ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 23-忘れないで


携帯に電話を掛けてみても出ない。

鳳も彼がどこに行ったか知らない。

結局彼抜きで始まり、そして終わったミーティングの後、ナツはいこいの広場で彼を見つけた。

涼しそうな木陰の下で、木の幹に背を預けるようにして座っている。

帽子で目が見えないものの、あれは寝ているに違いない。

怒りたいような微笑ましいような気持ちが心の中で渦巻きながらも、ナツは彼に近づいた。



「宍戸さん」
「…………」
「しーしーどーさーん?」
「……わりい…もうちょい寝かせ…て…」
「…激ダサですよ、宍戸さん」
「…なっ、誰が激ダサだ………ってうお!?」



目の前にしゃがみ込むようにして名前を呼んでいると、寝ぼけた彼がわずかに目を開けた後に丸く見開いた。

同時にのけ反ったために、木の幹に頭をぶつけてしまう。

「うわ、俺、激ダサ…」と頭を軽くさする彼は、宍戸亮。

少しの間顔をしかめていた後、宍戸は目の前のナツに視線を合わせた。

しかし真っすぐには見ていられない様子で、ちらちらと別の場所に視線を動かしている。

頬がほんのりと赤い。



「…で、どうしたんだ?なんか手伝える事あるならやるぜ。午前中暇だった分、午後はたっぷり働くからよ」
「……宍戸さん、忘れてたんですね」
「は?」



ナツの言葉にようやく目を合わせた宍戸は、ワケがわからないとでも言うかのようにナツを見たまま。

ナツは苦笑して続けた。



「今日の午前中はミーティングあったんですよ。昨日の夕方に跡部さんがメールしたと思うんですが…」
「…まじかよ」



宍戸は傍らに置いてあった鞄からおそるおそる携帯を取り出し、開いてから大きくため息をついた。

「悪い、携帯見てなかった」と小さく呟き、ナツに画面を見せる。

たしかにそこには未開封状態のメールが一件あった。

そのメールを読み進めて携帯を閉めた後、宍戸は何気なく呟いた。

目の前で「これからはちゃんとメール確認してくださいよ」と笑うナツをちらりと見ながら。



「…お前が直接言ってくれたら、ぜってえ忘れない気がするぜ」
「ん?なんでですか?」
「な、なんでもねえよっ!」



何言ってんだ、俺!?

顔を真っ赤にした宍戸は鞄を掴み、ずんずんと歩き出す。

その後ろ姿を見て、ナツも慌てて追い掛ける。

宍戸の頭の中では先程までのナツの会話が思い出されていた。

彼女の笑顔と共に。





忘れないで

―宍戸亮の淡い想い

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