そのまま、2人はジュエリーショップに駆けこんだ。スティーブンは白いタキシードの硬い生地が動きにくそうだったが、普段からスーツで戦う彼にはあまり行動の制限にはなってないかもしれない。
 あまりにもレオナルドの足が遅いせいか、途中から脇にかかえられていた。
 白タキシードの男が、トレーナーの少年を持ち運んでいるのは、あまりにも奇異な光景だっただろう。いらっしゃいませと静かな笑みを浮かべた上品な店員さんが顔を固まらせていた。一瞬後に営業スマイルに切り替えてはいたが。
 店の中に入ってようやくスティーブンがレオナルドをおろす。しかしその手は次にがっちりと肩を抱いてきた。
「あの、スティーブンさん」
「レオ、金と銀とプラチナがあるけど、どれがいい? 金でいいか?」
「あの」
「すみません、金のペアリングを注文したいんですけど」
「あの」
「お前指輪のサイズしってるか? お店で測ってもらおう。お願いします」
 テンションの高いスティーブンに口を挟むこともできなかった。あれよあれよとレオナルドは指のサイズを測られ、あれよあれよとスティーブンの家に連れて帰られた。
「あれぇ!?」
 気がついたらレオナルドは美味しい晩御飯まで食べて、良い匂いのお風呂に浸かっていた。今夜はパジャマがわりにバスローブを貸してくれるが、明日にでも荷物は全部運び入れる予定だ。いつの間にか一緒に住むことにもなっていた。
 そこまでくると、レオナルドは臆病な自虐を捨て去るしかない。スティーブンは本気でレオナルドと結婚するつもりだ。
 もしかしなくても、彼が告げた「好きだ」というのも、本気である。
(嘘だろ!? ミシェーラどうしよう!)
 ざぶん! レオナルドは思い切りお湯に顔をつけた。まさかこんなことになるなんて思っていなかった。苦しくなって顔をあげたが、お湯につけたって顔の熱は全然とれない。
 腹をくくって似合わないバスローブでリビングに戻れば、同じくバスローブ姿のスティーブンが待っていた。似合いすぎてて目の毒だ。
「レオ、明日には指輪が届くって」
「は、早いですね」
「朝一で取りにいこう。一緒に出社するの楽しみだな」
「えっ」
 たぶん、指輪は受け取ったその場ではめることになるだろう、そしてそのまま一緒に出社すると、どういうことになるか。レオナルドの頭のなかに出てきて憂鬱にさせるのは、銀髪褐色のあの人である。
 もちろん他のメンバーからの反応だって怖い。
「その、全部が全部急すぎるというか」
「だって君、殺されるかもしれないぜ」
「殺される!? まさか新婦さんにですか!?」
 レオナルドは結婚式当日に新郎を奪ってしまったのだ。恨まれていて当然だろう。
「牙狩りのスポンサーをするような家だぜ。諜報機関と暗殺機関くらい持ってるさ」
「待ってスケールがちょっと理解できないんすけど待って」
「だから教会に乗り込んでくるなら実在する女性はダメっていっただろ?」
「あれそういうこと!? 命狙われるからダメってこと!?」
「向こうもプライドかかってるからなぁ」
 後日正式に謝罪はするが、おそらく期間不明の長い戦いが幕をあけるという。当然、ことはスティーブンとレオナルドだけにとどまらない。ライブラの面々だって巻き込まれる。リーダー・クラウスの生家、ラインヘルツ家だって巻き込まれるかもしれない。
 それでもスティーブンはレオナルドと結婚をやめるつもりはないらしい。
 スポンサーから金を切られるのを躊躇って結婚しそうになっていた男が、今は結婚するためにスポンサーと全面戦争の構えを見せている。
「い、いいんですか」
「また新しいスポンサーを見つけるだけさ。それに敵が増えたって、ここはHLだぜ? 騒がしいのも危なっかしいのもいつものことじゃないか」
 おおむねその通りである。そもそも、花婿を奪ってしまったのだ。それなりの報復は当然あるだろう。レオナルドは小さく溜息をはいて、顔を上げた時には覚悟を決めていた。
 きりっとさせた表情はすぐに、スティーブンにキスをされてしまったけど。



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