▽ 8-曇り時々晴れ
準備の進行状況確認のため、ナツはふらりと青学の金魚すくいへと立ち寄る。
たしかここの担当は河村さんに桃城さん、海堂さんだったはず…
そう思い覗いてみれば、ちょうど桃城と海堂が二人で休憩しているところだった。
二人仲良く、とは程遠かったが。
「だっせぇな海堂、俺なんて金魚すくいで一回に20匹くらい…ってナツさん!」
「ウッス」
「こんにちは、二人とも」
何やら白熱の金魚すくい論を交わす二人の間に邪魔はしたくなかったものの、なんとなく挨拶もしたのでその場へ近づく。
先程までの海堂との議論の様子とは打って変わり、桃城はニコニコと愛想のよい笑みを浮かべた。
二人とも根は優しい人たちなのに二人揃うと大変な事態になるのだ。
「こんにちは、ナツさん!例の如く進行状況の確認ッスか?」
「ここは順調ッスよ」
桃城に海堂、代わる代わるに答えてもらいナツも笑って頷く。
順調ならそれでいいのだ、それで。
ここでお暇しようか、とも考えたものの今は8月の真っ只中。
暑い陽射しがジリジリと降り注ぐ日なたに出るのも気が引け、ナツはもう少しこのテントの下にいることにした。
そして歯を見せて笑う桃城と、あまり笑顔を見せない海堂の二人を見比べる。
俺らの顔なんか付いてんのか?
知らねぇよ…
二人は不審に思いお互いに顔を見合わせ、ナツを見た。
しかしそんな二人を気にすることもなく、ナツは桃城をまじまじと見ながら呟く。
「桃城さんって…」
「…はい?」
「いつ見ても悩みなさそうですよね」
「…それ褒めてるんスよ…ね?」
「はい、全力で」
ポジティブな人と考えられているのか、それとも後先考えない能天気な人と思われているのか。
どちらか、と尋ねればポジティブな人と思われているらしい。
ならいいッス、と満足げな桃城をそのままに、ナツは海堂へと話を振る。
「天気に例えると快晴、というか…海堂さんはどう思います?」
「俺はコイツは単なる何も考えてない能天気な奴かと」
「海堂、テメェ…!」
「…フシュー…やるかゴルァア!!!」
もはやナツの存在を忘れ、喧嘩へと発展しそうな二人。
しかしナツはそれには気づかず、金魚すくいのテントの中から見える青空を覗き込む。
綺麗な夏空。
鋭い陽射しを抜きにすれば、夏空はいつまでも眺めていたいほど清々しい。
ただこの夏空が連日続けば、暑さを無視できるわけもなくて。
そんな時に入道雲がやってくるのだ、しっとりと地面を濡らす雨を手土産に持って。
もちろん入道雲を晴らすべくやってくる快晴だって必要なのだ。
「…桃城さんにも悩みあるんですかね」
「そりゃありますよ、海堂のヤツをどうすれば捩じ伏せられるか、とか!」
「それはこっちの台詞だ!」
海堂さんが入道雲、とは言わないけれど、時には桃城さんの快晴に海堂さんのような入道雲も必要だろう。
お互いなかったらバランスが崩れてしまう、そんな関係。
ライバルってそんなものなような気がする。
「二人は夏空みたいです」
「…へ?」
「…は?」
それじゃあ私はこれで、と頭を下げ歩き出すナツに桃城と海堂は何も言えずに見送る。
青学の曇りと晴れ。
喧嘩してばかりの二人は今日も対立しあっていた。
曇り時々晴れ
―海堂薫と桃城武の対立構図
prev /
next