ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 47-回線コード


関東にある複数の学校が合同で行う学園祭。

ともなれば会場の大きさはそれなりに必要であり、人員も必要であり、機材も必要である。

全ての単位が一つか二つ、大きくなるものだ。

それに対して自分の体はどうだろう。

どんなに周りの規模が大きくなったとしても、変わることはない。

容量以上のことを押し付けられることなど日常茶飯事だ。



「えっと…これはどこに繋げれば…」



この時代、あらゆるものが無線化されているとはいえ、まだまだコードに頼る部分も多い。

放送機器のチェックを任されたナツであったが、目の前の状況はとても手におえるようなものではない。

赤に黄色に白に黒にと、色とりどりのコードが複雑に絡み合ったこの状況。

確認してみたところ、いくつか放送が正常に入らないものがあるとわかってはいる。

しかしこのコードをどのようにつなげれば自分の思い通りになるのか、まったくわからない。

まさしくお手上げだ。

困ったことが起こった場合は跡部に連絡するように言われているため、そろそろ頼るときだろうか。

放送室の扉を開けっ放しにして途方に暮れるナツの姿を、偶然通りかかった一人の男子生徒が見つけた。



「お困りのようだね」
「ああ、乾さん。ちょっとコードの配置がわからなくて」
「なるほど」



中を覗いてコードの配線を見、乾は一人頷く。

彼女がこういったものに精通しているのなら話は別だが、その可能性はさきほどの困り切った顔を見る限りないだろう。

ちょうど時間も空いているため、手伝いを申し出る。

ホッとしたような彼女の笑顔を見て、乾もまた口元に笑みを浮かべた。

機器とコードの繋がり方をざっと確認した後、乾は迷うことなく手を進める。

このコードはそこに、こっちは音声の方。

小さくつぶやきながら作業を進める乾に、ナツは声を掛けることができない。



「…しかしよくこんなに複雑なものを繋げようとしていたね」
「跡部さんは業者に頼めばいいの一点張りだったんですが、一度くらい自分たちの目で見ておいた方がいいかと思ったんです」
「なるほど」



効率を重視する跡部に、それだけではないと主張するナツ。

二人の組み合わせは、この学園祭の中で重要な役割を担っている。

どちらかに偏っても、きっと崩壊する。

単純に天秤にかけられればいいのだろうが、そういうわけにもいかない。

複雑な事情が絡み合い、この学園祭は成り立っているのだろう。



「成功率は70パーセント。さて君はどうするのかな」
「あと30パーセントですか…」



最後のコードを繋ぎながら、乾は小さくつぶやいた。

その呟きに反応したナツに、彼はまた一人笑った。





回線コード

―乾貞治の推察

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