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「ちょっと待ってて」

 家に着いたわたしは、マーボーを玄関に置いて自分の部屋へと駆け込んだ。学習机の上には、色付きの針金で口を縛った透明の袋と水色の紙袋が並んで置かれている。
 それを引っ掴んで玄関に舞い戻った。

「あれ。袋、増えてる」

 左手には、赤い箱を入れた赤いつやつやの紙袋。右手には、透明な袋を入れた水色の薄い紙袋。マーボーは訝ってわたしを見た。

 その反応だけでも、わりと満足だ。

「マーボー、君は非常にラッキーだよ」

「なにが」

「だって、わたしの手作りチョコが食べれるんだからね」

 ぽかんとした表情が、途端に変化した。ざあっと青ざめていく。

「て、てづくり……?」

 当然の反応、というか、もう慣れた反応だった。マーボーはわたしの料理の腕を信じたことがない。

 小学五年生のとき、調理実習でクッキーを焼いたことがあった。小学生のときよ、小学生。結構うまくいったから、そのとき小二だったマーボーにも分けてあげたんだけど、それがどうも好みじゃなかったらしくて、それ以来この子はわたしの手料理と聞くと飛んで逃げ出すようになったというわけ。トラウマってやつなのかも。

 もう七年も前のことなんだけどなあ。
 ぶんぶんと首を横に振るマーボーに、わたしは溜め息しか出なかった。また、食べてもらえないのかな。仕様のない従兄弟だ。

 と思ったら、両手にあった袋が引ったくられた。

「うそ」

 思わずつぶやく。

「ありがたく、ちょうだいする。じゃあまたホワイトデーに」

 何だろう。よく分からないけど、数秒見つめ合った後、マーボーは「お邪魔しました」と言って出ていった。じゃあまたホワイトデーに、と付け足すあたりが律義なんだけど……。

 七年振りに、手作りしたもの受け取ってくれた。ぎこちないけど、あれは、笑顔だと思ってもいいんだよね?

「うそお」

 徐々に高揚してきた気分を押さえられずに、わたしはお母さんを探して狭い家中を駆け回った。

「お母さーん! 聞いて聞いて、マーボーがついにトラウマ克服したのー!」

 ハッピーバレンタイン!





 



(……喜びすぎ)



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