念能力の取得


あれから2か月――

精孔を完全に開いて纏を覚え、絶を覚え、練を学び……わたし達は発の修行に入っていた。
水見式と呼ばれる診断で、クラピカは具現化系と分かり、わたしはやはり特質系だった。

グラスを構えて練をする。
練を長時間やり続けるのはなかなかしんどい。しんどいが続ける。そうすると少しずつ維持できる時間が長くなるのだった。それが発の修行。

だが、与えられた課題はそれだけでなく、具体的な技について考えることも発を習得するための修行だった。

わたしは特質系なので、ひたすら自分で考えるしかない。
出来ること・出来そうなこと・やりたい事を絡めて必殺技について考えていく。



神様に祈って加護を得る。
それはわたしが前世で日本で過ごし、八百万の神様を信じていたからできたことだと思う。

便利なようで具体的じゃなかった魔法は、効果がいまいち分からなくて困った時もあった。
だから、神様の種類と効能を絞る。
そもそも八百万もの神様全員の出番など早々ない。
よく使わせて頂いている神様に限定して力を貸してもらうかわりに効果効能を上げてもらう。より具体的に。


その基本となる思想は、五行説の自然哲学をもとに考えることにした。
日常的に使っている七曜はやはり馴染みが深く、神様とも連携が取れやすいと考えたのだ。

火水木金土の五行は、季節や方角とも繋がっている。応用イメージがしやすいのも決めた理由だった。

「基本は五行だとして、太陽と月も外せないよね……」


右手の親指の爪が白、人差し指が黄色、中指が赤、薬指が緑、小指が黒。
染まったことで、より神様が身近に感じられるようになった気がする。ただの思い込みだろうけど、そういうフィーリングみたいなものが、念能力には大事なのだという。
自分に合っている≠ニいう感覚を大切にしないと上手く使いこなせないらしい。

「付け爪にしようかな……?」

生爪は剥がせないけど、爪を外したら武器になるとかどうだろう。便利そうな気がする。

そこからわたしは自分が使いこなせる道具について色々と考え始めたのだった。










やがて5ヶ月ほどが経ち、発がある程度の形になった時、わたし達はイズナビ師匠に一緒に呼び出された。
普段は別々に修行していただけに、珍しいことだった。

「よし! んじゃ、おまえら今日で念の基礎修行は卒業な。そんで、クラピカ、ナナミ。裏ハンター試験、合格だ。あとは何でもいいから経験を積んで各自で修行しろ」

「裏ハンター試験か。なるほどな」

「やっと卒業、ですか……」

「やっとっていうが半年で卒業できんのは異例の早さだからな?!」

「そうなのか?」

「当たり前だろ! 誰もがこんな早く四大行を習得できてたまるか! 普通は最低でも一年はかけるんだよ……それをおまえ達は命知らずにも急かしやがって――」

「しょうがないですよ。わたし達には急ぐ理由があったわけですし」

「ああ。なんとか9月に間に合ったな」

わたしとクラピカはお互いの進捗を詳しく知らされていなかっただけに、一緒に卒業できて良かったとホッとした。







荷物を整え、出発の準備をする。
わたしとクラピカは早速また千耳会のおねーさんのところに行こうとしていた。今度こそ雇い主を紹介してもらえると信じて。

コンコン――

「はい、どうぞ〜」

「ナナミ、行く前に少し話があるのだが構わないか?」

「あっ、クラピカ。わたしも丁度クラピカに渡したいものがあったんだ」

「渡したいもの?」

「まぁ、座ってよ」

クラピカが部屋に入ってきて座るのを待ってから、わたしは数週間かけて作り上げた御守りリングを取り出した。

「それは?」

「わたしの能力で作った御守り!」












日曜日と月曜日の輪廻(サンデー×マンデー)と名付けた能力で作ったそれは、太陽の神と月の神の加護をこれでもかと込めて作り上げたペアリングだ。

効果は陰陽の引き合う関係で、離れていても相手の居場所や生死がぼんやり分かるというものだ。
金色と銀色のリングで、それぞれ能力アップの加護も付加してある。


「でね。金のリングは攻撃力が、銀のリングは防御力が上がるようにしてあるの。クラピカに片方あげるから、どっちか選んでくれる?」


金のリングは太めでやや男性的なデザイン、銀のリングは細めでやや女性的なデザインをしている。
これはわたしが意図したものではなくて、神様のイメージから勝手になったものだった。

ちなみに、想い合う男女がお互いを守ることを誓って身につけると更に効力が増す。
この片思いが叶ったら良いなぁという願掛けみたいなものだ。誓約と制約にも似ている――というかまさにそれか。



「私がもらっても良いのか? もっと大切な人ができた時のために取っておくべきではないか?」

「なに言ってるの! クラピカが大切だから作った能力だよ? 一緒に活動するのに、お互いの安否確認ができるのは便利でしょ? もしもクラピカが1人で困った状況に陥った時は、わたしが絶対に助けに行くから待っててね!」

「それなら逆も構わないということだな? 私もナナミの窮地には助けに向かうと約束しよう。しかし常にとなると……私は気にしないが、ナナミはプライバシーの侵害になり得るのは平気なのか?」

「平気、平気。わたしそういうの気にしないから! あ、でもクラピカが居場所を知られたくない時は置いていって良いからね? でも仕事中はできるだけ持ってて欲しいかなぁ。どんな危険があるか分からない世界だもんね」

