▽ 48-合言葉
だんだんと学園祭当日が近づいてきた。
模擬店もアトラクションも、そろそろ追い込みである。
各学校の熱意はどこも負けていないのだが、その中でも一際上を行く学校がある。
立海大附属。
勝利をどこよりも深く求めている学校。
「ナツさん、聞いてくださいよー。ちょっと寝てただけでまた真田副部長から鉄拳食らったッス!ひどいと思いません?」
「それは切原さんにも問題が…でも真田さんを始め立海の皆さんはこの学園祭への熱意が他校とはまた違う感じがします」
「そうッスか?ま、常勝立海大がウチの学校ですしね」
ナツの姿を見つけるなり駆け寄ってきた切原にそれとなく訊いてみると、帰ってきた言葉は耳慣れないものだった。
常勝立海大。
それは立海大附属のモットーのようなものなのだろうか。
そう訊いてみると、「そんなもんッス!」と切原は明るく笑った。
常勝と言うことは、勝利することが当然であるということ。
立海大附属がそんなにも高い目標を掲げていたとは知らなかった。
しかし、たしかに文武両道の名門校であることは有名なことだ。
「学校全体がそんな雰囲気なんですね」
「正確に言えば学校全体ではなく、俺たち男子テニス部が『常勝立海』を掲げているということだ」
「うわっ、柳先輩どこから出てきたんスか!?」
「赤也、人を化け物のように言うなと教わらなかったか?」
それなりに人通りのある廊下の片隅で話し込んでいた二人のすぐそばに、いつの間にか切原の先輩である柳が現れた。
大げさなまでに驚く切原を開眼することによって静まらせる。
その顔を見ておびえる切原に首をかしげるナツに対し、柳は何事もないかのように話を進めた。
常勝立海大という意味。
負けてはならない、伝統校の意地。
わかりやすく説明をしてくれた柳の言葉にうなずくも、彼女の中には一つの疑問が浮かんでいた。
「それってプレッシャー感じないですか?」
「プレッシャー?ああ、まあそういう面もあるにはあるが」
「えっ、柳先輩そんなの感じてたんスか!?」
隣でおとなしく聞いていたかと思いきや驚いたようにこちらを向く切原に、柳も珍しく動揺した様子で見返す。
突然の切原の大声に周りにいた他校の生徒も何事かとこちらを振り向くも、そんな視線を気にした様子もなく彼は言い放った。
「先輩たちもずっと勝ってる方が気持ちいいから『常勝立海大』とか言ってると思ったッス!つーか、他に意味あるんスか?」
さらりととんでもないことを言う後輩である。
普通ならば、言いたくても言えないような言葉。
誰だって思っていても、自分の実力に見合う気がせず口には出せないものだ。
それを、いとも簡単に言ってしまう後輩。
まだまだ子供で考えも浅いが、この素直さが眩しい。
隣で聞いていたナツも同じことを思ったのか、小さく拍手をしながら切原を称賛した。
「尊敬します、切原さん」
「えっ、なんかわかんねえけどマジっすか!よっしゃー!」
ガッツポーズをして喜ぶ後輩の顔を見ていると、どこかにあった不安が吹き飛ぶ気がした。
常勝立海大は、まだまだ大丈夫だ。
自分たちが引退した後も、きっと。
合言葉
―立海大附属の自称エース
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