ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 32-生まれ変わるなら


どこからか声が聞こえる。

か細いながら、甘えたような声。

そしてもう一つ、それに対して柔らかい響きで答える声も。

ふと足を止めてその声の方に近づけば、さらに大きく二つの声が聞こえた。



「ミー」
「…しっ、誰か来ちゃうじゃん」



茂みの裏に身体を隠すかのように、声をひそめて話す人物を発見。

その人物とは青春学園の一年生ルーキー、越前リョーマ。

そして彼の腕の中には…



「可愛い猫だね」
「うわっ!?……ってアンタか、びっくりさせないでよね」



ビクリと一瞬縮むかのような驚きを見せた後、リョーマは安心したように息を吐いた。

腕の力を思わず強めてしまったせいか、猫の方も一瞬目を見開いたのちにすぐに目を閉じた。

そのまま眠りに落ちる猫を、リョーマもナツも見つめる。



「迷子?」
「わかんない。さっき見つけたばっかりだし」
「それにしてはずいぶん懐いてるね」



腕に抱かれて眠るその表情は、まさに安心そのもの。

この関係性がまさか、つい先ほど出会ったばかりのものとは思えない。

くすぐるように猫の頭を撫で、ナツは小声で続ける。



「リョーマ君、動物に好かれやすいんだね」



二人並んで、体育座り。

その距離は肩が触れるほどに近い。

加えて猫を起こさないようにという意味での小声が、耳にかかるようでくすぐったい。

芝生に手をつき、ナツは空を見上げる。

太陽の眩しい夏空。

ジリジリと焼くような日光に目を細めるも、時折風が心地よい。



「来世は猫に生まれたいなあ」
「…いきなり何」
「ん?いやいや、日向ぼっこしてゴロゴロして過ごしたいなあって」
「まだまだだね」



呆れたようにリョーマが言うと、ナツはクスクスと笑った後にこう言った。

じゃあリョーマ君は、と。

リョーマは腕の中の猫に視線を落とす。

その視線に気づいたのか気付いていないのか、ちょうどそのタイミングで猫は目を開き、もぞもぞと動き出した。

腕の力を緩めれば、するりと芝生に降り立ち、今度はナツの腰にすり寄った。



「ん?リョーマ君じゃなくて私でいいの?」



ふわりと抱え上げた猫を抱きしめると、ナツは朗らかに笑う。

そして猫に対して視線を合わせ、何やら笑顔で問いかけている。

もちろん通じているはずもないのだが、猫の方も嬉しそうな鳴き声を上げているから不思議だ。

ナツに抱きかかえられた状態の猫をちらりと横目で見た後、リョーマは視線をズラした。

猫の少し上にある、横顔に。



「…俺も猫がいいや」
「やっぱりリョーマ君も日向ぼっこしたいんだ?」
「いや違うから」



理由なんて言えるはずがない。

彼女の柔らかい視線を独占したいから、なんて。





生まれかわるなら

―越前リョーマと猫と彼女

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