ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 11-データ


「一色さん」
「どうしました?」
「データはすべてだと思うかい?」



全校の様子を見て回り、運営委員の会議室に戻ろうとしていたときだった。

施設の廊下で偶然出会った乾が神妙な面持ちで聞いてくる。

まさか乾さんにデータのことで聞かれるとは…―

ナツの中で青学の乾貞治、立海の柳蓮二、そして聖ルドルフの観月はじめはこの合同学園祭での三大データマンという位置付けになっている。

そのうちの一人にデータについて聞かれたのだ、若干慎重に口を開く。



「すべて…とは言えないんじゃないでしょうか」
「ほう」
「規則性とかそういうのが分かれば楽だと思いますが、人間関係とかはデータは通じないと思ってます」



なんてデータマンの前で言っていいんだろうか、と思いちらりと乾を見遣れば、怒った様子もなくノートにメモをとっていた。

しかし乾がデータについて聞いてくるとは一体…



「何かあったんですか?」
「いや…まあ、あったな。今回ばかりはデータも役立たない」
「まったくですか?」
「断片的に役立つが、最終的には自分でタイミングなどを見極めなければならない」
「…大変ですね」



深くは聞かず、ナツは相槌を打つ。

メモをあらかた取り終えた後、乾は引き止めて悪かったね、と言いナツに背を向け歩き出した。





「…というわけなんだが」
「貞治がついに…そうか、彼女はそういう考えの持ち主か」



乾が立海のブースを訪れれば、ちょうど用のある人物である柳が休憩をしていた。

そして用件を伝えると、柳はカリカリとノートに何かを書き込む。

立ち話と言えど、お互いがノートを持って話す姿は微妙に浮いていた。



「だが俺はこのようなデータ無しの駆け引きには慣れていない…という不安を言いに来ただけだ」
「成る程」



柳は穏やかに頷き、隣の乾を見る。

自分が引っ越しをして乾と連絡を取り合わなくなり、何年か経ったとはいえ乾からこんな悩みを相談されるとは。



「お互い成長したようだな」
「なんの話だ?」



怪訝そうに眉を潜める乾に、微笑を浮かべたまま首を振る。

そして薄く目を開き、そっと忠告した。



「だが気をつけるんだな、貞治」
「気をつける…?」
「彼女に好意を寄せる男は多い、ということだ」



自分もその一人、とは柳は付け足さない。

乾は柳の忠告に頷き、神妙な顔でノートに何かを書き込んだ。

柳のことを疑う様子は微塵もない。



「…まだまだだな、貞治」
「…?」



こう呟けば、貞治は驚いたような顔で「うちのルーキーの真似か?」と聞いてきた。

嗚呼、青学の一年ルーキーもたしか同じような言葉が口癖だったな…―っと



「違う」



そうだ、俺はそんな真似をしたかったわけではない。

どこまでも俺のことを疑わない貞治は、意外と抜けている。



「ライバルはお前の目の前にいるだろう」
「目の前?目の前とは…まさか」



そこでやっと乾は柳の顔をハッと見る。

どうやらやっと柳の意思に気付いたらしい。

そんな、とかまさか、とか珍しくうろたえた様子で呟く乾を柳はノートをパタンと閉じて開眼状態で見据えた。



「健闘を祈るぞ、貞治」



そう言い残し去っていく幼なじみ。

今回は柳の方が一枚上手だったようだ。





データ

―乾貞治と柳蓮二の頭脳戦

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