斡旋所の紹介

再び訪れた千耳会では、刺青だらけのお姉さんに驚いて迎え入れられる。
イズナビ師匠も言っていたが、半年で念を覚えてくるのは随分と早いらしい。彼女はわたし達のことを覚えていた。

わたしとクラピカは、ヨークシンのオークションに強いコネクションを持つ雇い主を探してもらう。
条件に合った候補は三人。そのうちの人体収集家のところの面接を受けることになった。

運良く直近の面接日は5日後。
それまで現地で情報収集をすることにして、わたしとクラピカは飛行船のチケットを手配した。







飛行船の個室に入ると、クラピカの前で能力の一つを披露する。

木曜日の噂話(サーズデーゴシップ)と名付けた能力で、さまざまな噂話を拾い集める風に舞う念魚ちゃんだ。50匹まで出すことができる。
ちなみに春の神様の加護なので、真冬は活動が鈍ってしまう。

木の葉や昆虫などの動植物に擬態して諜報活動をする彼らは、玉石混交の情報を多量に集めてしまうのが難点だが、それはそれで面白いし、どんな情報も術者であるわたしの使い方次第かなと考えている。

今日の天気は快晴。風もなく、船は時刻表通りに着きそう。
船長の髭はつけ髭。童顔なのがコンプレックス。
チケット売り場のお姉さんは医者と不倫をしている。
白い帽子に白いワンピースの少女は本当は男の子。誘拐の途中。
購買のおじさんはお釣りをちょろまかしている。

届いた報告書を上から順に読んでいく。
シビアな現実をいろいろと知ることになりそうな能力だった。


「ちょっと誘拐事件を一つ解決してくるね?」

「気をつけるのだぞ」

「うん、油断はしない」

「こちらの方は気にするな」

「はーい。行ってきます」










「こんにちは。わたしはプロハンターのナナミという者です。ちょっとお話いいですか?」

白いワンピース姿の男の子を見つけると、隣の誘拐犯達が一般人であることを凝を使って確かめる。
誰かに操られているわけでもなく、本当に普通?の犯罪者だ。アマチュアハンターよりも弱いだろう。

「な、な、ななっ?!」

「プ、プロハンターがいったい私達夫婦に何の用でしょうか」

夫役と思われる男の人は動転して言葉になってすらいないが、妻役の女の人は強かだった。

「お子さんのお名前を聞いても良いですか?」

「何故ですか?」

「言い方を変えます。その子は誘拐中のジョシュアくんで間違いないですか?」

わたしはニッコリと笑って声を潜めて囁いた――






浄化の力を宿した水の剣を使って犯罪者達には心を入れ替えてもらい、捕らわれていた少年を保護して警察に連絡をとる。

次の停泊場で犯人共々引き渡しを完了すると、ぞろぞろと犯罪者集団らしき男達を引き連れたクラピカと合流した。あちらも収束したらしい。
ライセンス狙いの騒動は、これまでにも何度か遭遇したが、一般人と念能力者では、力の差は歴然だった。



「ライセンスの無料特典は有り難いけど、こういう問題を運んでくるのは面倒だよね」

わたし達は個室に戻って一息をつく。

「仕方があるまい。一応ライセンスの提示は義務付けられているのだ。それに犯罪者を捕らえるのは我々の本来の仕事だ」

「そっか。それに賞金首ハンターだもんね。でもあの人達ブラックリストに載ってるのかな」

「指名手配はされているのではないか?」

「まぁタダ働きでもいっか。少しでも巷の犯罪者が減るのは良いことだもんね」

「警察に貢献しておくのも悪いことではない」

「なんだか犯罪ハンターになっちゃいそう」

「ナナミの場合、それでも良いのではないか? 情報収集力といい、改心させる浄化の能力といい、向いていると思うが……」

「うーん、何でもいいや。クラピカの側にいられるのなら!」

「そ、そうか……」



戸惑うクラピカは可愛いと思う。
でも真剣に修行に打ち込む姿はカッコ良かった。

知れば知るほど、好きだなぁと思うのだ。












現地の宿泊先はまた同じ部屋にした。
一応ツインルームにしたからか、クラピカからの文句は今度は無かった。
わたしはダブルベッドでも良かったけれど。

「まだ早いか……」

「何がだ?」

「ん? 何でもない。それよりもコレ見て! 面接先のボスって女の子みたい!」


ノストラード組の組長はライト=ノストラード
ライトは娘を甘やかしている
ライトの娘は凄腕の占い師
ライトの娘の占いは予知能力に等しい
ライトは娘の能力で片田舎からのしあがった
娘の名前はネオン=ノストラード
ネオンには護衛団がついている
護衛団はいつも人員募集中
護衛団のボスはネオン=ノストラード
ネオンは人体収集家の趣味を持つ


今回の面接先に関する情報をピックアップして書き出したものをクラピカに渡す。

「なるほど。ネオン=ノストラードについて調べてみるか」

「そうだね」








ネットカフェの個室にて、カタカタとキーボードを打ち鳴らす。

「この100%当たる占いって、やっぱり念だよね? ってことはボスは念能力者?」

「おそらくな。だが、以前のナナミのように無意識に発を使うタイプかもしれない」

「そっか。その可能性もあったね……だから護衛団が必要なのか」

「父親が過保護なのも要因だろうがな」

「デパートでの買い物し放題の噂がすごいあったけど……すごくワガママなお嬢様なんだって」

「学校に通っていた経歴もない。これでは籠の中の鳥だな……父親の道具と言ってもいい」

「なんだか可哀想な環境だね。マフィアの子供達ってみんなこうなのかな?」

「少なくとも後継者であるならこんな教育はしないはずだ」

「違法な商売はしてない組で、とりあえず良かったとは思うけど……」

「まずは我々の働きをみせて信用を得る必要があるな。私はライト=ノストラードを狙うから、ナナミは娘の方を頼めるか? 女性同士の方が懐柔しやすいだろう」

「そうだね。歳も近いし、仲良くなって、秘密を話してもらえるように頑張ってみる」

「こんな事まで頼んですまない……」

「なに言ってるの! むしろ役所があって嬉しいよ?」

「……助かる。ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして。頑張るね」

「だが無理はしないでくれ」

「クラピカもね」

「ああ」


視線が絡んで見つめ合う。
ゆっくりと近付いてくる顔がキレイで目が離せない。
唇と唇が触れ合って初めて目を閉じる。
わたし達はキスをしていた。

 





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