「そのことなんだが……ナナミは本当に私についてくるのか?」

「わたしの気持ちは変わらないよ。クラピカは? やっぱり嫌になったの?」

「いや。有り難いと思っている。悪かった、今更だったな……改めて、よろしく頼む」

「うん。一緒に頑張ろうね!」

そう言ってリングを差し出すと、クラピカは攻撃力が上がる方の金色を選んだ。

「ナナミにはそちらが似合うからな。私は強化系ではないから、攻撃力が上がるというのも助かる」

「じゃ、わたしが月の女神様のほうね。クラピカのは太陽の神様の加護だから、能動的にもなれると思うよ」

「そうか。努力するとしよう」













sideクラピカ



ナナミから唐突に渡されたものはナナミの能力で作ったという加護付きのリングだった。

離れていても相手の居場所や生死が分かるという通り、手に持ってみると目の前に何かがあるような気がする。温かい光のような感じのものだ。
ほんやりと分かる≠フ効力は、だいたいの方角と距離が判るという精度のものらしい。

相手に居場所が分かると聞いて、発信機のように正確なものをイメージしていたが、これならプライバシーの侵害という程のものではないかもしれない。




クラピカが大切だから作った能力だよ?


以前、少しだけ相談された時に、情報収集系の能力を作ろうとしていることを知った時にも思ったが、ナナミはオレに協力しすぎではないだろうか。
緋の目の収集のために貴重な特質系の能力を決めるなど……

まるでオレのために生きているかのようだ。

そんな事はないと解ってはいるが。それでもやはり、こうして気遣いと特別扱いが重なると、別の意味でも期待してしまうのは確かだった。

(指輪か……)

偶然だが、自分の能力である具現化した鎖も指輪に繋がれているものだ。やはりオレとナナミは考え方が似ているのかもしれない。



ただ持っているよりはと、指輪をはめようとして考える。
右手の指は全て鎖で塞がっている。着けるなら左手だろう。問題はどの指に着けるかだ。

チラリと確認すると、ナナミも左手に着けようとしている。
あからさまに過ぎるかと一瞬だけ悩んだが、ナナミとの繋がりが嬉しいのは事実なので、思い切って薬指に着けることにした。心臓に繋がっているとされる、既婚者が結婚指輪などをはめる指だ。

「…………!」
「あっ……!」

指輪をはめると、それまでぼんやりだった位置情報が、急に精密なものになった。
ナナミも驚いているところを見ると、予想外のことらしい。
いったい何が起こったのだろうか。

「ごめん、クラピカ。一つ言い忘れていたことがあって……実はこのリング、相思相愛の者が着けると効力がアガリマス」

ナナミが片言に告げる。

「ソウシソウアイ……」

オレも片言になっていた。












急にクリアーになった位置情報に驚いてクラピカを見ると、彼の左手の薬指に指輪がはめられていた。
もう一度言おう。左手の薬指である。
大事なことなので2回言った。

博識なクラピカが左手の薬指に指輪をはめることの一般的な意味を知らないはずはなく、そもそも明瞭になった位置情報にリングの能力が上がったことは疑いようのない事実で。
それはつまり。

誓約と制約が成立したということだ。
クラピカとわたしは想いあっていて、お互いに相手を守ろうと誓ったということになる。
まさかの展開だ。わたし達は両思いだったのか。
どうしよう。嬉しい。
でもとりあえずクラピカにこのことを伝えなければならない。

わたしはなんとか照れを押し込めて白状した。

「ごめん、クラピカ。一つ言い忘れていたことがあって……実はこのリング、相思相愛の者が着けると効力がアガリマス」

最後ちょっと片言になってしまった。恥ずかしい。

「ソウシソウアイ……」

大丈夫かクラピカ。片言になってるよ。
そんなに衝撃だったのか……いや、わたしもだけど。

くわっとクラピカの目が見開いて赤くなる。
よく見ると彼の顔は真っ赤だった。
そして暑い。
もしかしたらわたしの顔も赤いのかもしれなかった。


「なんか、ごめんね? こんなふうに暴くつもりは無かったんだけど……その、まさか両思いだとは思わなくて」

いやこれ今更だけど言い訳だよね。
よく考えたら能力向上が発動しなかったら片想い、発動したら両思いってことが分かる仕組みじゃん。バカかわたし。なんでそんな願掛けをした。気まずいにも程がある。

「そ、そうか……」
「うん、そう……」

両思いで嬉しいのに複雑だ。
だってクラピカは言うつもりが無かったかもしれないし。
それを勝手に暴いてしまって素直に喜んでいいのか分からないし。
この後わたし達がどうなるのか、見当もつかない。



お互いに挙動不審のまま、わたし達はイズナビ師匠のもとを巣立ったのだった。












移動中こっそりと指輪を薬指にはめなおす。
これでクラピカとお揃いだ。
本物のペアリングみたいで嬉しい。

わたし達は両思い……だけど、それは良いことなのだろうか。
お互いの存在が弱点になり得るということでもある。

(まぁ、頑張るしかないよね……)

死なないように、傷付かないように、心配かけないように……
頑張ってもっと強くなる。
それが幸せへの近道に思えたのだった。




千耳会への道すがら、右手がクラピカの左手に攫われた。
言葉もなくギュッと手をつかまれて、ドキドキするのが止まらない。
離さないと言われたような心地になる。
わたしも彼の手を握り返し、離れないと応える。

伝わっただろうか。
なにも言わないのは、弱さか、優しさか、困惑か……
分からないけれど。今はこのままでいい。
ハッキリさせるのが全て正しいわけじゃない。

でも、これからは……

ずっと一緒にいられるといい。
修行も一緒にできたら嬉しい。









ハンター試験&ゾルディック編 完

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