9月4日@

sideクラピカ



デイロード公園で待ってる

ゴンとキルアからのメールを読んで考える。
ナナミは共に行けるだろうか?

熟睡しているナナミの眠るベッドに腰掛ける。

昨日、彼女は泣いていた。
泣いているナナミを見るのは初めてだった。

なにか辛いことがあったのだろうか。
思い当たらないのが歯痒い。なにか見落としている気がする。

「……くらぴか」

彼女の頭を撫でながら考えていると名前を呼ばれた。

「ナナミ? 起きたのか?」

「…………」

(寝言か……)

自分が彼女の夢に登場しているのかもしれないと思うと、胸が少しざわついた。夢の中のオレはどんなことを話しているのだろうか。




デイロード公園でゴンとキルアに会ってくる

そう書き置きを残して部屋をでる。
今日は2人して仕事の休みをもらっている。遅れてナナミも合流してくるだろう。


外はよく晴れていて、昨日の夜の騒ぎが別世界のように、賑やかで平和な雰囲気だった。


会って早々、ゴンに言われたよかったね≠フ言葉が刺さる。

良かった、のだろう。旅団の頭が死んだのだから。
それなのに喪失感を覚えている方がおかしいのだ。

これでやっと一番したかったことに集中できるね

たしかにその通りだった。

オレにはやらなければならないことが残っている――











目覚めると部屋には誰もいなかった。クラピカは書き置きを残して出掛けてしまっている。完全に寝過ごした形だ。


デイロード公園でゴンとキルアに会ってくる

「これってどういう意味なんだろう……」

会ってくる≠ニいうのは、会って話して帰って来る、という意味なのか、来たければ来いという意味なのか……

いや、行って良いなら待っている≠ニ書きそうなものだし、来てほしくないという意味だろうか。

「レオリオもいるのかな?」

約束の9月1日は過ぎてしまったし、男同士で集まって話したいこともあるのかもしれないし、わたしが混ざるのはお邪魔かもしれない。


「あ、レオリオ? 久しぶり! うん、ごめんごめん、仕事で忙しくて。レオリオは? ……うん……へぇ。わたしも今日は休みなんだけど、久しぶりに4人で会うなら邪魔しない方が良いのかなと思ってさ。だってクラピカに聞いたら気を遣われちゃうでしょ? レオリオなら教えてくれるかなーと思って。え? 違う違う! レオリオは――」

レオリオとの電話を終えて、少し気分が浮上したわたしは、久々にメイクをして出掛ける準備を整える。

レオリオはちょうど用事を終えたところで、今はゴン達のところに向かっている途中だという。
わたしの心配をよそにそんなことはいいからナナミも絶対に来い。全員で集まる約束だろ≠ニ言われて嬉しくなった。わたしもあの時の仲間の一人なのだと改めて実感する。




お気に入りのソワレ風ワンピースを着て集合場所のホテルに向かう。
ちょっと民族衣装っぽいデザインなのはクラピカの影響だと思われる。どれだけ好きなんだ、わたしは。

久しぶりの地下鉄に揺られていると、ちょっと荷物が大きい人とすれ違いざまにぶつかってしまった。

「あ、すみません……」

「大丈夫?」

どこかで聞いたことのある声だった。

「大丈夫で……す」

顔をあげて見て、わたしは内心で悲鳴をあげた。
髪色を変えてサングラスを付けてはいるが、忘れもしない。ウボォーギンと話していた金髪の男だった。アングラニュースで見たばかりの顔である。

(な、なんで生きてるの??!)

急にわたしが固まったのを不審に思ったのか、男はこちらをヒョイと覗き込み。それによってますます確信してしまい、わたしは血の気が引いていくの感じていた。

「あれ、どうしちゃったの? もしかして……オレが誰か気付いちゃった?」

最後の声は無感情で囁くようなボリュームだった。










駅をおりてから徒歩でどこかへ向かって歩く。
わたしは旅団の隠れ家に連れて行かれようとしているのだろうか。仲間がたくさん待ち構えているのかと思うと震える思いだ。

「逃げないんだね?」

「逃げたら殺されそうなので」

「へぇ、わかってるじゃん。まぁ、オレ達が生きてるってのをバラされて困るのは今夜までだし、明日には解放してあげられるよ」

大人しくしてればね、と脅すように笑った男はシャルナークという男だ。
盗聴している時にウボォーギンがそう呼んでいたし、さっき自分でオレはシャル≠ニ名乗った。
彼ら幻影旅団の琴線が分からない以上、大人しく無力を装って様子を窺うしかない。装わなくても無力だが。



廃墟のようなビルが立ち並ぶエリアにやってくる。
いかにも悪者集団が使っていそうな場所だ。予想通りすぎる。

「しかしよくオレだって分かったよね。マニアなの?」

「いえ。そういうのが得意なだけです」

嘘である。声を知らなければ気付かずにいただろう。その方がどんなに幸せだったかもしれない。

(でも、クラピカには旅団が生きてるって知らせなきゃ……)

そのためには生きて帰らなければならなかった。

(心配、してるかな?)

それでも咄嗟の判断で指輪をこっそり電車内に置いてきたのは正解だったと思う。我ながらあの状況下でよく気付いた。
もしも旅団の隠れ家に監禁されるのだろうわたしをクラピカが迎えに来てしまったら?
確実にクラピカは勝ち目のない戦いを挑むだろう。
一対一での戦闘ならまだしも、旅団レベルの能力者複数人に囲まれて勝てるわけがなかった。あの陰獣ですら全滅させられたのだから。


そうこうしているうちにビルの一つに入っていく。

小部屋に入って荷物を置くと、またどこかへと移動させられる。
一番奥にある大部屋のようなところに入った途端、複数の視線が刺さった。そこは予想以上の数の念能力者に溢れていた。

(ヒソカ……! あんた旅団だったの?!)

