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 可愛らしい造花の添えられた華々しいラッピングの小さな箱や、暗色で決めたしっとりシックなお洒落な箱が、背の低いショーウインドーの上に所狭しと並べられている様は圧巻だ。

 デパートの結構なスペースを奪って存在感を示すそこは、ずばりバレンタインデーのためのチョコレートコーナー。

 わたしにとっては、このイベントのときだけ有名店のチョコが食べれるからうれしいなあ、くらいのものだけど、見てるのもすごく楽しい。毛とかが緻密に表現されたクマさんチョコ、置いてあるだけでよだれが垂れちゃいそうなトリュフに、要冷蔵のチョコレートケーキ、生チョコ、あと一番はボンボン!

「おーいっしそーう……」

 連れの存在を忘れるくらい、わたしはチョコレートに魅了されていた。そばにあったパンフレットを手に取り、パラパラめくる。

「いくらまでならオッケーだったっけ?」

「1000円」

 連れにそう聞かれて、パンフレットから目を離さずに答えた。ほんと、おいしそう。チョコ一つでわたしは幸せになれる。チョコ一つで、わたしは幸せにされる。何だか、これってエコノミー。

「税込み1050円のやつが欲しい。買って」

「上限越えてるじゃん。どれ?」

 ひょいと顔を上げると、少し低い位置にあったマーボーの顔は、複雑に歪んでいた。でも、それは一瞬のことで、すぐに直る。

 あ、マーボーっていうのは麻婆豆腐のやつじゃなくて、わたしの従兄弟のあだな。いわゆるニックネームというやつ。
 本名は誠(まこと)。それに坊やの坊が付いて、まー坊。マーボー。でも、発音は麻婆豆腐のマーボーで当たり。

「なに、今さら恥ずかしがっちゃって。毎年のことじゃない」

「……べっつに。あれ」

 ぶっすーっとした顔でショーウインドーの中を指差すマーボー。照れ臭いのを必死で隠してるんだろうなあ、まだまだ中学三年生なんだから。反抗期真っ直中のくせに、思春期に憧れちゃう年頃なんだよね。

 そんな従兄弟が指し示したのは、薄っぺらい、手のひらより少し小さなハート型チョコレート。
 飾り気のない、ただのミルクチョコレートだ。味なんて板チョコと大差なさそうだし、大したものじゃなさそうだった。

「あんなのが1050円……いいの? もっと種類あるやつにすれば?」

 パッケージは赤。マーボーは静かに指を下ろした。

「駄目なら他のにする」

「違う、違う。駄目とかじゃなくて」

「じゃあ買って」

「……りょーかい」

 ショーウインドー上の箱を手に取り、腑に落ちないなあと思いながらもレジへ向かった。もしかして、あのサイズの一枚チョコ食べるのが男のロマンってやつなのかな。飾ってない分だけ、量とかありそうだし。
 なーるほどー。

 財布から1050円ぴったり出して、チョコはつやつやした固い紙袋に入れてもらった。

 そのへんでぶらぶらしていたマーボーを捕まえる。

「お待たせしました」

「お待ちしました」

 わしゃわしゃ頭を撫でてやると、くすぐったそうに笑った。これが何とも可愛くて仕方ない。

「早くちょうだい」

 目を輝かせて言うマーボーに制止の意味を込めて手をかざした。

「まだまだ、お預け。先に家帰ろ」

「はあー?」

 見るからにがっかりした様子で表情を崩した従兄弟は、わたしの手から紙袋を奪おうと果敢に飛び掛かってきた。なかなか勇猛だ。でも、そうはいかない。わしっと頭を掴んで動きを止めてやる。

「落ち着きなさいね、マコトクン」

「ヒロ姉のS」

「まあ、どこでそんな言葉を覚えたのかしら」

 ジタバタするマーボーを軽くあしらって、わたしたちは家路に就いた。


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