ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 39-心理テスト


他人を怖がらせるとはどういうことなのか。

たとえ学園祭の一つの出し物であったとしても、妥協することは許されない。

この信念のもと、不動峰のテニス部員たちはさまざまな図書館に散った。

そしてそれぞれ手当たり次第に本をかき集め学園祭会場に戻ってくると、その本の数は膨大な量であった。

その一つ一つを見ていくのはなかなか億劫なものであり、なるべく本を厳選しようと作業を開始すれば、多様な本が出てくる。

どれも「心理的なもの」という共通点はあるものの、怖さと関係あるのかどうかは疑問なものばかりだ。

それらの本を見ながら、部長である橘桔平は大きくため息をついた。



「お前らなあ…心理テストの本なんて借りてきてどうするつもりだったんだ?」
「あ、その本借りてきたの俺です。ちょっと暇つぶしになるかなあ、って」
「女子がそういうの好きなイメージあるなあ、そういうのやって何が楽しいんだろ。よくわかんない」
「はあ?楽しいだろ、心理テスト!」



反対側に座っていた神尾が手を挙げ、その隣に座っていた伊武が静かにぼやく。

作業の手を停めて心理テストについて小さな喧嘩を始めようとする二年同士に再びため息をつき、橘は淡々と作業を進めた。

何度か他の部員たちも手伝いに来てくれた結果、午後になればだいぶ本の厳選作業も終わってきた。

もちろん心理テストの本は却下である。

お昼を過ぎてから作業に付き合っていたナツは、最後の一冊を仕分けた後に隣にいる橘を見た。



「これで終わりですか?」
「ああ、わざわざ手伝ってくれて助かった。あとは俺たちでなんとかなりそうだ」
「あ、やっぱりこの本ダメなんですか?面白いと思うんですけどね」
「あれ、それって心理テストの本なんですか?」
「そうなんですよ!あっ、もしかして一色さん興味あったりします?」
「そこまで熱心にってわけではないですけど、暇つぶしにやると面白いですよね」



返却に振り分けられた本の中から一冊取り出し、神尾は残念そうに眉尻を下げる。

手にしたのは、もちろん先ほどの心理テストの本。

そのタイトルを見たナツが興味を示し、神尾のところへと近づいた。

いくつかの心理テストを覚えて、誰かに試してみたいという気持ちが強いようだ。

二人でああでもないこうでもないと話しながら本を覗きこむ様子をちらりと横目で見た後、口を開いた人物がいた。



「あー…なんだ、その心理テスト、ちょうどいいから皆でやらないか」
「ええっ、さっきあんなに否定したくせに…いてっ!」
「うるさいな、アキラ。橘さんが皆でやるって言ってるんだから皆でやろうよ。一色さんもいいでしょう?」
「私は全然いいですけど」



先ほどまでの対応とあまりに違いすぎるのではないか。

そう神尾が言い切ろうとすれば、橘からは視線で沈黙させられ、隣に座る伊武からも死角になる場所で思い切り足を踏んづけられた。

大丈夫ですか、と声を掛けてくるナツに苦笑いを返し、神尾はしぶしぶ本のページをめくる。

なんだか自分の扱いに納得がいかないが、全員で心理テストをするのも面白そうだ。

切り替えが大事だと自分自身に言い聞かせ、神尾は問題を読み上げ始めた。



「じゃあ第一問、いいですかー?…」





五問ほど出し終えたところで、本をパタンと閉じた。

全部で三十題ほどの心理テストが載っていたのだが、全員の要望で早々に打ち切られることになったのだ。

理由は簡単。

あまりにも的確すぎる、ということだ。



「まさかここまで当てられるとはな…自分の深いところを知られた気分だ」
「これ三十題もやったらプライバシーも何もあったもんじゃないと思うんだよなあ。まったく恐ろしい本借りてくるよなあ、アキラは」
「うーん…たしかにこれは当たりすぎて怖いですね」
「……責任を持って図書館に返してきます」



気楽に楽しむはずの心理テストが、まさかこんな結果をもたらすとは。

だいぶテンションの下がったメンバー一同が文化祭の準備をしばらく忘れて呆けていた姿は、周りから見ても異様な光景だった。





心理テスト

―不動峰のメンバーと休憩

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