赤い実はじけた


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七章 討伐中の変事 side F


◆違和感と警笛

「そろそろか……」
 残りは他の騎士達に任せて問題なかろう――そう考えたフェルディナンドは、この場の指揮をカルステッドに任せて残す指示を出す。連続で弓矢を放って何本もの枝を落とし、魔力をそれなりに多く使ったフェルディナンドだが、回復薬を飲む程ではない。それでも念のためにと呷る。元々このあとのことを考えて、少しは余力を残しておくつもりであった。ローゼマインの魔力が目立たぬ程度には、癒しの儀式を補佐するためである。
 問題は、先程から気になっていた右手の違和感である。おそらく手の甲にある印が熱を持っている……そこから何か嫌な感じがしていた。
 フェルディナンドは討伐を終え次第先程の場所に戻るように告げ、自分は先に戻ると宣言してその場を離れる。彼のどこか焦った様子に「何かありましたか?」と驚くカルステッドの問いに答える余裕もなかった。
 彼は今まさに、ローゼマインに着けたお守りの発動を感知したのである。魔力を叩きつけるように騎獣を飛ばし、対の腕輪を確認すると、風属性の石が使われたことが判る。防御か、反撃か――とにかく何らかの攻撃か衝撃を受けたのであろう。闇属性の石が無反応なので、トロンベではないと思われた。魔獣か何かだろうか。ならば護衛が駆除しているはずだが、それでも尽きぬ不安から、フェルディナンドは一目散にローゼマインのいる場所を目指して空を駆けていた。
 徐々に近付いていくと、小さなローゼマインの姿が視認できる。魔獣に囲まれているような事もなく、ひとまずは無事なようだった。だが、側に跪いて彼女を庇うようにしているフランの表情が、騎士に向かって抗議しているように見える。聴覚も強化したが、身を切る風の音に消されて会話はうまく聞き取れなかった。
 ――フランが怒りを表すなど何事だ?
 周囲を警戒しながら彼らに接近していくフェルディナンド。声が聞き取れる範囲に入ったのと、シキコーザが怒鳴り散らしたのは、ほぼ同時であった。
「何だ、その生意気な目は!? 抉り取ってやろうか!?」
 シキコーザがシュタープを取り出し、メッサーに変えてフラン達に近付いていく。フランが理由もなく貴族に反抗するとは思えない。ローゼマインを守る体勢からしても、明らかに異常事態であった。まるで話を聞くつもりが無さそうなシキコーザをダームエルが諫めている。
 その発言内容に、フェルディナンドは怒りと驚愕に身を焼かれることになった。

2023/04/03



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