▽ 37-ジョウチョウフアンテイ
六角中男子テニス部は家族と呼ばれるほど仲が良い。
その仲の良さは、他校の中でも話題になるほどだ。
「この柵を作るのはいい策だ…ぶっ」
「こら、ダビデ!」
彼らにとって父のような存在である黒羽春風。
くだらないダジャレを言う後輩には毎回突っ込み、必要とあらば場を盛り上げ、人の話も真摯に聞く。
まさに好青年といった男子である。
その性格はこの学園祭準備でも遺憾なく発揮されており、他校のメンバーや運営委員からの信頼も厚い。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ。えーと…」
「中立運営委員の一色ナツです」
ナツに初めて会ったとき、礼儀正しい子だと思った。
声にも張りがあり、聞き取りやすく、この女子ならば学園祭のことも頼りになるだろうと予感していた。
その予想は見事に当たり、彼女は黒羽の信頼をあっという間に掴み取っていった。
同時にまた、彼女も黒羽への信頼を募らせていった。
頼りになり優しく、豪快な部分もあるが爽やか。
自分の本来の所属である氷帝にはいないタイプのため、黒羽と話すのも新鮮である。
「黒羽さん、お疲れ様です」
「おう、一色か。きょ、今日も良い天気だな」
「そうですね」
しかしこのところ、彼の様子がどうもおかしい。
目も合わせず、違うところを見てばかり。
どこか自分の格好におかしいところがあるのかとナツがキョロキョロとしていれば、慌てたように彼は取り繕った。
「あー…まあ、なんだ。急いでないならゆっくりしてったらどうだ?」
「じゃあお邪魔します」
「あっ、ナツさあん!来てくれたんですね!」
「こんにちは、剣太郎君」
少し気を抜けば、彼女はあっという間に別のところに視線を向けてしまっていて。
先ほどまで自分にだけ向いていた彼女の視線が名残惜しいなどと言いだせるわけもなく、黒羽は剣太郎の話に付き合っているナツをちらりと横目で見る。
すると彼女もこちらの視線に気が付いたようで、剣太郎の話が一段落するとこう声を掛けた。
「黒羽さんも日陰で少し休憩しませんか?熱中症になったら困りますから」
「おお、そうだな」
「なあんだ、てっきりバネさんが顔赤かったのってナツさんが来た…ぶふっ」
「剣太郎!」
先に行ってスペースを取ってくれている彼女には聞こえていないようだったが、黒羽はダビデに突っ込むのと同じような勢いで剣太郎の頭をたたく。
同時に自分の頬を手の甲でちらりと触ってみると、その熱さに自分でも驚く。
日向にずっといた暑さなのか、それとも―…。
そこまで考えて頭を小さく振り、黒羽は彼女の元へと進んでいった。
今は学園祭の成功を、何よりも考えなければ。
彼女への思いについては、それが落ち着いてからまた考えよう。
ジョウチョウフアンテイ
―黒羽春風の隠した恋心
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