SIT:04


 どうやら、近いうちに体力テストというものが行われるらしい。
 身体作りをするため、四限の体育は体育館でストレッチとランニングという話を聞いている。

 もちろん体操着への更衣が必要だ。三限終了後、わたしたち──わたし、小枝と咲乃、沙夕里、後ろから沙夕里に抱き付いて離れようとしない癖毛くん、引きはがすのに協力してくれている前髪くん、某不審者、小人くん──は、体育館の前にある小さな更衣室へ向かっていた。
 大所帯である。男女の更衣室は壁を隔てて隣同士にあるのだ。

「あんた、いい加減にしなさいよ。女子更衣室まで入ってくる気?」

 イライラしたような口調の咲乃が癖毛くんを睨む。彼の腕に抱かれた沙夕里は微笑を浮かべていた。

「だいじょうぶ、山江の着替えは見ない」

「そういう問題じゃないと思うぞ……」

「興味もないし」

 諌めようとした前髪くんの言葉を聞いて、何を思ったか結構なことを言う癖毛くん。

 食って掛かろうとした咲乃の肩を小枝が叩く。

「何よ、今のは女として聞き捨てならないじゃないのよ!」

「咲乃……、ドンマイ」

 仲裁に入ったわけではなく、笑顔で慰めていた。

 体育館へ続く渡り廊下を賑やかな一団が進む。
 コンクリートの通路にはくたびれた人工芝のマットが敷かれているため、上履きでも移動可能になっていた。むしろ、運動靴で上を歩いたら叱られそうな気もする。

「け、喧嘩は、よく……ないよ」

 後方から、小さく、不安そうな声が聞こえた。

「心配しなくても何とかなるもんだぜ、あれは仲が良い証拠!」

 合っているのか微妙な返答をしている葉山楓。小人くんはそうかなあとか何とか、ぶつぶつ言う。

 傍観している間に、更衣室前へ着いてしまった。

 さて。

「どうするのよ、沙夕里」

 怒りはもう収まったのだろうか、呆れからくる溜め息を吐き、咲乃が首に掛かった髪の毛を掻き上げた。

 沙夕里はニコニコしたまま癖毛くんを見上げる。かなりの近距離だ。その動作も簡単にはできない。

「邑弥」

「……なに」

 彼女である沙夕里でも引きはがせないようなら、わたしは助力を惜しむつもりはなかった。

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