男と女


※林間学校にて27話の後に何があったのかを妄想してみた。





「俺は見てあげるよ?男として」
そう言って碓氷は美咲を抱えあげ、呆気にとられたままの深谷を置いてどこかへと去っていった。

「碓氷…、碓氷、下ろせってば!」
抱えあげられたまま背中を叩いて抵抗するも、碓氷はただ無言で歩いていく。この雰囲気は機嫌が悪いんだろうか、そう美咲は考えるもこいつが不機嫌になる理由が分からなかった。
「…何なんだよ、アホ碓氷」
抵抗することをやめ、碓氷に連れて行かれるまましばらく行くと、碓氷は急に立ち止まった。そして美咲は下ろされたかと思うとどこか乱暴に肩を掴まれた。
「無防備すぎるって何度言ったら分かる訳?」
不機嫌オーラを全身に纏って碓氷は言った。
「別にそんなつもりは…」
「ない、っていうつもり?」
その眼はすごく冷たい。
「…言い方変えるよ。男と女が二人っきりっていうことがどれだけ危ないか、鮎沢分かってる?」
「そんなの…」
分かっている。でも相手はあの深谷だ。どうしてそんな心配をしなくちゃならないのか。
「分かってないんだよ、鮎沢は」
そう言って碓氷は美咲の両肩を掴み、半ば強引に口付けた。美咲は目を見開き、碓氷の胸を押して抵抗するもなかなか離すことが出来ない。それどころかそれを受け入れたいと思ってしまう自分がいることに動揺してうまく力が入らなかった。
「〜ッ!」
肩を掴んでいた手の力が弱まった一瞬の隙を衝いて、美咲は碓氷を思い切り突き飛ばした。唇を拭いながら涙が浮かぶ目で睨みつける美咲に、碓氷は表情を変えることなく口を開く。
「これで分かったでしょ、鮎沢」
その冷たさに怒りが含まれていることを悟った美咲は逃げることもせずただじっと碓氷を睨み続けた。そして碓氷もまた無言で美咲を見つめ続ける。
沈黙を破るように風がさわさわと木々を掠めて駆けていった。それを合図にしたように動いたのは碓氷だった。
一つため息を落として美咲に背を向けるとゆっくりと歩き出した。けれどそれはすぐに美咲によって止められた。きつく碓氷の腕を掴んでいる美咲は、どこか苦しそうに見えて、碓氷は顔だけそちらに振り返るとまた一つため息をついた。
「なに?」
「…お前が不機嫌なのは私のせいだってことも、お前が言いたいことも、何となくだが分かった…」
目を伏せ、申し訳なさそうに一つ一つ呟く美咲にはいつもの覇気がなく、それでいてどこか小さく見えた。それがとても心苦しく感じた碓氷は美咲に向き直ると、碓氷の腕を掴んだままだった美咲の手をそっと握って下ろさせた。
「碓氷…」
「鮎沢がそういうならもういいよ、ごめんね?」
くしゃり、と頭を撫でた碓氷を見ると、少しだけ笑みを浮かべていて。美咲はその表情に固くなっていた心が融けていくように感じた。
「いや、私も…すまなかった」
「…戻ろっか」
二人は少し離れて、そしてゆっくりと歩き出した。視線が絡むこともなかったが、纏う空気はどこか心地がよく感じて、さっきまであんなに荒れていたことなんか忘れられた。
女子の部屋の近くまで美咲を送った碓氷は、「おやすみ」と声をかけて美咲に背を向けた。
「碓氷」
決して大きくもなく小さくもなく、けれどはっきりとした声で美咲は言った。
「ありがとな」振り返らずに手を振って歩いていく碓氷の姿を見ながら、どこか心が穏やかな自分に気付き頬を染めた美咲を小さな風が撫でていった。
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