少しだけ、甘えたい時に


常から誰かに頼る事などしないから、まるで突然1人になったかのように寂しくなる時がある。
本当に1人になった訳でもなければ、孤独でもないはずなのに。

「─―――――…っ」

ぎゅっと胸元を、力を込めて握ってみても、苦しさは増すばかり。逃れる術は知らない。
仕事に埋もれた机の上に、雪崩込むように突っ伏す。ガサリと音を立てる紙切れたちが、この音のない世界での唯一の存在。
けれどすぐに訪れた無音の世界。静かな世界の再来は、孤独を増大させた。

「寂しい、か…」

脳を汚染するような漆黒の闇。

「っ、アホらしい」
「そう?人間らしくていいんじゃない?」

ふわりと香る匂いは、心の奥へ違和感もなく染みていき、温かさを持って広がる。
その理由は分からない。

ただ、ただ。

無音の闇に射した、心の中に光る香りは、まるで私を包むようにゆっくりと抱きしめる。

「俺を利用(ツカ)えばいいのに。鮎沢の為になら俺は、」
「そうして依存しても、結局辛くなるのは」
「きっとお互い様。俺ははもう、鮎沢ナシじゃ生きられないくらい、依存してるから」
「だったら尚更頼ってはいけない。私なんかに依存しても辛いだけだし、私までが碓氷に依存してしまったら」
「周りが見えなくなりそうで怖い?…俺は構わないのに」


無音の世界に流れ込んだ風は、何も盗らずに駆けていった。
本当は、頬を伝っている水を乾かして欲しかったのに。


「もっともっと、俺で染まってしまえばいいのに」



響いた声は優しく、私の身体を汚染していく。





優しくなんかしないで。
そう言えたら、こんなに苦しくならなくて済んだのだろうか…。
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