく対象者に触れるだけで欲しい情報を読み取れる力だ! 例えオレ達が全くしゃべる気がなくてもそいつなら自在に記憶を引き出す。もしあいつにこのことがバレたらクラピカに勝ち目はなくなる!!」

そのあとも、旅団に関する話し合いは続く。

パクノダという女の危険性。ゴンとキルアに固執している男の話。そいつが鎖野郎を諦めてないこと。
クラピカがヒソカと繋がっていたこと。旅団の頭が死んだことで、ヒソカがどう出るか分からないこと。
今なら旅団のアジトが分かること。

「どうする?」

キルアがクラピカに選択を迫る。

「やるならすぐだ! 考えてる時間ないぜ!」

「確かにその女は私にとって危険だが、旅団の頭が死んだ以上、私はゴンの言う通り同胞達の眼を戻す事に専念するよ」

「……そうかよ」

「…………あー、それにしてもナナミは遅くねェか?」

「!!」

ハッとなって顔色を変えたクラピカに驚いたレオリオが「どうした?」と尋ねる。

「ナナミの位置情報がおかしい……」

「いやいや、位置情報ってオメーなに言ってんだ?」

「ナナミと私は互いの位置情報を共有している。今、彼女はここより先の駅にいる。とっくに通り過ぎているんだ」

「どういうこと?」

「迷ってんのか?」

「とにかく電話してみよーぜ」

電話をするも、電源が切られているようで繋がらない。クラピカは焦っているようだった。

「てゆーか、位置情報の共有ってなんだよ。GPSでも付けてんの?」

キルアがクラピカに問う。

「そういう念具だ。私の方は攻撃力があがる加護もついている」

そう言って左手の指輪を見せるクラピカ。
三人は驚いてそれを見つめた。それは薬指にはめられていたからだ。

「え、クラピカとナナミって付き合ってるの?」

ゴンがストレートに訊いてしまう。

「違う。事実婚だ」

「「「はぁ(えぇ)?!」」」


ピルルルル――

クラピカの携帯が鳴る。クラピカは急いで画面を操作した。
しかし届いたメールはヒソカからで、



死体は偽物(フェイク)



クラピカは言葉を失ったのだった。














一方その頃――



ナナミは微妙な珍獣扱いに困惑していた。


「武運の神よ、フィンクスさんにご加護がありますように……」

ドゴォーーン――

「おっ、すげーな! ホントに威力が上がってるぜ」

「あんた、怪我とかも治せるんでしょ? フィンクス、ちょっと腕切り落としてよ」

「はっ? そんなんテメーの腕でやりやがれ」

「あたしが腕なくしたら、この子が失敗した時だれが腕を治すのさ」

「あ、あの。わざわざ新たな怪我を作らなくても、古傷とかでも良いのでは……」

「えっ、そんな事もできるの?!」

「やったことがないので分かりませんが、少しは良くなるのではないかと……」

「おい、オレのこの刀傷でやってみろ」

「お名前を伺っても?」

「ノブナガだ」

「治癒の神よ、ノブナガさんにご加護がありますように……」

「「「おぉー」」」

「すげー、消えた! ガキん時の傷だぜ?! これならフランクリンの顔も治るんじゃねーのか? かかかっ」

「あたしの割れたメガネも直るかな?」

「いやおまえ、それは無理だろ」


いろいろと試した結果、能力を盗めないと判断したクロロはナナミの能力を盗むことを諦めた。そのかわりクモに入らないかと勧誘したのである。
もちろんナナミは力不足を理由に丁重にお断りした。

そんな流れがあったからか、そのあとから他の団員に声をかけらるようになり、能力で遊ばれるようになったのである。











「どういうことだよ団長!」

クロロが今夜ここを発つことを宣言すると、ノブナガが大きな声で反発した。

「言葉通りだ。今日でお宝は全部いただける。それで終わりだ」

「まだだろ……鎖野郎を探し出す」

その瞬間、ナナミの心臓は高鳴った。センリツのような能力者がいなくて本当に良かったと考えながら平静を装う。

「ノブナガ、いい加減にしねェか。団長命令だぞ」

フランクリンがノブナガを窘める。


そこからクロロはノブナガを質問攻めにすると、ネオンと同じように、ネオンから盗んだ予知能力でノブナガを占ってみせた。

ナナミは自分達のことがバレるのではないかと、戦々恐々とした思いだった。


外は雨が降り出していた――















遺る手足が半分になろうとも


占いの結果を読んで、ノブナガは難しそうな顔をしている。

「来週おそらく5人死ぬな」

ナナミは部屋の隅っこで縮こまりながらも驚いていた。
旅団ほどの能力者が、半分に減ってしまうほどの打撃を受けるなど想像ができなかった。

(まさか、クラピカが……?)

