10


 いつものように早朝に出勤したら、珍しくレオナルドが掃除をしていなかった。なぜか床に横たわってる。ついでにザップもソファに横たわっていた。
 こいつら、きっとここで寝た。
「死屍累々だな」
 2人とも起きているようだったが、ザップは反応する気力もないようだった。レオナルドの方はまだ軽いのか、顔を動かして目線をくれる。
「……おはようございます」
「やぁ、水がいるかい?」
「みずぅぅぅううう」
「わかったわかった。おいザップ、お前は?」
「みずぅぅぅううう」
「はいはい」
 どうみても二日酔いしてる2人に水をやる。水道水だが、この2人ならどうせ普段から飲んでるだろう。
 起きあがって水を受け取るザップをつめさせて、レオナルドもソファにひっぱりあげる。床で寝させておくのは忍びない。
「レオナルドは部屋が隣なんだからベッドで寝ればいいのに」
「う?え?…………あーそんな余裕もなくて。別に床でも寝れますし。スティーブンさん知ってるでしょ」
 知らない、と応えようとして、思いだした。マンションでレオナルドを泥棒かスパイだと思って拘束したとき、70時間寝かさなかった後は彼を床で眠らせた。
「あのときは、悪かった。あれ拷問だよなぁ。なんで君、僕を嫌いにならなかったかな」
 怖がるどころか、帰ってきたスティーブンに「おかえり」と言ったのだ。それに彼がまだ今もスティーブンを好きでいることは明白だった。でなければ昨日わざわざツーショットを撮ったりはしない。
「嫌いにっていうか、馬鹿だとは思いましたけど」
「えっ」
「もっと楽な方法あっただろうし、そもそもスティーブンさんがやる意味なかったでしょ。他の人に任せりゃいいのに、一緒に徹夜してどうすんですか」
「あー、うん」
 たしかにスティーブンは1人でレオナルドの相手をして、彼が寝そうになるたびに刺激を与えて起こした。それこそ付きっきり、同じだけの時間を寝ずにすごした。
 とはいえ、ただのコソ泥とも熟練のアサシンとも確証がない相手を、体に傷が残るような拷問をするわけにもいかなかっただけだ。それこそスティーブンがライブラの一員だと相手が知らないかもしれない状況で、手札をオープンにしたくなかったから全て1人で行った。
 それだけのことだ。
「君が馬鹿でよかったなぁ」
「おかしい、スティーブンさんが馬鹿って話だったのになんで僕がディスられてんだ」
「ディス……?それよりほら、約束の写真だ」
「わっ! ありがとうございます! ……うわ頭いってぇ」
 二日酔いで叫べば自分の頭にわんわん響いただろう。自爆だ。
「僕ちょっとコーヒーいれてきますね。ザップさんは?」
「俺コーヒーは悪化するタイプだからいらね」
「レオナルド、僕にもコーヒー」
 二日酔い2人が、豆鉄砲くらった顔してスティーブンをみてくる。
「は?え?本当にいいんすか」
「うん、いいんだ」
 嬉しいというよりは困惑一色の顔で、レオナルドはコーヒーをいれにいった。
 ザップといえば、いっそ恐怖すら感じているような顔のゆがめ方だった。
「なんつーか、スターフェイズさんあれっすよ。寝た途端急に態度がかわる女みてーっす」
 傷がひきつるのを感じる。今の状況は、心理的には似たようなものかもしれない。
 レオナルドはスティーブンに惚れてはいても、恋人を求めてはいない。それなのに、もしかして今、無意識に彼氏面してたのか。
「ザップ、お前寝た途端に彼女面してくる女をどう思う?」
「勘違いしてんなよヤリマンって思います」
 だよなぁ、とは言わなかったが、実に耳に痛い言葉だった。言葉の端々の単語が否定できない。
「なんかザップさん今クズ発言してませんでした?んで、スティーブンさんにはコーヒーでしょ。ザップさんにはオレンジジュース」
「おー、それなら飲める。ま、女の話は童貞にはわかんねーよなぁ」
 童貞は知らないが処女ではないだろう、と考えて、スティーブンは自分の思考に盛大に溜息をついた。


150728




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