▽ 65-道端に咲く花
これからいくらでも伸びるって。
現在中学一年生である檀太一に対して、人々は慰めの言葉を繰り返す。
彼の身長は、150センチに届かない。
この年齢ならばまだまだ希望はあるのだが、それは将来のこと。
大事なのは今なのだ。
今、他の同級生たちと比較しても小さいこの事実。
女子からも「檀君ってかわいいね」とまで言われ、正直言って複雑な気持ちになる。
もっとワイルドな男になりたいのだ。
例えば、同じ部活の先輩である亜久津仁。
彼こそ、檀にとってはまさに理想の人物だ。
「あれ、こんなところにゴミがあるです」
学園祭会場は広い。
施設自体もそうであるが、周りに広がる景色もそれなりに広さがある。
見事に整備された芝生の端に空になったお菓子の袋があるのを見つけ、檀は顔をしかめる。
ゴミ箱はすぐそこにあるというのに、なぜそこまで持っていかないのだろう。
むっとした表情のまま屈んでみると、空袋になったお菓子からはチョコレートやビスケットの残りかすがこぼれているのが見えた。
そしてその甘い粒を運んでいくアリの存在に気が付く。
何匹ものアリが、列をなして目に見えるか見えないかほどのものを運んでいく。
思わず、見入ってしまった。
この身長のせいか、地面に落ちているものや生きているものと触れ合うことが多い。
「あれ、太一君。何してるの?」
「あ、ナツさん!こんにちはです、ゴミを拾おうと思ったらアリを見つけたんです」
「わあ本当だ、運んでる!」
目をキラキラと輝かせて、ナツは檀の隣に座りこんだ。
空になったお菓子の袋と、そこから零れ落ちた食べかすと、それを運ぶアリたち、そしてその様子を眺める二人。
周りでは学園祭に向けて大声で指示を出し合う声が響いているが、ここだけは違う。
そこにあるのは、たしかに息づく小さな生物たちの生活。
普段は気にも留めないが、自分たちのすぐ近くで当たり前のように続けられているもの。
ゆっくりと袋を持ち上げて残ったかすを全部地面に出してやると、アリたちは一瞬動きを止めてから再び活動を続けた。
お菓子の袋を小さくたたみながら、檀は一つの植物に気が付いた。
「ナツさん、これってなんですか?」
「うーん、なんだろう。これから時間があるなら図書室に行って調べてみない?」
「はい、ぜひ!」
薄いピンク色をした1センチにも満たない花が、小さく声援を送ってくれた気がした。
普段は雑草と呼ばれて、見向きもされない花なのだろう。
少しだけ、自分の小さな身長を誇りに思えた。
他の人にはきっと気付くことのできない、雑草の花。
憧れの先輩とのかけ橋になってくれた、小さな味方。
道端に咲く花
―檀太一には見えるもの
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