いくらクラピカでも1週間で5人も倒すなど不可能だろう。そんなはずは無いと思いながらも、全くの無関係とも思えない。
どきどきと心臓が高鳴るなか、なるべく気配を消して静観するナナミだった。

「団長、ちょっとあたし占ってみてください」

メガネの女の子は占ってもらうと、それを読んで平然と来週死ぬのは自分だと告げる。
占い結果が2週目までしかないなど、絶望的で恐怖でしかないと思うのだが、やはり旅団のメンバーは価値観というか心の強さが違うのだと感じる。

クロロを中心に占いの解釈が進んでいき、緋の眼というワードが飛び交う。
どう考えてもクラピカのことだった。ナナミは泣きそうな気分になる。


今日中にホームに戻ることで、来週に鎖野郎と会わないようにする。そうする事で悪い予言を回避する方針のクロロ。
自分の役割を理解し、ノブナガもそれを飲み込んだ。


シリアスな展開に場違い感が否めない。
捕虜?である自分の前で、今後の方針などを話す彼らの神経が理解できない。
こんなに情報を与えられて、本当に生きて帰れるのだろうかと、ナナミは心配になり始めていた。



「これから残りのメンバーも占う」

クロロがそう宣言した。



「あ、あのマチさん……わたし、どこか別の部屋に閉じこめられていた方が良くないでしょうか。あまり皆さんのことを知りすぎてもダメですよね?」

順番待ちをしている間にこっそりと話しかける。

「ああ、あんた居たんだっけ。別にいいんじゃない? 団長あんたのこと気に入ったみたいだし、多少事情を知ったところで、あんたには何もできないでしょ」

「それは、その通りなのですが……」

「団長! 一応この子も占ったら?」

「ああ、そうだな」

「スミマセン、わたし自分の生年月日を知らないです……」

「そういえばスラム街出身だったな」

「スミマセン」

「ま、あたしらと同じってことよ」

「そうなんですか?」

「あたしら流星街の出だから」

「そうですか……」


旅団の異様さの理由が、また一つ分かったような気がするナナミだった。











ヒソカの占い結果をきっかけに、最高に緊迫した空気になった。
話題は赤目の客――つまりクラピカだ。
クロロはいくつかヒソカに質問すると、着々と考察を重ねていく。
クラピカが持っている能力を明らかにし、来週死ぬ予定のメンバーを確定していく。

(この人すごい賢いんだ……)

「団長、どうする? 退くか 残るか」

「……残ろう」








「それじゃ、班を決める。来週はこの班を基本に動き、単独行動は絶対に避けること」

「団長、一ついい? 子供がさここの場所知ってんだけど。まぁ鎖野郎とは関係ないみたいなんだけど。やっぱりどうも気になるのよね」

「子供?」

「そうだ忘れてたぜ団長! そいつの入団を推薦するぜ!」

「ちょっと! こっちはそんなつもりで話をしてんじゃないよ!!」

「?」

ノブナガが気に入ったという子供の話をする。聞けば聞くほどキルアとゴンにしか思えなかった。

(まさかの展開なんですが。これはフラグ?)

ゴンもキルアも一体なにをやってるんだろう。懸賞金目当てに旅団を追いかけて捕まるなんて……
まぁ、賞金首ハンターのくせに捕まってるわたしが言えたことじゃないけれど。

少なくともナナミのこれは故意ではなく、不運が重なった結果だと思っていた。


「たしかに面白そうな奴ではあるが、話を聞く限りそいつはクモには入らないだろう?」

「説得するさ!」

「――で、マチ。お前が気になることとは?」
「あ。えーと、なんとなく」

「勘か。お前の勘は頼りになるからな……用心のためアジトのダミーを増やしておくか」

クロロはコルトピに指示してアジトのダミーを増やさせた。
ビルのコピーの追加を50は平気と言う彼は、クラピカと同じ具現化系能力者だろう。

オークションの品物をコピーしたのもこの男であり、ネオンの持つ緋の目が偽物だということを知ったナナミだった。












全員で最終的な確認をしておこう。

そう言って話されていく内容は、心臓に悪すぎるもので。
ウボォーギンの証言から、ネオンのボディーガードに彼が捕まったことは知られている。

(あぶないとこだった……もし隠蔽の加護が無かったらわたし完全に詰んでたよ。拷問されてたかもしれない……いや、その前に記憶を読まれた時点でクラピカのことも全部バレるか)