わずかに動揺してしまったが、それは部屋にいるメンバーの多さにびびったせいだと誤解されたい。
ぜったいにヒソカと知り合いだとバレたくない。わたしがプロハンターだとバレたら警戒度が上がってしまう。

わたしに気付いているはずのヒソカは無視を決め込んでいるし、きっと成功するはずだ。

中央にはオールバックの黒髪男が座って本を読んでいる。
だいぶ雰囲気が違うが、昨日会ったばかりのクロロだろう。ネオンに近づいた目的を知りたい。できることなら。












「団長

「どうした、シャル。そいつは?」

「オレちょっと変装ミスっちゃってさぁ、この子に正体を見抜かれちゃったんだよねー」

「で、連れてきたのか」

「そー。ちょっとの間ここに置いてもいい? オークションが終わったら撤収するんだし、そうなったら生きてるのバレても問題ないよね? どうせ時間が経てばバレるんだし」

「まぁ、そうだな。別にいいぞ」

「OKだってー。大人しくしてれば生きて帰れるよー。良かったね

有り難いことには変わらないので頷き返しておく。

テキトーに寛いでていいよ、などと投げやりに言われ。全く警戒されてない様子に喜べばいいのか、悲しめば良いのか……複雑に思いながら部屋の隅っこの瓦礫に腰掛けた。

「そういえば君、名前はなんていうの?」

シャルナークはニコニコと話しかけてくる。それが逆に怖いし、胡散臭い。

「ナナミ」

「へー、ナナミかぁ。ナナミはどこに行くとこだったの?」

「友達とデート」

「なるほど。だからそんなにオシャレしてるんだ。残念だったね」

ま、次があるから元気だしてね。そう言って去っていくシャルナーク。
周りの者は無関心なようだが、きっとしっかりと聞いているに違いなかった。迂闊なことを言わないようにしなければ。

左手の薬指が心許ない。
御守りがないというのは意外と心理的な負担があった。







「ああ、どこかで見た顔だと思ったら昨日の女か」

唐突にクロロが喋りだす。
本気でわたしのことを忘れていたらしい。

(ずっと忘れていてくれたら良かったのに……)

「えっ、団長の知り合い?」

「昨日能力を盗んだ時、盗んだ女と一緒にいた女だ」

「なにそれ、すごい偶然。っていうか、ナナミは昨日も今日も旅団のメンバーに遭遇したのか。遭遇率高すぎ」

なんだかウケているシャルナークだが、わたしはちっとも笑えない。

「というか不自然だな……パク、念のため記憶をみてくれ」

「なにを訊く?」

「何を隠しているか、だ」

「オーケー」

パクと呼ばれたセクシーな女の人が近づいてくる。

(ヤバいヤバい……! 記憶をみるってなに?! そういう能力?! クラピカのことがバレちゃう?! どうやったら防げる?!)

わたしは藁をもつかむ思いで隠蔽の神に祈っていた。

「ふふっ、そんなに警戒しないで。ちょっと質問するだけだから」

そう言って彼女はわたしの肩をつかむ。力は入っていなかった。

「何を隠しているの?」










「…………へぇ、凄いわね。あなた」

いったい何が凄いのか。内心ビクビクしながら、ゆっくりと伏せていた顔をあげた。

「聞いてよこの子、人生2回目なのよ。一度死んで生まれ変わった記憶――前世の記憶があるの」

それはわたしの人生最大?の秘密であった。
だけど最も恐れていたのはクラピカ関連のことで、あとは念能力者であること、プロハンターであることがバレることだった。

(隠蔽の神様のおかげ……?)

わたしは深く神様に感謝した。

「そういえば輪廻転生を信じてると言ってたな。経験談か」

あっさりとクロロは信じたようだ。さすが霊魂を信じている男。

「あとはそうね、出身がスラム街であること、魔法が使えること」

「魔法?」

「そ。この子は念を知らなくて、ずっと魔法だと思っていたのよ」

「どんな魔法が使えるんだ?」

わたしに向かってクロロが尋ねる。
パクノダと呼ばれた女性はもう離れていた。

「……治癒の魔法とか、浄化の魔法とか」

「へぇ、やってみせてくれ」

「……そうやってネオンの予知能力を盗んだの?」

「そうだ。オレは盗賊だからな」

「クロロさんは神様を信じてる? この魔法は神様を信じてないとできないと思うけど」

「いいからやれ。浄化の魔法でいい」

「……浄化の神よ、この部屋に加護がありますように」

黒い光があたりを包み込む。あっという間に掃除をしたあとのようにキレイになった。

「汚れを落としたのか。浄化の効力は他にもあるのか?」

「たぶん、毒を取り除いたりもできると思う……やったことはないけど」

「そうか。こっちへ来い。この本の手形にさわれ」

きっとクロロの能力を盗む≠ニいう能力の条件なのだろう。
わたしはそれを理解していながらも、躊躇いもなく本に触れてみせた。
理由はわからないが、クロロは神様を信じていないから能力を使えないと確信していたからだ。

「…………盗めないな。念ではないということか?」

「神様からのご加護だよ」

「その、神というのは何処の神だ?」

「日本の八百万の神様」

「ニホン?」

「わたしの前世の生まれ故郷」

「そういうことか……面白いな。お前の存在は異質だ」


そんなことは分かっている。
だからこそ秘密にしてたのだ。
ずっと隠していたのだ。クラピカにだって言ってない。
こうなってしまったらもうどうでもいいけれど。




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