ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 45-灯火


気が付いたら真っ暗だった。

他には何の説明もしようもない。

記憶にあるのはちょうどいい室温に保たれた部屋で昼寝をしていたことだけ。

しかし空がよく見えていたはずの窓のブラインドは閉められ、部屋の中は真っ暗。

窓に近寄って確認してみれば、隙間から漏れるのは月の光だけ。

月光といえどもあれば心強いもので、ブラインドを上げれば柔らかい光が明るい金髪を照らす。



「……俺、寝すぎた?」



しっかりと回ってはいない頭で辺りを見渡すも、当然のごとく誰も答えはくれない。

どうやらさきほどまでエアコンは機能していたようで、夏の夜とはいっても室内は蒸し暑くはない。

しかし既に動きは止まっているため、これから徐々に暑くなっていくのだろう。

寝るのは好きだが、寝苦しいのは御免である。

部屋を出て廊下に出てみるも、点いているのは非常用の電気だけ。

薄暗く、少し気味が悪い。

そういえば、昼寝を始める前にもナツに注意されたような気がする。



「芥川さん、休憩もいいですけどあまり寝すぎないようにしてくださいね」
「えー、なんで?」
「この施設、時間を過ぎると完全無人になっちゃうので次の日まで出られなくなっちゃうんですよ」



もしかすると、もう無人になっている時間なんだろうか。

エアコンの電源も落とされていた上、宿泊設備が整っているわけでもない。

明日の朝までここから出られない、となったのならば無駄に動くのはよくないかもしれない。

いっそここで寝れるだけ寝てしまおうか。

とんでもない開き直りをし始めた芥川の耳に、誰かの声が届いた。



「おい、ジロー!どこにいるんだ?」
「たしか私が最後に見たのはこっちの教室で……あ!」



声のした方を振り向けば、一つの光が浮いていた。

こちらに向けられた光に目を細めていると、コツコツという足音が鳴り響いた後に目の前で止まる気配がした。

うっすらと目を開けてみれば、そこには彼女がいた。

氷帝という学校は同じだったものの、この学園祭まではあまり話したことのなかった女の子。

眠ってばかりいる自分を怒るだけでなく、時に見守ってくれる人。



「あーっ、ナツちゃん!」
「芥川さん、あのまま寝てたんですね?」
「ナツちゃんに見つけてもらってうれC!」
「ちょっと芥川さん!」



暗闇の中から現れた彼女の腕を掴み、ぶんぶんと大きく振る。

真っ暗な世界からの脱却。

まるで救世主のように現れた彼女に、芥川は満面の笑みをこぼした。





灯火

―芥川慈郎と暗闇

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