もしもそうなっていたら、クラピカを誘き寄せる人質にでも使われていたかもしれない。

(そうなったらクラピカは……)

悪い想像しかできなかった。


「ボディーガード7人もしくはそれ以上……か。娘っこ一人に大層なこったな」

(確かに……10人は多いよね)

「親バカなんだろ」

「娘自身よりもその能力の方が大事なようだ。父親は娘の占いで現場の地位を築いたらしいからな。それを面白く思ってない連中もいるんだろう」

(全くもってその通りです)

「でもなんでこのコ、ヨークシンに来たのかな」

「そりゃあオークションなんじゃない?」

「シズク、パクノダ、ナイスだ。というかオレはバカだな。……なぜ組長の娘はヨークシンに来たか? そこにオレが気付いていればもっと早く鎖野郎にたどり着いていた……!」

(ヤバい。ヤバい……なんかマズそうな展開かも……!)

「占いの能力ばかりに気をとられ重要視していなかったが、サイトの情報によると、この娘には人体収集家というもう一つの顔がある」

「緋の眼か!!」

「ああ。鎖野郎がノストラード組に入ったのはたまたまじゃない。今回の地下競売に緋の眼が出品されることと、それをノストラードの娘が狙っていることを予めつきとめていたからだ。鎖野郎の目的は2つあった。オレ達への復讐と、仲間の眼の奪還」

(……ッ!!)

どうしよう。クラピカの身が危ない。せっかく指輪を置いて来たのに、今度は旅団の方がクラピカを探しに行こうとしている。殺すつもりだ。

あれよあれよと話が進み、緋の眼のコピーが円の役割を果たしていることで、宿泊先まで分かってしまう。

「団長、オレに行かせてくれ。頼む」

ノブナガがクロロに頼む。彼は旅団の中で一番クラピカを恨んでいる。

「いいだろう。そのかわりオレと一緒だ。単独行動は許さない」

クロロはメンバー交代の指示をだし、パクノダ、マチ、シズク、コルトピ、ノブナガを連れて鎖野郎ことクラピカを追いにいく。


残されたわたしはまた何もできないことに無力感を味わっていた。













(諦めちゃダメだ……考えなきゃ。現実的に考えて、あの人達を追いかけて止めることはできない。でも人数が半分に減った今なら、ここから抜け出すことはできるかも?)

せめて人質になることだけは避けなければ。

クラピカは、一対一なら負けないはずだ。
複数と対峙することになったとしても、きっと策を弄して旅団を翻弄してくれるはず……そう思ってはいても、不安で心配な気持ちは拭えなかった。


抜け出す方法を考えても考えても答えは出ない。6人とも隙が無さすぎる。彼らの気を逸らす妙案が浮かばない。
時間だけが刻々と過ぎていった。




「はい、これ」

シャルナークがペットボトルのお水を差し出してくる。

「あ、ありがとうございます」

「ナナミには悪いけど、もうちょい滞在してもらうことになりそうだよ」

「そう、みたいですね……」

「仕事とか平気? 何なら電話しても良いよ?」

「え、あ……そうですか? それじゃ、遠慮なく」

シャルナークが見守っているなか、センリツに電話をかける。手が震えそうなほど緊張していた。悟られないよう強く握る。
呼び出し音が鳴っている僅かな間、どうやって何を伝えようかと目まぐるしく考えていた。

「あ、もしもし、りっちゃん? 忙しいところごめんね。いま大丈夫? うん、そうなの。実は具合が悪くなってきちゃって……悪いけど来週はお休みするって店長に伝えてもらえるかな? うん、よろしく。店長にも無理しないでくださいって言っておいてね。じゃあまたね」

ナナミ? どうしたの?

心音が……

非常事態なのね?

探さないで欲しいの?

大丈夫、クラピカに伝えるわ

必ず生きて帰ってきて

センリツとの意思疎通は問題なくできた気がする。クラピカへの警告も伝わっていると思いたい。

今のわたしの心音はどんな感情に溢れた旋律なのだろうか。きっとわたしよりセンリツの方が詳しいだろうが。



「おい、シャル。団長がベーチタクルホテルに来いってさ」

「あいよー。じゃ、ナナミはフランクリン達と留守番ね。フランクリン見張りよろしくー」

「はいよ」

顔が傷だらけのフランクリンは、意外なほど穏やかに笑った。




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